全然、食事が美味しくない…
儀式が終わり、白い祭服から着替えたら、食事会だ。別に大公達と一緒に食事をしなくてもいいのではないかと思うが、儀式終了後の饗までが毎回セットになっている。
「アルフレッド。最近、火龍公爵家や水龍公爵家と親しくしているそうだな」
バンフォード大公がねっとりとした口調で話しかけてきた。よく言えば貫禄のある、有り体に言えばでっぷりと太った御仁である。ウィリアムと二人で“たぷたぷ大公”とこっそり呼んでいる。
僕は淡々と答えた。
「ちょうど僕と年齢の近いご令息、ご息女がおられるので、茶会に招かれただけと思います」
「ほう?火龍公爵家の娘とは婚約の話も出ていると聞いたが……フィリップ、違うのか?」
話を振られたのは父上だ。
バンフォード大公は父上より二つほど年上だからか……公式の場でも時折“陛下”ではなく名を呼ぶ。聞いていて不快だが、父上は訂正したことがない。
今も父上は穏やかな顔でバンフォード大公に答えた。
「そのような話はありませんよ、バンフォード大公」
「紅髪のとても魅力的なお嬢さんだとか」
「なかなかの才女らしいですねェ。アルフレッドには勿体ないお嬢さんじゃないのかな」
割り込んできたのは、ソーンウォール大公だ。こちらは細身で神経質そうな顔付きをしている。カマキリに似ているので、呼び名は“カマキリ大公”だ。
「ふむ。まあ、アルフレッドは賢い子だ。自分に相応しいご令嬢かどうか、分かっているだろう?」
まったく、たぷたぷ大公は目付きも嫌らしい。
とりあえず、僕にはくだらない腹の探り合いに付き合う義理はない。
無難ににっこり笑って子供っぽいフリをする。
「婚約の話なんて、正直、僕は興味がありません。今は馬に乗ることが楽しくて。最近、ようやく障害が飛び越せるようになったんですよ」
「ほう?馬に乗るようになったのか」
「じっと机に座っているより、外で運動している方が性に合うようです」
「ふん、お前もまだまだ子供だな……」
満足したのだろう、バンフォード大公は軽く鼻で笑い、今度はマーカスに話し掛ける。
ソーンウォール大公の粘ついた視線がまだこちらに向いていたが、僕は素知らぬ顔で食事を再開した。
……はあ。大した後ろ楯もない第二王子の動向なんぞ、気に掛けずに放っておけばいいのになぁ。




