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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第11話「NPO「安らぎの里」代表・玉田弘とYouTuber高崎ゲン」
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11-5


「あ、おかえりなさい!」


「……は?」


『……どういうことなの?』


王宮前で俺たちを出迎えた市村の姿に、俺たちは目を疑った。そこにいたのは、地味目だが人目を引くような美少女がいたからだ。


「……君、そういう趣味があったのか」


「違います違います!これ……ジュリにこうさせられて……」


市村は恥ずかしげに俯く。


「女装……にしてはよくできてるな」


「女装じゃなくて、文字通り……女の子にさせられたんです……」


顔を真っ赤にする市村に、ノアが『あの子ったら……!』と顔に手を当てた。


「どういうことだ?まさか、魔法で性転換とか?」


『多分、そのまさか。確かに男よりは女の子の方が足止めしやすいかもだけど……これ、絶対にジュリの趣味よね』


「というと?」


『あの子、御柱になる前は結構な悪戯好きだったから。これ楽しんでやってるわよ……まったく、何考えてるのかしら』


市村が「でも!」と反論する。


「このおかげで高崎ゲンを足止めできたのも確かなんです。その意味じゃジュリの判断は……間違ってなかったんじゃないかと……」


ラヴァリも『えらいベッピンさんやなあ』と市村をしげしげと見ている。確かに、この容姿なら下心のある奴なら足を止めるだろうな。


「まあいいか。で、高崎ゲン本人は」


「王宮の方にいます。念話は通じないみたいなので、大熊さんが話し相手に」


市村の後ろから、シェイダも現れた。ラヴァリの聴取は彼女がやるらしい。


『げっ……あんたか』


『あー、心配しないで。荒っぽいことはしないから。ここに来たニホンジンのことは、トモとノアに任せちゃうわ。後で詳しい話を聞かせてくれればいいから』


そう言うと、シェイダとラヴァリは去っていった。俺たちは、高崎がいるという王宮の応接室に向かう。


「あっちいなあ」


大熊のぼやきが聞こえた。部屋には氷柱が置かれているが、それでもかなり暑い。

俺の姿を見た大熊が、「遅せえよ」とタオルで汗を拭いた。


「ここに電気は通らねえのか?エアコンなしだと死ぬんだが」


「それはさすがに友好協定の後、国有化されてからだな。この男が、高崎か」


「ああ」


茶髪のサングラスの男がちらっとこちらを見た。


「誰だよこいつ……って、横に例の魔法少女もいやがるな。あんたが噂のフィクサーか」


「噂の?」


「阪上先輩がお前のことを言ってた。響ちゃんはいねえのか」


「あ……ここに」


俺の後ろから、ひょこっと市村が顔を出す。サングラスの男はうんうん、と満足げに首を振った。


「ならいいわ。野郎との雑談は、どうにも気が乗らん」


「んだと!?せっかくここのことを説明してやってんのに、何だその態度は!?」


俺はまあまあと大熊をなだめた。


「大熊、すまなかったな。後は俺たちが引き受ける」


「……そうしてくれや。俺はアムルちゃんのとこに戻る。そろそろ『吸精』の時間だしな」


「体力は大丈夫なのか」


「まあ、おかげさまでな。最近はキスもしてくれるようになったんだ、もうちょいだな」


そう笑うと、大熊は軽い足取りで部屋を出て行く。ノアが『へえ』と軽い驚きの声を上げた。


『アムルが口吸いする時って、大体処刑の時ぐらいなんだけど。それにも耐えるって』


「処刑……まさか大熊を殺すつもりじゃないよな」


『それはないと思う。あの子なりに、オオクマを信頼してるのかしら。……まあそれはさておき』


俺たちはサングラスの男の向かいに座った。


「あなたが高崎ゲンか」


「ああ。あんたが『イルシアチャンネル』の仕掛け人、町田だな。響ちゃんから話は少し聞いた」


市村をちらっと見ると、首を振っている。どうやら彼が本当は男ということは、話していないらしい。


「いきさつを説明してくれないか」


市村がおおまかな経緯を話し始めた。高崎ゲンの人脈の多くが阪上からの紹介であること、そして当の高崎自体も何らかの弱みを握られているということだった。


「で、片桐さんという人のスキャンダルも、彼に暴露させようと」


「……不倫の件か」


チッと高崎が舌打ちした。


「あの人は、盗聴が趣味みたいなもんなんだ。いつの間にか盗聴器を仕掛け、色々な連中の弱みを握って、脅迫しながらここまで来た。

俺はそれを使わせてもらってるだけだ。収益の何割かをピンハネされてるけどな」


「分け前は?」


「半分ずつだ。まあ、先輩はいい思いを散々させてくれたけどな……むかつくことがないわけじゃない」


「先輩?」


「大学のサークルのだよ。飲みサーという名目だったが、実質ヤリサーだ。色々危ねえこともやってたが、そのリーダーが、阪上さんだ」


随分と口が軽いな。まあ、考えてみればそれも当然かもしれない。

高崎はユーチューブに出て、敵を山ほど作るリスクを抱えている。それに対して市長室でのうのうとしている阪上が分け前を折半しているのだ。不満を持たない方がおかしい。


「この『ビジネス』の発案者もか」


「借金まみれだった俺に、救いの手を差し伸べたのが阪上さんだったからな。とはいえ、さすがに小物を吊し上げるのに俺を使うってのは気が乗らない」


「片桐副市長のことだな」


小さく高崎が頷いた。


「俺も敵が多くなりすぎてね。ぶっちゃけ命を狙われることも多くなった。最近は居場所を特定されねえように、ホテルを転々としてるぐらいだ。

いい加減、ここらでイメチェンというか、ホワイトになりてえとは思ってたとこだ」


「だからこちらの話を聞くつもりになったわけか」


「そういうこと。まあ、響ちゃんに一目惚れしたってのもあるんだけどな」


高崎がニヤリと笑うと、市村がぞぞぞっと震えた。さすがにそっちの気は全くないらしい。


「で、俺たちが阪上からお前を守るという条件で、こちらに協力すると」


「そゆこと。間違いなく過去イチのネタだしな」


「脅されているネタは?」


高崎が言い淀んだ。10秒以上黙った後、ようやく口を開く。


「それはまだ勘弁してくれ」


「それが分からないことには、対応のしようもないんだが」


「……先輩は、全部のデータを握ってる。それを消去すれば……」


「データ……盗聴の音声データか」


コクン、と高崎が頷く。市村もそれに同意した。


「市長室のPCに、パス付きのフォルダがありました。あの中に、相当数の音声ファイルが」


「クラウドにアップされていると無意味だな……ただ、参考にはなるか」


「ええ。一番いいのは、阪上自身を何とかすることですけど……」


俺は腕を組んだ。ノアも『殺したりできないわけだしね……』と思案顔だ。シムルなら暗殺なり何なりをすれば済む話なのだろうが、生憎日本ではそうもいかない。


「ジュリは、阪上の脅迫には否定的だったな」


『うん。ただ、あの子は潔癖すぎる。そのぐらいはしてもいいんじゃないかな。『千里眼』は使えないから、あたしたちが阪上の弱みを自力で握るしかないけど』


「いかにもスネに傷はありそうなんだが……」


高崎が首を横に振った。


「先輩は、絶対に致命的な弱みを摑ませない。女遊びは激しいけど、確か独身だ。多少のスキャンダルじゃびくともしないだろうねえ」


「盗聴器設置の現場を押さえるとか、そのぐらいだろうが……」


「それも弱みを握った誰かにやらせてるんだろ。押さえたところでトカゲの尻尾切りだ」


これは想像以上に厳しい相手かもしれない。もっと決定的な何かを握る必要がある。しかしどうやって?



……一つ、思いついたことがある。



俺はノアの方を向く。


「ノア、ちょっと相談事が。シェイダの『情動操作』、あれはどのぐらい効果があるんだ」


『確か、前に聞いたときは一週間ぐらいだったかしら。段々効果が減衰していくって聞いたことがある』


「なるほど。記憶を読むのも、確かできるんだったか」


『一応、ただ古い記憶を読むなら、そこそこ長く接触する必要があるわ』


俺は目を閉じた。


「高崎、阪上が昔やらかした『危ないこと』って何だ」


高崎が絶句しているのが分かった。恐らく、これは奴にも関係する話だ。


「い、言えるわけ、ねえだろ」


「イルシアには心や記憶を読める人物もいる。黙秘は無駄だ。その代わり、ここで話したことは絶対に漏らさない」


「……本当なのか?」


「俺たちが何とかしたいのはお前じゃなく、阪上だ。そこは約束する」


「……分かった。15年前のことだ……」


高崎は重い口を開いた。独白は数分続いた。


……その内容に、俺は思わず吐き気を催した。ノアと市村も、顔面蒼白になっている。


阪上が想像を遥かに上回る外道であるのは、もはや疑いない。そして、この件の裏が取れれば、脅迫などしなくても阪上を「終わらせる」ことはできる。


問題は、その証拠をどう摑むか。全てはシェイダ次第だ。


「ちょっと、少し席を外す。すぐに戻ってくるから、待っててくれ」



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