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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第1話「イルシア国と魔法少女ノア」
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1-5


外に出ると、むわっとする熱気を感じた。さっき買い物に行った時もそうだったが、この季節にしてはひどく暑い。


「アオダッ!!」


ノアは叫ぶと、俺の方をにらんでくる。


『何よこの暑さ。家の中とは全然違うじゃない』


「そりゃそうだ。冷房をガンガンに効かせておいたからな。そもそも、この辺りは日本で一番暑い地域の一つだ」


『れいぼう?また魔道具みたいなのを使ってたわけ?』


「まあ、そんなもんだ。車に乗るぞ」


スマートキーを手に取り、ピッ、とアクアのドアを開ける。車内も案の定ひどい暑さだ。とても人を乗せられる環境にないので、エンジンをかけるとエアコンが効くまで放置することにした。


『……何これ』


「まあ、馬なしで動く馬車みたいなもんだ。それよりは遥かに速いが」


ポンポン、とノアがアクアのボディを叩く。


『鋼でできてる?こんな物が動くの?』


「まあな。そろそろ乗ってもいい頃合いだ」


車内は多少マシな温度になっていた。助手席にノアを座らせる。彼女はシートベルトの付け方を当然知らないので、俺が簡単に説明してやっておいた。


『ちょっと窮屈ね。というか、何でマスクみたいなの着けてるの』


「世間体みたいなもんさ。この世界には疫病が流行っててね。まあ、かかっても気にするほどでもないんだが、着けてないと色々面倒なんだよ」


『面倒って何が?』


「説明するとくっそ長くなるから後にするぞ」


イグニッションキーを押し、ゆっくりと車庫から車を出す。近くに民家はそれほどなく、隣は30m近く離れている。集落の大半は兼業農家で、うちのように先祖代々住んでいるわけではない余所者は少数だ。


『え、本当に走ってる??』


ノアは初めて乗る車に驚き、ガラスに顔を押し当てている。


「本当にこうしてみると子供にしか見えんな」


『……さっきも言ったわよね?子供扱いするなって』


ノアの顔が怒りで紅潮している。また魔法を使われたらたまったもんじゃない。俺は慌てて手を振った。


「すまん、馬鹿にするつもりはなかった。というか、何歳なんだ?」


『28よ』


「噓だろ??」と声に出しかけるのを、俺は必死に耐えた。いや、こんな28歳がいてたまるか。


「……俺の1つ下かよ」


『言いたいことは分かるわよ。あたし、普通の人間より成長が半分くらい遅いから。というか、あんた年上だったのね。そっちの方が驚いたわ』


「あまり老けては見られない方だからな。……すまなかったな、さっきのは俺の失言だった」


『いいのよ、分かれば。今後は貴婦人として遇してちょうだい』


そう言うと、ノアは再び車外に目を移した。まあ、珍しいものばかりだろうから、気持ちは分かる。


車はもうすぐファンタジーランド入り口に着く頃合いだ。ランニングで20分の距離だが、車なら10分もかからない。

ゲートの前には誰も来ていない様子だった。ここからノアを家に連れて行く時に大熊の親父の車に乗せてもらったが、騒ぎにはしていないようだった。「留学生を連れてきたら気分が悪くなった」という無茶な言い訳を、よく信じてくれたものだ。


俺は車をゲートの前で停める。路駐ではあるが、どうせここにねずみ取りなど来ないから問題はないだろう。


「着いたぞ」


『本当に速いのね。まさか、ドラゴンより速かったりするのかしら』


「ドラゴンなんて見たこともないが、その気になれば多分な。その、お前の国ってのはこの上でいいんだよな」


『ええ。少しばかり歩くけれど』


車を降り、ゲートをくぐる。もちろん、俺もここから先に入るのは初めてだ。

林の中だから、直射日光は多少和らげられている。それでも、この異常な暑さで額に汗がすぐににじんできた。しかも結構な坂道ときた。これだけでも、ちょっとした運動になる。


振り返ると、ノアが早くもはあはあと息を荒くしていた。どうも、見た目通り単純に体力はないらしい。


「大丈夫か」


『平気、よ。少なくとも、朝の時よりは』


それでも、歩みは遅々としたものだ。ノアは歩くのに精いっぱいという体で、話す気力もないようだ。

おぶった方が早いのではと思ったが、また子供扱いしていると思われてキレられても困るので、ペースを合わせる程度にした。


歩くこと10分。ようやく、坂の頂点が見えてきた。林も途切れ、ここに広大な空き地があるはずだ。本来なら。



「着いた、ぞ……はああっ!!?」



俺は目を疑った。



まず見えたのは、高さ3㍍ほどの城壁。大きめの門の前には、鎧を着た兵士2人が槍を持って立っている。この暑さだからか、兜は地面に置かれていた。

そして、そのそばにはぽつんとプレハブ小屋があった。ここが「ファンタジーランド」の管理棟なのだろう。



視線を戻し、上を見上げる。……一体、何だこれは。



『やっと、着いた……』


「……あれは、何だ。城、か」


俺は城壁の向こうにある純白の尖塔を指さした。それも、4本ほどある。高さは、少なくとも30㍍近くはありそうだ。


ノアは,荒い息でこう告げた。



『そう。あれが、イルシア国宮廷。……で、ここから先はイルシア国第一級都市区画。イルシアの中枢部よ』




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