長い祈りの時間が始まる
城の中心、基礎部分の地下には大きな祭祀殿がある。基本的に王族しか入れない禁域だ。
地下とは思えぬほど広く、天井の高い空間である。熱を持たない魔導灯が随所に設置されているので、白い祭祀殿全体は幻想的に照らされている。
祭祀殿中央には大人ほどの大きさの魔石が宙に浮かび、それを軸として床には巨大な魔法陣が描かれている。
ここで行われるのは、重要な四節の儀式だ。
王族は大体、4~6才くらいで参加する。
僕は魔力量が多かったので、4才から始めた。
明日は四節の一つ、春華祭の日。前日の夜からここで祈りを捧げる。
祈りと言うが、膨大な魔力を使う儀式なので、例え魔力量が多くてもなかなかハードである。数日前から潔斎による質素な食事のせいもあって、終わった頃にはぐったりだ。
去年、初めて参加したザカリーは途中で倒れた。今日も不機嫌な顔をしているので、きっと去年のことを思い出して嫌な気持ちになっているのだろう。……まあ、ザカリーはいつも不機嫌そうな顔をしていることが多いのだけど。
ちなみに王族は儀式で早くから魔力を使うので、一般的には10才から始める魔法の訓練を3才から始める。ザカリーは、魔力量の割りに魔法の扱いは下手らしく、他の授業より魔法学に時間が割かれていると聞いた。反対にマーカスは魔力量は少ないものの魔法のセンスが優れていて、中級に進むまでがかなり早かったらしい。
なお、四節には大公も加わる。
大公とは一代限りの爵位で、父上の兄弟である伯父(叔父)達に与えられているものだ(大公の子は、侯爵位を賜る)。
その大公達は、ややもすれば国王である父上より尊大な態度だが……大公の地位はあくまで国王のスペアという意味しかないのだと僕は思っている。このブライト王国において、国王に次ぐ地位は、四大公爵のみだ。
春華祭が始まった。
全員が真っ白な衣装で身を包み、魔法陣を囲む。
この儀式は王族のみが原則だが、実は三人だけ王族ではない者が参加している。深くフードを被り、仮面をつけた三人がそうである。
百年ほど前から、王族も貴族も魔力の低下が見られるようになった。だが、四節の儀式には膨大な魔力が必要となる。そのため、桁違いの魔力を持つ者が儀式に加わることとなった。ただし、彼らには地下の詳細が分からぬよう視界を塞いで。
───父上が始まりの古い言葉で語り始めた。
中央の魔石がほんのりと光る。僕らも両手を組み、父上のあとに続く。
さあ、ここから長い祈りの時間だ。




