無心に花火を上げるのは意外と楽しい
夏至祭の日になった。
四節の一つなので、この日も朝から白い祭服で地下の祭祀殿へ。ただ、春華祭に比べると短い時間と少ない魔力で神事は終わる。
今日は終わってからベルフォーク大公に絡まれた。たぷたぷのバンフォード大公やカマキリのソーンウォール大公と比べれば、なかなか怜悧な美貌の御仁だが、病的に色が白く表情筋が(たぶん)死んでいるので、“蝋人形大公”と呼んでいる。
ちなみに、大公は全員で5人。
残る二人は、常に暑苦しいギラギラ大公ことノウリック大公、気持ち悪い笑顔をいつも張り付けているニヤニヤ大公ことガイバーグ大公だ。
「ここ数ヶ月で、体が大分変わったな」
「そうですか?」
ゆったりした作りの祭服を着ているのに、体が変わったなんて分かるものだろうか?というか、もし、それが分かるくらい今まで観察されていたかと思うと気持ち悪い。
「まあ、成長期ですから」
思わず嫌悪感が顔に出そうになったので、無難な答えを返してさっと蝋人形大公から離れた。
血縁者のはずなのに、大公達はどうしても好きになれない。大公同士も決して仲は良くないと思う。
アリッサのところのように仲の良い家族は、僕にとっては幻だ。
午後は少し部屋で寛いで過ごし、夕方から今日一番の仕事が始まる。
花火を上げるのだ。
夏の神トロアは賑やかで派手なことが好きな神だという。なので、トロアに花火を捧げるのである。
また、花火の大きな音と光で驚かせて疫病を祓うという意味もあるらしい。
大きく美しい花火を上げるのは難しい。火と風の二つを上手く操らなければならない。
去年はあまり綺麗な球形にならなかった。今年は、綺麗な球形はもちろん、途中で色が変わるような花火を上げるつもりだ。でも、相当集中しないといけないので、幾つも上げるのは無理だろうと思う。
なお、この行事についてはジグとラミアの二人が妙に張り切る。どちらがより派手で大きくて美しい花火を数多く上げられるか、毎年、競っているらしい。
大公達はショボい花火しか上げられないので、ジグ達が張り切ってくれるのは有り難い話だ。
───目一杯集中して、去年よりは満足のいく花火を上げたあと、ザカリーのじっとりとした視線に気付いた。
ザカリーはまだ花火を作り出せない。だからといって、僕を睨んでどうにかなるものでもないのに。




