水龍公爵の落とした爆弾
パーティーが始まった。
僕と母上は火龍公爵とオリバー殿に挨拶したあと、他の貴族とどうでもいい挨拶大会になった。王家用の特別席は用意されているのだが、そこへ行くまでに囲まれてしまったのだ。
王城でのパーティーのときは、僕も母上も必要最低限の挨拶と付き合いしかしていない。まあ、たまには仕方ないだろう。
それに僕は今まで、なるべく貴族的付き合いから距離を置き、派閥争いに巻き込まれないよう注意してきた。だけど……火龍公爵家と今後も付き合う気持ちがあるならば、それなりに勢力図を把握し対策しておいた方がいい。この際、顔と名前をきちんと覚えておこう。
ついでにずらずらと連なる幼いご令嬢方まで覚えきれるか、あやしいけれど……。
愛想笑いのしすぎで頬が痛くなってきた頃、会場がどよっと揺れた。
何かと思って周囲を見渡したところ……火龍公爵の前に水龍公爵がいる。常に無表情な水龍公爵がやや笑顔らしきものを浮かべていたので、僕も自分の目を疑った。
(アリッサ……何をやったんだ……!)
会場中の視線が二人の公爵に集まる。妙な静けさが訪れた。
「───アリッサ嬢は素晴らしいな。エリオットもクローディアも彼女と親友になれて良かったと言っている。……マクシミリアン閣下。今後ともよろしくお願いする」
「ああ。……こちらこそ」
火龍公爵がぎこちない調子で挨拶を返した。いつもは余裕があって泰然としている公爵があの様子だ。彼にとっても水龍公爵の友好的挨拶は予想外だったのだろう。
ザワザワとざわめきが広がり始めた。
アリッサが水龍公爵家へ行ったことは、もう噂になっている。もしや、エリオットとアリッサが?と皆が思い始めたのだ。
幾つかの視線が僕の方に向く。
これまでアリッサと僕は婚約するだろうという見立てが大半を占めていたが、今、初めてそれが揺らいだのだ。
うーん、やばい。ここにいると、面倒な事態になるぞ。
「殿下。この後のダンスは、ぜひ我が娘と……」
「そちらのご令嬢はまだ満足に踊れませんでしょう。うちの娘はどうですか、殿下」
思った通り、数人の目がぎらりと光って迫ってきた。
どこへ逃げればいいかな……。
そのとき、コーデリア様が来られた。
「イライザ様!アルフレッド殿下!こちらで一緒に話しませんこと?南国から取り寄せたら珍しい果物がございますの。アリッサが、イライザ様の好みではないかと言うものですから」
「まあ、それはぜひ食べてみたいわ。アリッサには、この間フランドールのチーズを頂いたの。あの子は本当にいい子ね。わたくしが故郷の味を懐かしんでいるのではないかと心を配ってくれたみたいで」
……上手いな、コーデリア様も母上も。
これで、どちらが本命か、周りは分からなくなったことだろう。




