アリッサ嬢の好みのタイプは僕が知りたい
ふにふにしていた腕に筋肉がついてきて、ちょっと嬉しい今日この頃。
部屋で一人、歴史の勉強をしていたらウィリアムが分厚い本のようなものを持って入ってきた。
「なんだ、それは?」
「布地見本です」
あれか。
また母上が新しい服を作るんだな。
すぐに背が伸びるから仕方ないとはいえ、こう頻繁に服のデザインを考えなければならないのは、もはや苦行だ。同じデザインでいいと何度か言ったのだが、母上からは同じ服をずっと着回しているように見えるからみっともないと拒否されてしまった。
……僕の服装を覚えている者なんか、いないと思うのだけれど。
溜息をつきながら、歴史の本を脇へ置き、ウィリアムから布地見本を受け取る。
机に置いて適当な位置でぱっと開く。濃緑で薄くストライプの入った生地。うん、前回は白っぽい生地だったから、これなら問題はないだろう。
「じゃ、この生地で」
「適当ですね~」
「ウィリアムはいいよな、服が決まってるんだから。王子も制服制度にして欲しいよ」
「殿下が王になって、法律で決めたらいいんじゃないですか」
まったく、ウィリアムはたまに質の悪い洒落を言う。
「今度、母上にウィリアムが茶会で護衛するときの服を新しいデザインにしてくれと言ってやる」
「うわっ、止めてください~!イライザ様が関わるとフリルが付くんですもん……」
可愛いもの好きの母上は、リボンやフリル付きの服が大好きだ。おかげで僕が5才になるまでの服は本当に酷かった。そして、護衛ならお揃いがいいとウィリアムもフリル付きの服を着せられたので……ウィリアムのトラウマは深い。
幼い僕ならまだマシだが、成人しているウィリアムにとっては晒し者に等しかっただろう。
「……ところで、カールトン邸でお茶会が開かれるらしいんですが」
「カールトン邸に限らず、茶会を開いている家は多いと思うが」
「───水龍公爵家のエリオット様が行かれるそうですよ~。火龍公爵と水龍公爵は仲が悪いのに、どうしたんでしょうね」
ウィリアムは何を言いたいんだ。
「年齢も近いし、一度顔を見ておこうといったところだろ」
「エリオット様、小さなご令嬢の間で人気らしいですねぇ」
「……だろうな」
エリオットは顔がいい。
頭も良いらしい。
あまり喋らないし笑わないが、その玲瓏とした容貌と相俟って神秘的な雰囲気が良いと聞いたことがある。何より、次期水龍公爵である。僕のような強力な後ろ楯もない微妙な立場の第二王子より、断然、人気の物件だ。
「アリッサ様、エリオット様とどんな話をされるんでしょうね~」
「ウィル?言いたいことがあるなら、はっきり言って欲しいんだが」
「アリッサ様も美形好きだったりするのかな?と」
「……彼女は顔で選ぶタイプじゃないだろ」
「すっかりアリッサ様を理解しているような口振りですが。どういうタイプが好みだと思われているんです?」
それが分かるなら苦労はしない。僕はウィリアムから顔を逸らした。
「彼女の好奇心を刺激する人物じゃないか?」
「なるほど……」
祝100話目~!
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