表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第13話「使い魔ラピノと片桐百合子」
97/181

13-1


市村の言葉に、俺の心拍数が早まった。計画は上手く進んだのだ。


「本当かっ!!?」


「ええ。でも、向こうもそのことに気付いてるかもしれません。証拠隠滅の恐れがあります、急がないと」


滝川峡谷はここから車で30分以上はかかる。正直、先に着けるかは自信がない。


ノアが『ふふん』と胸を張った。


『ここはあたしに任せて』


「任せてって、病み上がりだぞ?その秘薬とやらでそこまで回復したのか?」


『『ソルマリエ』は神族用の秘薬よ。本当にここぞという時にしか使われないの。『大転移』の時に、ジュリが使ったみたいだけど。

とにかく、これがあれば魔力枯渇なんてまず起きないわ。相当無理しても大丈夫』


「だが、魔法でどうするんだ」


『空を飛ぶわ。あたしが飛べるのは、知ってるでしょ?』


俺は頷いた。「イルシアチャンネル」がバズったのは、ノアが飛行魔法で上空からイルシア王宮を撮影した動画の効果が大きい。どう見ても特撮か何かにしか見えなかっただろうが、あれは種も仕掛けもない本物だ。

そして、空を飛べば信号待ちも渋滞も関係ない。直線で、最短距離で滝川峡谷に向かえる。飛行速度にもよるが、車より早く着けそうなのは疑いない。


だが、まだ問題はある。


「まあそうだが……ノア1人で行くのか?」


『それは大丈夫。トモなら運んでいけると思うわ』


「だが、俺は一応70kg以上あるぞ?本当に大丈夫なのか」


ノアが『へへ』と笑う。


『『魔紋』、見せたでしょ?あれで生涯を共にすることになった相手とは、魔術的な繫がりができるの。つまり、あたしに触れていれば、その効力がある程度その相手にも作用するってこと。

母様も父様を介して魔法使ってたし、多分トモにも同じことができるわ』


「それってどういうことだ」


『つまり、私が触れていれば飛行魔法の効果がトモにも出るってこと。だから体重のことは気にしなくて大丈夫』


あれにはそういう意味もあったのか。熱と「魔力枯渇」で正常な思考ができなくなってたからだと少し思ってたが、ちゃんと考えていたのかもな。


市村が「すみません」と手を挙げた。


「あの、僕も連れて行ってくれませんか」


『ん……気持ちは分かるけど。でもさすがに君を運ぶとなると、速度が……』


市村が目をつぶる。するとその姿は一気に薄くなり……代わりに1匹の白猫が現れた。


「これならどうですニャ?」


ノアの目が驚きで大きく見開かれる。


『えっ……猫??というか、ラピノ??』


「ご主人、そうですニャ!元気になって何よりですニャン。御柱様にヒビキと『融合』させられたので、こうやって身体を入れ替えることができるようになったのですニャ」


『ゆ、融合って……そんなの聞いたことないわよ』


「まあ細かいことはいいですニャ。ご主人とのリンクがあるのは私もですニャン。細かい場所はヒビキが知ってるから、連れて行った方が話が早いですニャ」


ちょっと目の前で起きていることが理解できない。市村がラピノと融合?というか、どういういきさつで?

突っ込みたいところは山ほどある。だが、市村がさっき言っていたことが本当なら、それほど時間に猶予はない。


「詳しい説明は後にしよう。とりあえず、谷川峡谷に行くんだな」


「はいニャ。場所は僕が案内しますニャ」


どうもラピノの身体には市村とラピノの2人……というか1人と1匹の意識が同居しているようだ。とにかく、3人で現地に向かえるならそれが望ましい。


少し日差しが弱くなった外に出る。ノアが俺におぶさり、肩にはラピノが乗った。


「これでいいのか?」


『うん、大丈夫』


下から風が吹いているような感じがして、ゆっくりと視線が持ち上がっていく。地上が着実に離れていくことに、軽い恐怖を覚えた。


『ちょっと身体を横にするわね』


ノアがそう言うと、地上から5mほどの空中で俺の体制が横向きになる。強いけど柔らかな力で、無理なくそうさせられている感じだ。


……そして。



ゴウッ



頭の辺りに、強烈なGがかかる。身体全体が加速し、強い風を感じた。時速は……50キロ?いや、流れる風景からして70キロぐらいは確実に出ている。

地上との距離も、もう30mほどは離れているだろうか。俺は高所恐怖症ではないとはいえ、これは相当に怖いな。


『タキガワケイコクの場所って、どっち方面か分かる??』


耳元でノアが大声を出した。そうしないと、空気の流れから聞き取りにくいのだ。


視線を右にやると、大熊一家が経営しているコンビニが見えた。国道140号線をこのまま西に進めばいいはずだ。

地上では、俺たちのことに気付いている人は今のところいないようだ。ただ、国道沿いに飛ぶと後で騒ぎになる恐れがある。


「このまま左の……西の方角へ。あと、道から少し離れたところを飛んでもらえれば助かる」


『分かったわ』


ラピノの姿になった市村も耳元で伝える。


「休憩所の所で降りてくださいニャン。国道沿いだからすぐ見つかりますニャ」


『了解。じゃ、飛ばすわよ』


さらに速度が上がった。ポケットの中のスマホや財布は大丈夫だろうか?

魔力が俺にも伝わっているとはいえ、さすがに初めてのことだ。暑さよりも恐怖で全身から汗が噴き出るのを感じた。

背中に柔らかい感触がするのも、どうにも落ち着かない。正面から抱き合うよりは、ずっとマシなのだろうが。


そんなことを考えているうちに、眼下の景色はどんどん緑が多くなっていく。滝川峡谷には睦月を連れて1、2回行ったっきりだが、確かそろそろだったはずだ。


「この辺りですニャ」


市村が言うと、車の流れが途絶えるのを待ってノアが急降下する。地上近くになると、ゆっくりと体勢が縦に戻り、そして休憩所の裏手辺りに着地した。


「……生きた心地がしなかったな」


『そのうち慣れるわよ。で、場所は?』


市村は元の身体に戻って、「道路を挟んだ向こう側、滝川方面に向かってしばらくの所です」と指さした。


道路の向こう側には、うっすらと誰かが通ったらしい跡がある。釣り人か誰かが、渓流釣りをするためにできたのだろうか。

先導する市村は、その途中で「こっちです」と道を外れた。そこには人が通った形跡はなく、やや深めの草むらをかき分けるような形になった。スカートにサンダルのノアにとっては少々キツいのではと思ったが、本人は気にする様子がなさそうだ。


進むこと1分ほど。少し下に渓流が見える場所で、市村は立ち止まった。


「ここです。ここの、地表50センチほど下の所のはずです」


大きめの木の下辺りを、市村は指さした。


「まさか、手で掘れとか言わないよな。スコップなんて持ってきてないわけだが」


『それは大丈夫。あたしがやるから』


「ノアが?」


ノアは銀のロッドを取り出すと、それで正方形状の印を地面に付けた。ちょうど、50センチ四方といった感じだ。


「何をするんだ」


『ま、見てて。……『魔剛』』


ビリビリ、メリメリと音がする。軽く地面が揺れたような感覚がした、次の瞬間。



ゴウッッッ!!!



「なっ……!!?」



目の前には、直方体状の土の塊が浮いていた。足元には、それと同じくらいの穴がある。


『よいしょ』


ノアはそれを少し遠くまで動かすと、地面に叩き付けた。再び轟音が鳴り響き、土が舞い散る。


『これでよし、と』


ノアが小走りに土の塊へと向かう。少しロッドでそれをつつくと、塊はボロボロと崩れ始めた。


「……何をやったんだ」


『ん?ああ、『軟化』を少しね。これで土が相当脆くなったと思うわ』


「体力は大丈夫なのか」


『うん、全然。『ソルマリエ』のおかげで、一時的かは分からないけど魔力が満ち溢れてるみたい。マナが薄いこの世界とは思えないくらい』


これが本来のノアなのか。魔法使いとは知っていたが、ここまでの力が本来あるなんて思わなかった。


土の塊を蹴ると、まるで角砂糖のようにそれはほろほろと壊れた。そして現れたのは、赤と青のスーツケース2つ。


「僕が見たのは、赤の方ですね。中に骨があるので、気をつけてください」


市村のいう赤のスーツケースに手をかける。鍵がかかっているようだったが、何かの異臭が微かにする。

ノアが「軟化」を鍵の部分にかけると、「カチャ」とそれはあっさりと開いた。


「……うっ」


分かっていたことではあったが、そこには白骨死体があった。密閉された状況だったからか、所々ミイラ化している。服は着たままだったようで、そこから死体の主は若い女性と知れた。


『……酷いわね』


「ああ。無理矢理ここに押し込められた感じだな。『鈴木一家失踪事件』のうち、17歳の娘がいたはずだが……その子かもしれない」


俺は思わず手を合わせ、しばし黙祷した。そして立ち上がり、スマホを手にする。後は警察を呼べばいい。もう一つのスーツケースと阪上が犯人だという証拠も、どこかしらにあるはずだ。


その時、市村が国道の方を見た。


「誰か来ますっ!!」


ゆっくりと、スコップを担いだ4人ほどの人影が見えた。それは徐々に大きくなる。


先頭の1人が、足を止めた。男は一瞬驚きの表情を見せ、そしてそれは急に険しいものへと変わる。


「……何でお前らがいるんだ」


その顔には見覚えがあった。俺はこの男に会っている。



「それはこっちの台詞だ。坂本取締役」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=578657194&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ