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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第8話「副総理・浅尾肇と官房副長官・柳田俊介」
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8-4


「……一度、休憩にしていいですか。少し、ゴイル宰相らと話が」


横を見ると、ノアが苛立ちを隠さないようになっている。少し頭を冷やす時間が要るな。


「ここじゃダメなのか」


「いえ、こちら側の意思統一をしたく。10分もかかりません」


「……まあ、いいか。説得できるならしてくれや」


渋い表情の浅尾をよそに、いったん俺たちは隣室に移る。扉を閉めるなり、ノアが俺に摑み掛かってきた。


『どういうことなのよっ!!まさか、あんた……!!』


俺がウィルコニアなどの話を伝えたと勘違いしたのだろう。俺は溜め息をついた。


「落ち着け。俺も混乱している。確実に言えるのは、浅尾が俺たちとは別の情報源を持っているってことだ。

浅尾の狙いはウィルコニアとジュリだ。だが、俺は綿貫にこの話はしてない。天地神明に誓ってもだ」


『別の情報源?』


「完全な推測だ。だが、それが一番ありそうな話だ。柳田だよ」


『あいつか!!ひょっとして、この世界にいるっていう……』


「ああ。そいつと繫がってる可能性がある。ただ一つ解せないのは、だとしてもどうやってイルシアのことを知ったのかってことだ」


シェイダが『あり得るわね』と呟いた。


『この世界とシムルとを繫ぐ連絡方法があるとすれば、『大転移』に気付いた誰かが、この世界にいるシムル人に連絡を取ったかもしれない。

そして、そいつが柳田にイルシアの話をした……そういう可能性はあるっちゃあるわ。あの違和感は、柳田に何かしらの魔道具を持たせているからかも。それが何かは分からないけど』


『仮定に仮定を重ねた話だが、筋は通るな。だとしたら、どうする?よもや向こうの要求をのむとは言わぬよな』


ゴイルの言葉に、俺は腕を組んだ。柳田を外して話をするか?いや、それは恐らく不可能だ。自分の側近の方が、浅尾にとって遙かに信用ができる。

それに、柳田がこちらの世界のシムル人……恐らくは帝国側の人間と繫がっているというのは、現状ではただの推測に過ぎない。可能性は高そうだが、証拠はどこにもない。


ならば、ウィルコニアとジュリの存在を明かすか。その上で、「ウィルコニアの保持」と「ジュリの確保」を条件にして話を進める。

しかし、これもリスクがある。どこまで平和裏に、ガラルドらを刺激せずに彼らがここの調査を行ってくれるか保障がない。そもそも武装解除が条件というのは、いかにも厳しい。日本政府の要求としては当然の行動であっても、だ。


結局、こちらに切れる交渉のカードはあまりない。色々な意味での「力」がないからだ。



……では、それを付ける手段は?



「……1分ほど時間をください」


俺は脳をフルに動かしはじめた。誰を味方に付け、誰を利用するか。そして、イルシアが国に対抗できるようにするために、どうしたらいいか。



そして、大まかだが考えがまとまった。多分、これしかない。



「……少し、これから話す『計画』を聞いてください」


『計画?』


ゴイルに俺は頷いた。


「少し長くなります。そして、これは一種の『賭け』です」


『『賭け』、か。勝算が薄いようなら乗らないが』


俺はノアを見た。鍵は多分、彼女が握っている。


「ある程度、行けるんじゃないかという気はします。ただ、すぐに実行に移せるほどじゃありません。少し準備期間が要ります」


『準備期間?何のだ』



「こちらからイルシアを日本に、世界に売り込むんですよ。場所を特定されないようにしながら」



説明には10分ほどかかった。ノアが『正気なの?』と何回も訊いてきたが、最終的には折れた。ノアには負担をかけてしまうから、何かしらの埋め合わせをしないといけない。

最も乗り気だったのはシェイダで、『私にも協力させてよ』と前のめりだった。アムルは『悪くないですわね』といつもの笑顔で言った。本心はどうかさっぱり分からないが。


そしてゴイルが、熟慮の末に口を開いた。


『考えたが、不確かな方法であっても貴君の案しか頼りはないな。よろしく頼む』


「ありがとうございます。より詳細な計画は後日お伝えします」



部屋に戻ると、頰杖をついた横柄な態度で浅尾が切り出す。


「で、説得はできたのか?」


「ええ。一応」


浅尾はニヤリと笑った。変わり身の早い男だ。


「さすがだな。じゃあこの方向で話を……」


「すみません、条件が。2週間ほど待って頂けますか」


「……そりゃまたなんでだ」


「彼らは警戒心と自尊心が強いのです。国民全員の説得には時間がかかります。ただ、2週間後であればまず問題ありません。確約します」


浅尾が柳田をチラリと見る。「その程度なら」と口が動くのを見た。


「まあ、いいか。それで話を進めさせてもらうわ。綿貫も異存ねえな」


「ええ、特には」


綿貫は俺に対して何か言いたげだったが、この場は我慢したようだ。奴からすれば、全然状況が飲み込めないだろう。

ただ、逆に言えば綿貫は浅尾の部下であっても柳田の側じゃない。この点はある意味救いだ。政府内に完全にこちらサイドの人間を作れるということでもあるからだ。


「じゃあ、次会う時は2週間後だな。ここの調査が済み次第、協定の調印と行こうや」



エンジン音と共に去って行くセンチュリーが視界から消えた後、ノアが俺を見上げた。


『本当に、勝算あるんでしょうね』


「一応、な。ただ、計画が進めば浅尾や柳田も俺の真意に気付く。それまでに、どれだけイルシアに対する『支持』を作れているかだな」


『それ、あまり理解できなかったんだけど。これまでイルシアのことは、この世界の人間に知られたくないと思ってたのよね?』


「ああ。それは変わらない。イルシアの場所が分かれば、ノアたちだけじゃなく東園集落の人間の生活も脅かされかねない。

だが、『具体的な場所だけ隠しつつ、イルシアの存在だけを世界に知らせる』方法はある。そして、そうすることで日本に、そして世界にイルシアのファン……支持者を作ることは不可能じゃない。世論も『イルシアを守れ』と後押しするようになる。

そうなったら、もう簡単に浅尾もここに手出しはできなくなる。少なくとも、ウィルコニアやジュリをイルシアから奪うことは不可能になる……はずだ」


ノアが『うーん』と唸った。


『いや、だからそんな都合のいい方法ってあるの??』


「ああ。一応、な。そして、さっきも言ったがそれにはノアの協力が不可欠だ」


『……あたしで大丈夫なのかしら。というか、何よその『ゆーちゅーぶ』って』



そう。今は誰でも自分の意見を情報発信できる時代だ。それは、「異世界人」も例外じゃない。



動画チャンネル「イルシア国」を作り、その存在を世界中に先に周知させる。そして、射手矢も使って世論も味方に付ける。

国に、浅尾や柳田に対抗するには、これしかない。




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