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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第11話「NPO「安らぎの里」代表・玉田弘とYouTuber高崎ゲン」
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11-1


『向こうは大丈夫かしら』


ノアが心配そうにイルシア王宮を振り返った。不安はある。しかし、今日はそちらに時間を割けない。


「一種の賭けだな。そこは、市村君とジュリに任せるしかない」


『ジュリが外に出れればどうとでもなりそうなんだけど』


「そこは仕方ないな……おっ」


門を出ようとすると、事務所の前で押し問答している大熊が見えた。その相手は、さっきノアが脅していた西部開発の正社員だ。


「俺は関係者だっての!」


「許可がないなら入れられねえんだよ!ここは西部開発の……チッ」


中年の正社員は俺たちを見ると分かりやすく舌打ちした。


「……なんだあんたらか」


「町田、何とか言ってやれよ。こいつ、全然話が通じねえ」


正社員はノアを見るとビクッと身が震え、一歩引いた。さっきの脅しはまだ効いているようだ。


「彼は周辺住民で、ここの関係者だ。上から話は通ってないのか」


「聞いてるのはあんただけだ。そもそも市村をどこに連れて行った?邪魔するようなら上に言うぞ」


「……どうにも妙だな」


西部開発には綿貫経由で話が通っていたはずだ。それが末端には届いていない。連絡の不備とも考えたが、それにしてはやや様子がおかしい。

そもそも、片桐の件からして少々妙だった。西部開発の中に、阪上の協力者がいるのは疑いない。あるいは……協力者に「させられた」か。


心当たりがあるのは、この男だ。


「坂本取締役から何か言われたな」


「……は??」


言葉とは裏腹に、顔は引きつり困惑の表情が隠せていない。図星か。


「ちょっと会社に連絡をさせてくれ。話を付ける」


「ちょ、ちょっと待て!?そもそもあんた何者だ!?」


「ただの無職だよ」


スマホに登録していた連絡先に電話すると、酷く不機嫌そうな声で「もしもし」と返ってきた。


「町田です。その節はどうも」


「まだ腕が痛むんだがなあ?」


「慰謝料なら払いましたが。それより、どういうつもりですか」


「は?」


「綿貫議員経由で、本体の西部鉄道から連絡が入っていたはずです。『イルシアには触るな』『関係者の出入りは認めろ』と。それがそうはなっていない。

契約社員の市村響への取り扱いもそうです。彼はいまやイルシアの重要関係者だ。そのことが現場に認識されていない。なぜ本体の意向を無視するんです」


「ざけんじゃねえよっ!!!」


思わずスマホから耳を遠ざけるほどの怒鳴り声が聞こえた。相変わらず切れやすいな。


「イルシアとやらはただの不法占拠者だ!!社長は訴えようとしてねえが、俺は違うぞ!?法律に基づいて出て行ってもらう、それが筋に決まってるだろうが!!」


「阪上市長に言われたんですか、妨害しろと」


「……はああっっ!!?」


微かに反応に間があった。俺は続ける。


「片桐副市長みたいに強請られているんですか?この前会った時は、あなたは阪上市長に対し嫌悪するようなことを言っていた。あなたが阪上市長の側に付いたのなら、そのぐらいしか考えられない」


「てっ、てめえっ……!!?」


「片桐さんはもうこちら側です。あなたがどんな弱みを握られているかは知りませんが、阪上市長は……」


「わ、分かったようなことを言いやがって!いいか、絶対に訴えるからな!?」


一方的に電話は切られた。こいつもこいつで面倒だな。

とはいえ、社長でもない坂本の独断で、会社を代表した訴訟を起こすことはできない。現状では口だけだろう。


俺は正社員の男の方に顔を向けた。


「坂本取締役は強硬だな。ただ、会社と親会社の意向は違う。そっちに従った方がいいと思うが」


「お、俺の立場は」


「坂本からの連絡はすべて無視していい。大丈夫、あなたの身分は守られる。その代わり、地域住民の出入りと、市村君の行動には目をつぶってくれ。

もし何かあったら俺に言ってほしい。交渉、あるいは金銭的補償は俺が責任を持つ」


「あんた、無職って」


「金とコネだけはあるんだ。心配しなくて大丈夫」


俺はニヤリと笑った。



『オオクマもよくやるわねえ。というか、最近アムルを見ないけど何やってるのかしら』


霞ケ関に向かう車の中でノアが訊いてきた。


「大熊が色々こちらの世界のことを教えようとしてるらしい。本を持って行って言葉から教えようとしてるとか。一日はそれで潰れるそうだ」


『念話も通じないのに、片言のシムル語だけで?それはそれですごいわね』


ノアが目を丸くした。


大熊は2日に一度のペースで言葉を習いにきていた。俺もノアもかなり忙しいので、大体は夜の時間帯だが。

上達はさすがに遅いが、それでも相当熱心だ。あまり何かに熱を抱くタイプではない俺には、そういうのが少し羨ましい。


「LINEで少し話を聞いたが、向こうも少しずつ言葉を覚えてるらしいな。『デレ始めた』とか言ってるが、それが本当かは分からない」


『でもアムルが特定の人間とそこまで長く付き合うって聞いたことないからねえ……シーステイアとはまあまあ仲がいいけど、会話ほとんどないみたいだし』


「ま、悪いことじゃないんじゃないか」


車は関越自動車道へと向かう。ラヴァリを連れてくる手段として車か電車かはかなり悩んだ。誰かがラヴァリを狙っていたとして、どちらがより安全か、だ。


車だと駐車場に向かうまでの時間帯、電車だとC市駅に降りた瞬間が危ない。待ち伏せされていた場合、どちらも対応が難しい。

ただ、どちらが騒ぎになるかを考えると、車の方がまだマシだ。仮に駅で襲撃されたら、間違いなく事件になる。

あと、恐らくラヴァリは車で青森から東京に移送されたはずだ。車の方がまだ慣れていそうというのも、判断の決め手だ。


とにかく、ラヴァリは現状狙われていると思った方がいい。俺たちの前に身元引受人として手を挙げた奴がいるのが、その証拠だ。

そいつが何者かは不明だが、柳田の息がかかった人間と見るのが自然だろう。そう考えると、気は全く抜けない。



そして、その懸念は現実となる。




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