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『鎧装連合』

 鎧装連合。何度も聞いた名前である。一方でその存在が一体何なのかはあまりよく理解できていないというのが実情だった。


「第3次企業群戦争後に成立した組織です。戦後の企業順位2位から6位が統合し生まれました。性質上雑多な文化が混ざり合い一貫性のない企業だったと記録されていますね。ただ名称通り兵器、特にパワードスーツの製造においてはホワイトエンドミル社を大きく突き放していました。禁忌兵装を製造したのもここです」


 ブルーが飛翔空機の進路を変更しながらそう語る。機体はあと数日はもつらしく、転換砲に狙われないよう低空飛行を繰り返しながら進んでいく。塩雨で濡れた瓦礫の山が30分経っても1時間経っても淡々と続いていて、少し眠ろうと背もたれに体重をかける。ってやっぱりこの座席クソ硬いな! 人間が寝る事を考慮してんのかよ!


 仕方がないのでブルーが先ほど話していたホワイトエンドミル社とやらについて少し聞いてみることにした。ブルーはメモリを漁っているのか斜め上を見上げる。


「私も下級個体向け基礎メモリに入っていた程度しか知りません。プロパガンダとして如何に鎧装連合が非道かという情報だけはあるのですが」

「まあ禁忌兵装作ってたわけだし非道なのは違いないけど、お前が言うなと言う感じだよな」

「ホワイトエンドミル社と比べるとグラデーションがあったようですね。全員が電極を埋め込まれるようなことが無い一方で生まれた瞬間から解体用に分別される人もいたとか」

「未来は地獄だぜ……! まあ未来の変化が起きなければだけど」


 まあこの未来もどうなるかわからないのだろうけれど。既に無数の転移で時間はぐちゃぐちゃになり始めているらしいし、変化するかもしれない。というか名無しのチンパンジーによるホワイトエンドミル社解体とかやってくれないかのかな。未来技術使いまくってさ。


 ただそういう、過去を変えたから未来がするりと変わる、という状況でもないようなのは事実。だって現時点でもっとタイムパラドックスとか起きててもおかしくないのだ。俺の記憶に存在しないニュースが数多流れて来ても、あるいは急に存在が消えるのもありうる。


 そんな疑問に答えてくれたのが掲示板である。


『原因は本社の時間線体固定装置らしい。あれがこの時代に至るまでの歴史を保証してしまっている。だから転移と言う異常なイベントが後から来てもタイムパラドックスという補正が発生しない。結果その矛盾が時間線体を壊していく。奴らとしては時間のつじつまが合わない方が都合が良いんだ』

『ハッカーさん!?』

『無事確認。人造人間に確保されてなかったか』

『今何してるんだ?』

「生存!」


 少しぶりに聞くその名前に安堵する。転移者だから死はありえないと理解していた。だが人造人間に捕まる、摩耗で行動を起こせず廃塩に埋もれたまま終わる等という可能性はあり得る。


『地下深くに隠してた隠密型飛翔空機使って逃走中。そのついでに掲示板のログを追いながら逆ハッキング対策の防護を再設定している。帰れる可能性がある状況で止まってられない』


 が、それは大丈夫なようで。やはり過労死一歩手間の作業を行っているようだった。摩耗を希望と使命感が押しつぶしているのだろう。それは他の人々も同じようで。


『本社への移動準備を開始中』

『やっぱ距離よりもその間にある防護膜と弾幕だよな。それさえ超えられれば飛翔空機とパワードスーツで押し切れる』

『問題は通信が届かないからハッキング不能という点。だから前みたいにスムーズなのは無理』

『誰かが中継機持ち込んでそのまま本社に突撃、通信を繋げるのが早そうではある』

『とりあえず俺は元太平洋に向かって走ります』


 そんな話をしながら実に30時間ほど走り続ける。楽しく話していれば案外時間はあっさり過ぎ去るようでいつの間にか目的地に着いたようだ。少しずつエラー音が増え始めた飛翔空機のモニターがアラームを流す。皆で回収に成功した漫画の電子データから渋々目を離す。


『これがハンターハンターの最終巻か……マジで神作だな』

『データ発掘してくれて本当に感謝だわ』

「俺の時代ではまだ完結してないんだけど、帰った後どんな顔して連載を読めばいいんだ?」

「ふわぁ、行きますよ」


 もう一周読み返したかったところだったがブルーに促されフードを深く被り直し外に出る。その場所は一見なんてことの無い瓦礫山の一つである。いつもの通り無秩序に詰みあがる無数の車や建物や機械の破片。その中の一つにブルーは手を触れる。すると車のふりをしていたそれがぶわりと色と形を変え扉となる。


 その先にあるのは緑だった。外の世界では全く見ることの出来なかった草原。蔦のような植物が有機物でできた柱に巻き付き花を咲かせている。


 俺は目を見開きブルーは息を呑む。その柱は人をプレスして出来ていた。潰された頭蓋骨の断面が俺達を無表情に見つめていた。……出迎えにしてはロックすぎませんか?

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