12-6
「……39度3分、か」
体温を計ると、ノアの熱はまだ相当な高さだった。ひょっとしたら、倒れた時は40度を遥かに超える高熱だったのかもしれない。そんな高熱では、普通に数時間ももたなかっただろう。
俺は彼女をベッドに横たえると、経口補水液に岩塩を溶かした吸い飲みを口にさせる。意識は朦朧としているようだが、一応飲んでくれてはいるようだった。
氷枕を作り、冷えピタシートを額に貼る。口に解熱剤のカプセルを入れて飲ませ、しばらくすると呼吸がまた少し落ち着いてきた。
『ンン……トモ、アム・ピュリエ・オル……』
ノアが、シムル語で譫言のように何かを言った。俺はそれが何かを理解し、顔が熱くなるのを感じる。
「……『愛してる』、か」
俺は、ノアの髪を撫でた。……俺もまた、そうなのだろうか。
ふと、彼女の服が汗でびっしょりと濡れているのに気付いた。このままでは、間違いなく身体には良くない。着替えさせなければ。
彼女の服を脱がし、背中からお湯で湿らせたタオルで汗を拭いた。そして、脚も。
仰向けにすると、かなりの背徳感をおぼえた。仕方ないこととはいえ、傍目では男が少女を襲おうとしているようにしか見えないだろう。
俺は下着の部分を避けながら、腕から肩、お腹と身体を拭く。さすがに、下着の下の部分は男がやる領域じゃない。
一通り終わると、替えのパジャマを着せることにした。ノアの身体は小さく軽いが、それでも意識のない彼女を着替えさせるのにはかなり難儀した。
洗濯済みのパジャマを着せ終え、俺はもう一度彼女の髪を撫でる。薄く、ノアの目が開いた。
『……トモ?』
その声に、俺は深く安堵する。思わず、息が漏れた。
「意識が戻ったのか……良かった」
『ここは……トモの家?』
「そうだ。今はしっかり寝て、休んでくれ。……今日は助けられた、ありがとう」
ふるふる、と弱々しく彼女が首を振った。
『ごめん……助けられたのは、あたし』
「俺は、当たり前のことをしただけだ。もう夜だ、俺もそろそろ寝なくちゃ」
立ち上がろうとした俺のシャツを、ノアが摑んでいる。
『もうちょっと、ここにいて』
「分かった」
しばらく、ベッドに腰掛けたまま彼女の頭を撫で続ける。これで、少しは安心するだろうか。
ノアがまた、薄く目を開けた。
『……下着を替えて欲しいの』
「……それは、俺がすることじゃない」
『……まだ、身体がちゃんと動かせないの。お願い』
確かに、汗で濡れた下着のままでは熟睡もしにくいだろう。すがるようなノアの目に、俺は折れた。
「……分かった」
ノアの身体を起こす。上は、寝る時は付けなくていいらしいから脱がすだけだ。その上で、壊れ物に触れるように、絞ったタオルで汗を拭く。
乳房の辺りにタオルが触れれた時、『んっ……』とノアから声が漏れた。そういう意味ではないと分かっていたが、さすがに焦る。
「下もか」
『……うん』
「ここは、拭かないぞ」
『……それでもいいわ』
ズボンを脱がし、ノアから目を逸らしながらショーツも脱がす。
彼女の秘所を見ないようにしながら脚に替えのショーツをくぐらせようとした、その時だ。
『……ねえ……見て』
「何をだ」
『……いいから、ちゃんと、あたしを見て』
ノアの目は潤んでいる。しかし、そういう行為に出れるほど、彼女の体力はないはずだ。俺もそんな気分じゃ、到底ない。
「……何の、つもりだ」
『……お願い』
一瞬だけのつもりで、俺はノアを見た。
見た目相応の陰毛の上辺りに、複雑な文様の入れ墨みたいなものがあるのに気付く。
「……これは」
『……『魔紋』。前に、話したでしょ』
……思い出した。
シムルの魔法使い、特に女性の魔法使いは、魔力を高めるために「魔紋」を刻むという。
それを見せた相手は……殺すか、あるいは生涯を共にしなければならない。
そして、ここで彼女がそれを見せた意味。そのことに気付かないほど、俺は朴念仁じゃない。
「……そういう、ことか」
コクン、と顔を真っ赤にしてノアが頷く。
『今度は……事故じゃない。あたしは、トモと一緒にいたいの』
俺は目をつぶり、ショーツを上げた。着替えを済ませると、俺はわずかに天井を仰ぐ。
俺に、ノアを背負う覚悟はできているのだろうか。その答えは、まだない。
ただ、自分の気持ちがどこにあるのか。それはもう、分かっていた。
答える代わりに、唇をそっと重ねる。ノアの目から一筋、涙がこぼれた。
「……ありがとう。『アム・ピュリエ・オル』」
『うんっ……!!アム・ピュリエ・オル・ティルダ……!!』
俺は彼女を抱き寄せた。胸の中で、ノアが静かに泣いている。
そしてそのまま、彼女が寝入るまでそうしていると、俺もいつの間にか意識を手放していた。




