アリッサ嬢が誘ってくれるなら
エリオット達とのゲームお茶会のあと、少しだけアリッサ嬢と二人で過ごす時間が出来た。
ゲームをしながら自分の頭の固さを自覚したので、「僕も次のゲーム時は冒険者ルートへ進もうかな」と言ってみたら、彼女は本当の冒険へ行きたいのだと驚くようなことを言い出した。でもそれは危険度が高いから、代わりに隊商について各国を回りたいと。
しかも、世界一周したいらしい。
……アリッサ嬢なら、行くだろう。
回りが駄目だと言っても、どれほどの困難があっても、彼女が本気になったら何も障害にならないに違いない。
「……公爵家の娘なのに」
「でもべつに、わたしは公爵家を継ぐわけじゃないですし。お兄さまもお姉さまもたくさんいるので、わたし一人くらい好きに生きてもよくないですか?」
好きに生きる?
突然、母が以前に言った言葉が耳に甦った。
―――アルは、自分でやりたいと言ってやったことは何かあるかしら?
僕は、アリッサ嬢に対抗するようにあれこれ始めたけれど……やっぱり今も空っぽのままだ。中身なんてない。好きなことって何だ?“僕”という人間の核は、どこにある?
王位に興味はなくても、王族の身分を捨ててまでどこかへ行こうとも考えていないし。
ああ……。
こんな僕が、アリッサ嬢の関心を引こうなんて……そもそもが馬鹿げているのかも知れないな。
急に何もかも自信がなくなってしまったら、アリッサ嬢が手を握ってきた。
「殿下も一緒に旅にいきたいなら、いきましょう!」
……ビックリした。
まさかアリッサ嬢からこんな誘いをしてくるなんて。
今の僕の世界は狭くて閉じているけれど、アリッサ嬢が手を差し伸べてくれるなら……無限に広がりそうな気はする……。
この誘いは、アリッサ嬢のただの気遣いかも知れない。だけど……僕はその手を取りたい。
そのために、もっともっと、僕は変わっていかなければ。
―――王城への帰り道。
ウィリアムが「僕も人生ゲーム、してみたかった~」と言い出した。後ろで見てて、うずうずしていたらしい。
人生ゲームは近いうちにカールトン商会で販売するそうだから、そのときはすぐに買おうと約束した。
ああ、そういえば。
アリッサ嬢に言われて初めて気付いたのだけれど。王太子のマーカスは僕の兄上なんだな。兄と弟がいるという意識がとても薄かったことを改めて知った。
人生ゲームを買ったら、一度、マーカスとザカリーを誘って一緒にやってみようか。今さら兄弟愛を深める気はないけれど、変わると決めたからには、僕は僕なりに世界を広げていかなくては。
いつか、王家を飛び出そうと思ったとき、気兼ねなく飛び出せるようにしておきたいしね。




