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『祈り』

 いきなりのグロ光景に驚き、しかしそれで俺たちの感情は止まる。というのもそこから血や臓物が飛び出ているわけではないのだ。人体をプレスし、その上から腐らないよう透明な膜をコーティング。加えていくつもの塩の枝のようなものが差し込まれているその姿は。

 

「芸術……というよりは宗教?」


 そこにはただの暴力ではなく何らかの意図が感じられた。それも死者を冒涜するようなものではない、少なくとも実行者にとっては。


 だから謎だった。ここ未来で科学技術モリモリ企業の圧政が極まった世界のはずだ。ここにくるまで宗教のしの字も見ていない。……いや、きのこたけのこ戦争という二大宗派の戦いはあったな。じゃあこれで二例目だ。


『何これ』

『安価投げようとしたらそれどころじゃない件』


 掲示板の奴らも困惑している。どういうことか訳がわからず、とはいってもこのままでは何も始まらないので内部に入る。


 瓦礫山に偽装していたその内部はドーム状の巨大な空間であった。一面に緑が溢れ空には太陽に見せかけた巨大な電球が吊るされている。その中には数多のナニカが蠢いていた。無数の小さな点が自らの体を塩に変換される苦痛に身をよじらせている。


 禁忌兵装を部分展開し視界を強化する。虫だ。数多の虫が塩に変換されては修復するのを繰り返し、その電力で電球は光っている。内部のフィラメントや周囲を覆う透明なガラスが廃塩に変換されていないのは変換の範囲を制限しているからだろう。虫がその範囲に入るように風が内部を循環していて、苦しむ虫が再び地獄に身を投じる。


 そしてその下。先ほど見た人肉の柱だけではない。無数の柱が立っていた。喜びの表情そのままに顔をプレスされた柱。足ばかり集めたもの。あばら骨が規則的に並ぶ柱。全て3mほどのものである。それらの中心には奇怪な建物がぽつんと立っていた。


 元はビルだったのだろう。壁面には無数の蔦が這いまわっている。そして蔦の合間からは樹脂や金属の姿が見える代わりに白い肌が見える。廃塩だ。


「なんで廃塩があるのに植物が……?」


 ブルーが驚愕している。それはそうだ、俺達は今まで植物を見ていない。恐らく廃塩の毒性が高すぎて修復が追い付いていないのだ。まともに咲く事も出来ず死を繰り返す、この世界に適応できなかった生き物たち。


 それがいまここにいた。ぶうん、と聞き覚えのある音が耳元に響く。そこにはごく普通の代わり映えのしない、この世界で初めて見た蠅の姿。蠅は直ぐにこちらに興味を無くしどこかへ飛んで行った。


『状況整理プリーズ。ここどこ?』

『敗北した鎧装連合の隠れ里的なやつ。だからビル一個しかない』

『以前権兵衛の本社襲撃を手伝ってもらった時もこんなことはなかったぞ……? 人も数千人はいたし』

「権兵衛やっぱ鎧装連合とずぶずぶ?」

『ずぶずぶ。というか一時期は末端役員より権力あった』


 周囲の状況を映してみてもやはり状況は分からず。ただ一つ確定したことがある。ホワイトエンドミル社と同様ここも変化してしまっている。ただそれは単に衰退するわけではなく、異常な何かが発生したのだ。その結果全てが壊れてどうしようもなくねじれてしまったのだ。この人肉の柱を肯定的にとらえてしまうような状況に陥るまでに。


 そして当然隠れ里等と言うだけの事はあり、防衛設備はきちんとしているのだろう。しかしビルの入り口が開き現れるのは、武器一つ見せず穏やかな表情を浮かべる老人であった。


 80歳ほどだろうか。機械化の痕跡は外見上は見受けられない。しかしその全身に無数の縫い目があり本来盛り上がるべきではない場所、例えば手のひらや額などにこぶが出来ている。そして老人の後ろには双子の少女が控えていた。彼は笑みを浮かべたまま俺達に向かってゆっくり頭を下げる。



「そのA型、『不沈』殿のものですな。ようこそご客人、清塩教本部に」


 ……今からでも帰らせて頂けませんか。切実に。


『禁忌兵装』

A型B型など様々な姿が存在し、それらはコードネームの頭文字を取っているが正式名称は秘匿されている。A型は持ち運び性も考慮されており普段は極薄のリュックサックのような形で装着者の背中に圧縮、固定されている。

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