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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第2話「宰相ゴイルと将軍ガラルド」
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2-3


『安請け合いしたけど、本当にどうにかなるわけ?』


王宮を出ると、ノアが俺を睨んだ。まあ、無理もないことか。

俺は時計を見る。午後3時前か。時間は十分にある。


「まあ、多分大丈夫だろう。それと、残らなくていいのか?」


『一応、トモが逃げたりしないかのお目付け役』


「そりゃそうか」


にしても、ノアはいつまで俺と一緒にいるのだろう。まさかうちに泊まるとか言い出しはしないよな。


……いや、それはあり得る。ノアやゴイルたちは、俺を信頼するより他ない。監視の名目で俺にノアを付かせるのは、合理的な判断だ。

俺が裏切ったら、魔法か何かで俺を殺せばいい。多分、ノアにとってそれはたやすいことだろう。

まあ、泊まるならそれはそれでいいのだが。……見た目はずっと年下の少女とはいえ、中身は俺とさして歳が変わらないノアだ。別に女として意識しているわけではないが、いささか気後れするものはある。どうにも、妙なことになってしまったな。


ぼんやり考えているうちに、ファンタジーランドの入り口に着いた。よく見ると、ゲートの鍵は内側から開けられるようになっている。管理体制がずさんだな。

アクアに乗り込み、エアコンを最大限に利かせる。日陰に停めておいたとはいえ、まあまあひどい暑さだ。


『暑っつ……で、どうするのよこれから』


「まずはレンタカーで軽トラを借りる。話はそこからだな」


『れんたかー?けいとら?』


「まあ、これより大きい車と思ってくれ」


車はC市の中心部に向かう。行きの時より多少落ち着いたのか、ノアが俺に話しかけてきた。


『ごめん』


「何が?」


『ガラルドのこと。出陣手前だったなんて、思いもしなかった』


「まあさすがに面食らったがな。人間、追いつめられると過激な行動に出たがるものさ。にしても、あのゴイルという宰相は話の通じる奴だったな」


『彼、『ドゥナダン』なの。神族の眷属で、半不死人。帝国からも魔族からも迫害され、ようやく流れ着いたのがイルシアなのよ』


ああ、手が冷たかったのはそういうことか。一種のアンデッドであるらしい。


「苦労人、というわけだな」


『寄せ集めの国のイルシアが、国としてまとまってたのは、『御柱様』とゴイル閣下のおかげ。今回の『大転移』も、彼を中心とした苦渋の決断だった』


「そもそも、どうして転移を?いや、帝国とやらとの戦争に負けそうになって、それで逃げてきたのは見当がつくが」


車が信号で停まる。ノアが口惜しそうに、唇を噛んだ。


『奴らの狙いは、『御柱様』と『聖杖ウィルコニア』。この2つを確実に守り、帝国に反撃するには……これしか方法がなかった』


「さっきから何回か出ている単語だが、それ何なんだ?」


『『聖杖ウィルコニア』は、奇跡を起こす『神器』なの。望んだことは、大体叶えられる。ただ、それには神族の末裔である『御柱様』が必要。だから奴らはイルシアを襲撃した……それも、むごいやり方で』


「で、追いつめられたので……ってことか。ちらっと言っていたが、転移の時にもその奇跡の力を使ったみたいだな。

ただ、一つ解せないのはその帝国とやらの目的だ。そのウィルなんちゃらで奇跡を起こしてどうしようってんだ?まさか王様か皇帝の不老不死、とかか。あるいは世界征服?」


『詳しくは知らないわ。少し前まで帝国は魔族と戦争してたから、その絡みかも。とにかく、あたしたちには帝国を打ち砕く力が要るの』


「だからゴイルは同盟とか兵士とか言ってたわけか」


ノアが小さく頷いた。


『戦争はもうたくさん。でも、何とかしないと皆殺されるし、そうでなくても奴隷にされちゃう。だから、何とかしないといけないのよ』


俺の脳裏に、またはるか西で起きている戦争がよぎった。


「……戦争はろくなもんじゃねえからな。てか、そのウィルなんとかで帝国を撃退するってできなかったのか」


『御柱様は心がお優しい方なの。人を殺したり傷つけたりするようなことに、ウィルコニアの力は使えなかった』


「そういうこと、か」


「Tレンタカー」の看板が見えてきた。とりあえず、ここで一度降りるか。


「一度降りよう」


『ここが、れんたかーとかいうところ?』


「ああ」


車を降りて軽トラを借りる手続きを始める。ノアは落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見ていた。


「落ち着け、と言っても無理そうだな」


『ここはどういう所なの』


「車を借りる所だ。食料品をたんまり買い込まないといかんからな。俺の車じゃ大して積めない」


『そ、そう』


さっきからノアの様子が少しおかしい。……よく考えると、昼食ってから何も口にしていないな。


「腹、減ったか?」


『う、うん。それと、お花摘みに行きたいのだけど』


「ならここの角を曲がってすぐだな」


ノアはいそいそと小走りでトイレへと消えていく。しばらくすると、「ピヤウッ!!?」と叫び声がした。


「どうした?」


『ト、トモ、ちょっとこっち来て!!』


「いや、女子トイレに男が入るのはまずいんだが」


『いいから!!』


俺は周囲を確認し、素早く女子トイレに入った。ノアが局部を手で隠しながらプルプルと震えている。

見た目は少女なだけに今の光景はかなり犯罪的だ。誰かに見られたら言い訳が難しい。

よく見ると、ウォシュレットから水が出ている。……あー、なるほど。


『ここ押したら、急にお湯が……どうなってるのよ』


「尻を洗うための機能だ、とりあえずウォシュレット切って出るぞ」


『……パンツ、濡れちゃったんだけど』


俺は深いため息をついた。……女性用のショーツはコンビニにはまず売っていない。


「それも後で買うからしばらくは我慢してくれ」


コクン、と涙目でノアが頷いた。外に誰かいる気配を察し、俺は慌ててノアの手を引いて外に出た。


「きゃっ!?」


「失礼しますっ」


トイレ待ちの中年女性を押しのけ、駆け足で契約を済ませた軽トラに向かう。店員が色々説明していたが、ろくに耳に入らない。ノアの顔は羞恥で真っ赤だ。


「……以上になりますが、何かご質問は」


「いえ、特には」


ノアを助手席に押し込み、俺は軽トラを発進させた。


『……だから何であんなものが存在するのよ』


「すまん。この世界の人間でも、よその国から来たらノアみたいにウォシュレットに戸惑う人は結構いる」


『……見られたの、初めてなんだけど』


「いや、俺は見てないから気にするな」


むしろちゃんと見ていたらこっちも大変なことになっていたかもしれない。俺は思わず頭に手を当てた。


「……とにかく、この世界はノアの世界とは随分違う。あまり下手に動かない方がいい」


『……うん、分かった』


殊勝な様子でノアが答えた。この分だと、買い物もかなり大変なことになりそうだぞ。



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