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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第8話「副総理・浅尾肇と官房副長官・柳田俊介」
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8-1


『……何か、どっと疲れたわね』


「……そうだな」


二人して天井を仰ぐ。理由は分かっていた。さっき別れた、「御柱」ジュリ・オ・イルシアの突然の提案だ。


ジュリは「とりあえず帰るね」というと、ファミレスから文字通り消えていった。ノアが言うには、「とてつもなく高度な隠密魔法」によるものらしい。

ノアたちと違ってジュリの魔力はほぼ無尽蔵であるらしく、この世界においてもほぼ自由に魔法が使えるとのことだった。それにしても、「何でもあり」というしかない。


それにしてもこの「プロポーズ」は、青天の霹靂としか言い様がない。それは俺たちにとってもそうだが、目の前にいる当事者……市村響にとってはなおさらだろう。


「……君はそれでいいのか?」


「……分からないです。確かにジュリのことは、嫌いじゃない……というか、好きになりかけてたんですけど。

恋愛経験ないですし、そもそも人に好かれたこともないですし、自分が釣り合うとも思えないですし……どうしたらいいか……」


戸惑いを隠さずに言う市村に、ノアがふうと息をついた。


『でも、どうしようもないわ。言う通りにしなかったら、物凄く面倒なことになるかもしれないし……。

それにしてもジュリ……御柱様がこんな子を見初めるなんてねえ。まあ……理由もちょっと分かるんだけど』


「理由?」


ノアの顔が、少し赤くなった。


『ええ……『マナの相性がいい』って言ってたでしょ?あれは、その……触れた時に体内のマナが活性化する相手ってのがいるのよ。アムルに対するオオクマを思い出してもらえれば、まあ早いわ。そして、そういう相手ってとても貴重なのよ』


言葉をぼかしてはいたが、言わんとしていることは大体分かった。


「彼女が考えなしに言ったわけではないってことだな」


『そういうこと。というか、母様は多分ここまで見越してたんだと思う。未来を見通す力が母様にはあるから』


「……とんでもない力だな」


『……全くよ。それでいて、あたしたちにはいつも、はっきりと何が起こるかは言わないんだから。

一度母様に会って、色々問いただしたい所だけど……』


俺はラヴァリの持っていた「魔洸石」を思い出した。あれを使えば一応はシムルに戻れるのだろうか。

ただ、1人で戻っても恐らくは無駄足に終わる。調査隊を送るなら、最低限あれを複数個揃えてからになるだろうな。


「で、これからどうする」


「……少し、考えてみます。ジュリも、しばらくは普段通りでいい、って言ってましたし」


「分かった。ただ、明日イルシア王宮に行くのは控えてくれないか」


「え」


「浅尾肇副総理が来るからだ」



『……そんなことが』


一通り説明が終わると、ゴイルが苦り切った様子で呟いた。シェイダもやれやれ、という様子で首を振る。


『『御柱』に即位されてからは真面目に、大人しくされてたんですけどねえ』


『本当よ、手のかかる『妹』が戻ってきたみたい』


『でも、少し嬉しいんじゃない?』


『……あっちが御柱様の、本当の性格だと思ってたし。ずっと王宮に閉じ込めていたことに対し、負い目がなかったわけじゃないわ』


ノアが溜め息をつく。シェイダが『フフフ』と笑った。


『まあ、ランカさんの手引きなら仕方ないわね。『主御柱付き』の子は今度会うとして、今の問題はそこじゃない。明日の話ね』


俺は頷いた。


「明日正午に、浅尾副総理がこちらに来ます。とりあえず、こちらの要求は従来通り。『ファンタジーランドの建設予定地国有化』『食料と衣料品などに対する全面的支援』『周辺警備体制の構築』。以上3点です。

問題は、向こうの要求です。『イルシア、並びにシムルの情報の全面共有』『一部技術の供与』まではまず間違いないでしょう。また、帰還時の同行、並びに調査隊の派遣など。ここまでは全然飲める範疇です」


『問題は、それ以上何を求めてくるか、だな』


『……ええ。イルシア国民に対する身体検査……という名目の医学調査。これはあり得ると思います。

そもそも『人類とは異なる知的生命体』とは、人類史上初めて接触するわけですし。モルモット……実験動物扱いされるようでなければ、これも飲んでしまっていいかと。

厳しいのは、『日本国籍の強制』ですかね。この国は国籍取得に及び腰なので可能性は小さいですが、完全に支配下に置くことを考えるのなら、ここにいる人々全員が『日本人』になるよう求めるかもしれない」


『それは同意だな。我々はあくまで『イルシア国』の人間だ。そこは譲れない』


俺は頷いた。国の誇りまで捨てろと求められれば、彼らは全力で抵抗するだろう。


「あくまで、イルシアに一定の自由が保障されることが理想的です。将来的には行動の自由も。ただ、東園集落の抵抗が強い以上、ここは難儀ですね。

それと何より厄介なのが、情報公開の時期です。引っ張れば引っ張るほど理想的ですが……」


まだ。イルシアの情報は外に漏れていない。1週間もったのは奇跡的とすら言える。

とはいえ、限界はすぐに来るだろう。何かのトラブルで開示せざるを得なくなるのではなく、自発的に発表したいが……。


気になるのはC市の動きだ。片桐らがそう簡単に折れるとは思えない。そして、国がどう考えているかもまだ読めない。情報統制をガッツリやりたがるようには思うが、それでマスコミが納得するだろうか。

場合によっては、射手矢に連絡して「解禁」させることも視野に入れないといけない。ただ、これは最後の手段だ。


ノアが『そうね』と首を縦に振った。


『何にしろ、出たとこ勝負にならざるを得ないところはあるわね。明日来るのは、アサオって人と誰?ワタヌキも来るんだっけ』


「その2人に官房副長官の柳田ってのが来るらしい。俺もこの人は浅尾派ということ以外よく知らないんだ」


『なるほど……まあ、ワタヌキは知ってるから、そこは少し安心ね』


「一応な。ただあくまであいつは国の人間であり、こっちの人間じゃないから警戒は怠らないでくれ。

あとゴイル閣下。あまり武威は示さない方がよろしいかと。安全保障上の脅威と見なされるのは得策ではないですから」


ゴイルは『心得ている』と同意した。ガラルドらは、アムルが抑えてくれるだろう。あくまで友好ムードの中で、最初の会談が行われることが望ましい。


「では、明日朝またうかがいます」


鬼が出るか蛇が出るか、考えても始まらない。重要なのは第一印象。そこからだ。


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