僕の魔術教師
恐らく手加減されているが、この頃は剣の打ち合いがマシになってきた。腹筋も筋が入り、硬くなっている。
嬉しい。
だが、母上から「アル……筋肉ムキムキは嫌……」と何度も訴えられるようになってきた。
ムキムキにはまだ程遠いのだが……そもそも僕は、母上好みなほっそり色白お人形男子を目指す気はない。
なのできっぱりそう告げたら、母上はわざとらしくハンカチを目に当てながら泣き真似をした。
「やっぱり男の子は、好きなコが出来ると簡単に母親から離れていくのね……」
……僕が体を鍛えているのは、単に僕が強くなりたいからだ。そこに恋愛要素は一切入っていないのに、母上は何を言っているのやら。
僕の魔法の授業は、ウォーレン・バンクスという闇魔法の使い手が教師をしている。
黒髪で青白い顔をしたウォーレンは対人恐怖症の気があるのだが、僕の顔が彼の弟に似ているとか訳の分からない理由で、勝手に魔法の教師を名乗り上げた。周囲の多くは反対したのだが、結局、ただ城で遊ばせておくのも勿体ないということで許可が出た。
なにせ彼は稀な闇魔法の使い手であることに加え、魔力量も凄まじいのだ。下手をすると国に対する大きな脅威である。そのため、隷属の首輪が付けられ、王城の一画に囚われているのだが……とにかく人見知りが激しく、籠りがち。僕の魔法教師として部屋から出てくることで生存確認をしているような存在である。ちなみに、四節の儀式に参加している一人だ。
「ア、アル……、き、今日は……水魔法のあ、新しいものを……覚えよう」
長い前髪に隠れた灰色の瞳が、落ち着かなげにきょろきょろと彷徨う。ウォーレンは視線を合わせて話すのが苦手だ。
「そ、そういえば……春華祭……ヘンだった、ね……」
春華祭が変?
何か変だったろうか。
「魔力……す、少なくて済んだだろ?」
「そういえば……疲労感がほとんどなかった。ジグやラミアがやる気を出したのかい?」
「う、ううん……ふ、二人とも……はじめか、から、寝てた、よ」
ジグとラミアも、ウォーレンと同じく魔力量が多いため儀式に参加している二人だ。
ウォーレンによると、この二人はほぼ儀式を手伝ったことがないらしい。それらしいポーズでやっているフリをしているだけなのだとか。
「僕やザカリーの魔力量が急に上がるはずもないし。何があったんだろう」
「わ、わから……ない……。で、でも、今年は……だ、大豊作の年に……なる」
「ふうん……」
ウォーレンは暇な時間に王城の書物を読み漁っている。王族以外、触れてはいけない禁書も読んでいることを知っている。
そのウォーレンが分からないというなら、王宮魔術師にも分からないだろう。とりあえず、今後も魔力量が少なくて済むなら、ありがたいのだけれど……。




