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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
幕間3「派遣社員・市村響と御柱ジュリ・オ・イルシアその3」
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幕間3-4


「……どうしてこんなことに」


僕は無人改札の前で盛大な溜め息をついた。こんな姿を知り合いに見られたら、僕は死ぬしかない。

何より下がスースーしていて落ち着かない。僕にできるのは、俯いてできるだけ顔を隠すことだけだ。



そう、僕は女の子の格好をしていた。こういうのに興味がなかったわけじゃないけど、まさか本当にやることになるなんて、思いもしなかった。




「……お膳立て?」


今を遡ること4時間前。僕はジュリに聞き返した。彼女は満面の笑みだ。


『そ。ヒビキが女の子になって足止めすればいいんだよ』


「……は?」


僕は聞き間違いかと思った。一体ジュリは何を言ってるんだ。


『だからボクがヒビキを女の子にするんだよ。服は、この前ボクが来ていたのでいいよね?』


「……だから言っていることがよく分からないんだけど」


ゴイルさんも怪訝そうにジュリを見ている。


『御柱様、それはどういう意図が』


『普通にヒビキが高崎ゲンを止めに行っても、多分無意味でしょ?でも、女の子の姿なら足を止める。

ヒビキはかなりかわいいから、女の子にすれば絶対に足を止めると思うんだ。それで時間を稼いでもらう。どう?』


『時間を稼いだところで、どうするのです』


『んー……ノアたちがいつ帰ってくるか分からないからなあ……。理想は、ヒビキが高崎ゲンを説得することだけど。まあ、何とかなるよ』


『随分と楽観的な見通しですな』


『そこは御柱たるボクを信頼してほしいな。ランカさんほど正確じゃないけど、ボクにも『未来視』の力は備わってるわけだし』


『まあ、そう言うなら』


ジュリが僕の方を見て、またニコリと笑った。


『というわけで、女の子になろ?』


「……いやだからさ。女の子になるって女装しろってわけ?そりゃ僕は声も少し高いし、背も小さいけど……女装したところですぐバレるよ」


『女装?違うよ。本当の意味で『女の子になる』んだよ』


「……まさか」


顔色が青ざめていくのが自分でも分かる。ジュリは満面の笑みで頷いた。



『そ。『性転換魔法』。時間制限付きだし、魔力もかなり使うからできあがるまで時間もかかるけどね』



「嫌だ」と口にしようとしたけど、ジュリの笑顔に僕は躊躇してしまった。というか多分、ジュリが僕の女の子の姿を見たいだけだよね、これ……。

ただ、ジュリの提案にはそれなりの説得力があった。確かに、一種のハニートラップを仕掛けるなら、この発想は悪くはない。


問題は、細かい行動は僕次第ということだ。正直、自分の容姿にそこまで自信はない。少なくとも、異性に好意を持たれたのは、ジュリ以外には今までないのだ。

女の子になったからといって、高崎ゲンが興味を持ってくれるだろうか。そして、その上で堂々と行動できるなんて、全く思えない。


「……僕が男ってばれないよね。全然自信ないよ」


『大丈夫!そこはボクに任せて。というか、ヒビキは自分にもっと自信を持った方がいいと思うなあ』


「いや、どうだろ……そもそも、どうやってやるのさ」


『んー、確か母様は……』


そう言うとジュリは向こうの方に行ってしまった。本当に大丈夫なのか。


『あれが使われるのは、4、50年ぶりだな』


「知ってるんですか」


ゴイルさんが渋い表情で首を縦に振る。


『先代様が、その時の御柱付きに使った。結局子は為さなかったが』


「子を為す……」


『基本的に、世継ぎを作る時に使うものだ。あれを使えば、やや子ができる確率が跳ね上がるからな。御柱様があの存在を知っていたとは、少々意外だった』


性転換すると妊娠確率が上がる?魔法というより、もっと別の何かのように思えてきた。


数分すると、ジュリが僕を手招きした。その先には今の部屋よりさらに薄暗い部屋と、巨大な棺みたいなものがある。そこには、幾つかのケーブルのようなものが繫がれていた。


『ヒビキは服脱いで、この中に入ってね』


「え……服脱ぐの??」


『そりゃそうだよ。あ、女の子になった時の服はボクが用意するから心配しないで』


「でも、恥ずかしいんだけど」


『むう。そのうち嫌でも見ることになるんだけどなあ。とりあえず、準備終わったら声かけて』


ジュリが部屋を出て行く。僕は言われた通り全裸になり、棺のようなもののの中に入った。


「入ったよ」


『了解。じゃあ、蓋閉じてね。後は寝てるだけでいいから』


蓋は中からでも簡単に閉じられる仕組みだった。閉めると、「プシュン」という音と共に、甘ったるいガスのようなものが噴出される。

吸い込むと、とても幸せな気分になった。そして、快感と共に強烈な眠気が襲い……



……



…………



『……キ。……ヒビキ!』



目を開けると、はしゃいだようなジュリの笑顔が見えた。



『うん、完璧!!母様の遺した書類通りにやったけど、想像以上だよ!!』



「……へ?」



起き上がると、手と足が心なしか細くなっているような気がする。胸の辺りも少し重い。髪は……ちょっとだけ長くなっているだろうか。

そして、股間に手をやる。いつもあるはずのものが……ない。



「……噓、だろ」



起き上がると、ジュリは僕を愛おしそうに抱きしめる。そして、頰に軽くキスをして、耳元で囁いた。


『……ほんっと、かわいく仕上がったよ。このまま契っちゃいたいけど、それは後でね』


服は畳んで用意されていた。これも、魔法で用意したものであるらしい。デザインはこの前ジュリが着ていたものと同じものだ。

ブラジャーなんて付けたこともないから、そこはジュリに手伝ってもらった。にしても、自分の姿がどんな感じになっているのかはかなり気になる。


「……本当に、女の子に見える?」


『うん!!完璧だと思うよ。ちょっと見てみる?』


部屋が明るくなると、その一角が姿見になっているのが分かった。その前に立つと……



「……これが、僕??」



そこには、ショートカットで地味目だけど、可憐な少女がいた。目は大きく肌は白い。化粧をしていないすっぴんなのに、間違いなく人目を引くであろうルックスだ。

でも、僕はこれが自分であるとすぐに認識できた。確かに顔のパーツは男だった時の僕のものなのだ。


戸惑う僕に、ジュリが興奮気味に言う。


「そう!元々ヒビキはこんなにかわいいんだよ。男の子の時でもそうだったけど、女の子だとさらに引き立つなあ……とりあえず、ゴイルにも見せよっか」


部屋を出ると、ゴイルさんがピクリと眉を動かした。


『……本当にやられたのですな』


『まあね。時間は大丈夫?』


『今、この世界の時間で1時過ぎですな。問題はないかと』


うんうん、とジュリは頷く。彼女によると、阪上に大きな動きは特にないという。


『じゃ、高崎ゲンの件、よろしくね。性転換の効果期間は12時間だから、一緒にいる間に男に戻ることはないから安心して』



そして僕は、東園駅にいる。電話で町田さんにもこのことを伝えたのだけど、「そちらで判断したことならそれを尊重する」とのことだ。

とにかく、イルシアが平穏なままでいられるかは、僕にかかっている。それだけは間違いない。


C鉄道の電車の音が聞こえてきた。4両編成の電車が止まると、一人だけが降りたのが分かった。



茶髪で少し痩せたサングラスの男。この男が、高崎ゲンだ。




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