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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第9話「エムエスPR社長・篠塚まゆみと公設第一秘書・郷原美樹」
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9-4


「おお、来た来た」


俺たちの目の前には、白い氷の山と小皿に分けられた3つの餡子があった。これに和三盆のシロップをかけて食べる、らしい。


「餡子は適宜自分で乗せるみたいだな。セルフ宇治金時みたいなもんか。にしても、コーヒー付きで2000円超は相当お高いな」


「まあ、天然氷だから生産コストがかなりかかってるんだろ。味は間違いない」


俺がそう言うと、向こうからノアの「プイエッ!!」という感嘆の声が聞こえてきた。前に食べたものよりも、こちらの方が上質な氷を使っている。食べても頭がキンとしないのだ。


綿貫も感心した様子で氷を口にほおばる。


「なるほど。こりゃ確かに美味いな。思っていたよりも密度があって、食い応えがある。これに淡いシロップの甘みがアクセントになってて、和菓子を食ってるような感じだな」


「まあな。抹茶よりはコーヒーの方が合うのは不思議だが。……で、柳田官房副長官の件だが」


「ああ。あの人は俺と同じで2世議員だ。大分年は違うが、転身したタイミングが遅いからまだ当選3期だ。元は商社マンだったらしい」


餡子を氷に乗せながら綿貫が言う。


「あまり政治家向けじゃないように見えるが。もう少し社交的で明るい人間がやるものじゃないのか」


「まあ、そこは色々だな。2世議員だと、親の看板と地盤だけで当選できちまうものだし。

ただ、柳田に対する党とオヤジの評価は悪くない。頭が切れる、というだけじゃなく、どこか先を見通して動くようなとこがあってな。若手にゃ『予言者』とかいって崇める連中までいるほどだ」


「その予言ってのが占い師……あるいはシムルからの移住者だとしたら、腑に落ちる所はあるな」


「……まあな。僕はよく知らないが、政界入りした段階で既にそうだったらしい。何より妙なのが、周りの人間の死ぬタイミングが『都合がよすぎる』」


「さっきも言ってたな」


小さく頷くと、綿貫の声のトーンが下がった。


「まずは柳田の父、柳田籐四郎だ。浅尾のオヤジの前に派閥のナンバー2だった人だったらしいが、企業献金疑惑で捜査が入りかけたタイミングで脳出血で死んでる。これで献金疑惑はうやむやになった。

次が柳田の有力支持者、笠原技研社長の笠原高光。こちらも品質偽装問題が明るみになる直前に死んでる。そして、それを柳田が取り上げて企業のガバナンス改革を言い出した。これであの人は評価を上げてる。そして、3人目が俺の親父だ」


「警察からの疑いはかかってないのか」


しばらく無言になった後で、小さな溜め息を綿貫がついた。


「……3人とも、完全な自然死だったからな。『デスノート』でも持ってるんじゃないかって噂になったぐらいだが、アリバイも何もかも完璧でね。

オヤジと対立する水上派からは柳田は『死神』とか言われてるが、正直与太話に過ぎないと思っていた」


「過去形、だな」


かき氷を口にして綿貫が首を縦に振った。


「異世界とそこからの移住者の話を聞くまでは、僕も1ミリも疑ってなかった。とっつきにくいし、正直不気味な印象はあったが、そこまで人格的に問題があるとも思ってなかったしな。

だが、今はかなり考えが変わっている。……親父の死の真相を知りたい」


「そこまでお前が父親と仲がよかったとは聞いてないが」


「……まあな。色々、ロクでもない親父だった。だが、そんなのでも肉親は肉親だ。跡を継ぐとは思ってたが、こんな形で継ぐのは正直ウェルカムじゃなかったしな。

だが、柳田が狙った相手を自然に殺せるとしたら、お前の今の行動はかなりリスキーだぞ。その射手矢って記者、手を引かせた方がいいんじゃないのか」


「……そうかもしれないな。だが、このままだと後手後手だ。こっちからも何かしら探らないと」


「まあ、俺としても何かしてやりたいが、何分身内だ。ちょっと何ができるか、こちらでも考えてみる。

そういえば、ラヴァリって奴の保釈。どうするんだ」


「そろそろかなと思っている。ただ、あいつがこちら側に付くとはまだ思ってない。近々、もう一回会ってみようと思ってる」


「……お前も多忙だな、少しは休んだらどうだ」


俺もかき氷を口にした。確かに、ゆっくり休んだ記憶がここしばらくない。大体どこかしらを動き回っている。

ノアにしてもそうだ。一度、リフレッシュする機会を作った方がいいかもな。


「少し前までは毎日が夏休みだったんだけどな。まあ、ラヴァリの件は継続案件だな」


「了解。まあ、僕としては疑われない程度にやるさ。動画の件は、まゆみさんに任せる」


「信頼しているんだな」


「まあな。ああ見えて、大卒で即海外最大手のサヴァンPRに行ってエース張ってた人だ。スゴ腕なのは間違いない」


動画を撮影しているノアたちの方を見ると、篠塚社長が「万事OK!」とでもいうようにウインクしながらサムズアップしてきた。そっちの方は大丈夫のようだ。


「さて……僕たちも早く食うか。早くしないと夕方になるからな」


目の前にはかき氷がまだ半分ほど残っていた。これをかき込むのかと思い、俺は軽く途方に暮れた。



「よしっ!これで全作業終了!!」


空からノアガ降りてきたのを見て、篠塚社長が満面の海を浮かべた。ノアは肩で息をしている。相当に疲れたようだ。


「お疲レ、さマ、でしタ……」


「うんうん、お疲れ様。ノアちゃんは一度ゆっくり休んでてね。編集はこちらで今晩からやっとくわ。アップは最速明日の夕方かねえ。

とりあえずできあがったらマッチーとノアちゃんと共有するようにしておく。それで問題なければツイッターとインスタ垢とチャンネル作って上げておくよ」


明日アップか。どれだけの反応が来るか、素人の俺には判断が付かない。


「あ、ありがとうございます。動画はどうなりそうですか?」


「うん、素材がしっかりしてるからねー。かき氷も、あんなに美味しそうに食べる子初めて見たわ。あれは受けると思うよ。

あとシムル語だっけ?そっちの翻訳はこっちでやっとくよ。『念話』って魔法を使ってくれたおかげで、私でも意味は理解できたから」


手応えはアリ、という感じか。あとは蓋を開けてのお楽しみってところだな。


ふと空を見上げた。……何かが飛んでいる。



……小型ドローン!!?




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