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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第7話「東日新聞記者・射手矢貴と魔術局長・シェイダ」
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7-3


「卒業後、ゼミの懇親会で会って以来だなあおい。財務省、辞めたんだって?何してんの」


射手矢がニヤニヤしながら馴れ馴れしく肩を叩いてきた。俺はそれを振り払う。


「お前に言う義理はない」


「冷たい奴だなあ。というか、こんな美人2人も連れて、何で警視庁にいんのよ」


「だから言う義理はないっていっただろ」


俺は射手矢を無視して足早に面会スペースに向かう。後ろで「ちぇっ」とこぼす奴の声が聞こえた。


『何あいつ。トモが嫌がってるのに』


「昔からああいう奴だった。無視が一番だな」


射手矢は出会った時から馴れ馴れしかった。最初こそまともに相手してやっていたが、それがよくなかったらしい。やがて授業のノートを貸してだの、代返しろだの、図々しさが目立つようになっていった。

もちろん、切れたことは何度もある。ただ、妙な愛嬌がある奴でもあり、最終的にこちらが折れることはしばしばだった。

新聞記者になるという話を聞いたとき、ある意味天職だなと思ったのをよく覚えている。友人には決してしたくないタイプだが。


面会スペースに入ると、10分ほど待ってくれと職員に言われた。シェイダが俺に話しかける。


『さっきの奴、どういう人間なのさ』


「新聞記者だ。それに該当する職業が、シムルにあるかは知らないけど」


『しんぶん……ああ、『伝聞屋』が近いのかな。噂話をばらまいて売るという』


「それよりはずっとマトモ……ってことになってる。一部には噂どころか悪意のある情報を流す奴らもいるが」


『あいつもそうなの?』


「さあ、それはどうだかな。ただ、この話を知っちゃいけない相手なのは確かだ」


東日新聞は保守系の新聞で、ライバルの朝毎よりは信頼ができる。とはいえ、ネタ重視で「飛ばす」ことも多い。イルシアのことが知られたら、間違いなく食い物にされるだろう。

とりあえず、また射手矢に会わないことを祈るだけだ。ノアやシェイダのことを根掘り葉掘り聞いてくるに決まっている。


やがて、看守に連れられてラヴァリがやってきた。俺たちを見るなり、げんなりした様子になる。


『……なんや、あんたらか。期待して損したわ』


『お前の協力者だと思ったか?』


俺が言うと、『……何やそれ』と呟いてラヴァリの表情が固まった。『フフ』とシェイダが笑う。


『やっぱりね。あなたが単独で行動しているなんて全く思ってないよ。そこはもうバレバレ。あ、自己紹介が遅れたわね。私はシェイダ・シェルフィ。多分名前ぐらい聞いたことはあるでしょ』


『……『3魔女』のうち2人も来とるんか。じゃあ、『死神』アムルもおるんやろ』


『まーね。でも彼女がここに来ることはないから安心して。別に取って食うつもりはないからさ。

今日ここに来たのは、人魔戦争後に帝国で何があったか……というより、疫病の話は本当なのかを聞くためね。それと、可能なら協力者の話もちょこっと』


ラヴァリが、俺たちの顔を品定めするかのように見渡した。


『……どこまで知っとるんや』


『さあ?こっちも正確な情報は持ってないから。ただ、相当被害がエグいことになっているんじゃないかって推測はしてる。どんな病気なの』


ラヴァリが唇を噛んだ。


『……『死病』や』


『……は?』


『聞いたことないんは当然や。勝手にこっちがそう名付けただけやからな。人から人には移らん。その代わり、土地と食い物を介して移るんや。

最初は身体のだるさ、発熱、そして吐血と激しい下痢。数日もせんうちに死ぬこともあれば、長く苦しむ奴もおる。とにかく、治癒魔法も全然効かん。一度かかったら終わり、だから『死病』や」


ノアとシェイダが顔を見合わせた。


『先代様が亡くなられた時に似ている……』


『あー、なんか神族が死んだ時に近いらしいな?そんなことはどうでもええ……とにかく広がりがエグいんや。

救いなのは魔力結界が効くことや。首都一帯に張って、何とか踏みとどまっとる。ただ、それもどこまでもつかや。

被害はモリファスだけやないで?オルディアにも被害が出始めとる。イルシアはまだらしいから、んな悠長にしてられるんやっ』


後半部分はノアに訳してもらったが、ラヴァリが感情的になっているのはすぐに分かった。やはり、相当危機的な状況にあるのは間違いない。とすれば。


『君がここに来たのは、助けを呼ぶためか』


『……!!そうや……あの人なら、何とかできるかもしれん。だから俺は待っとったんや……』


待ち合わせ場所は、やはりあのキャンプ場だったわけか。とすると……


「ノア、向こうからこっちに連絡を取れる手段があるのかもしれないな」


『えっ……!?どうしてそう思うの』


「待ち合わせるには時間と場所を互いが知らないといけないだろ。つまりは、『異世界電話』みたいなものが存在するってわけだ」


『でんわ……ああ、あれ?でも、そんなものどうやって……』


「大魔卿とかいう奴ならできたりしないのか」


『あっ』とノアが手を叩いた。


『……それはあり得るわ。転移魔法の応用で、声だけ飛ばすとか……あたしには想像もできないけど』


「なるほどな。やっぱりそいつが今回の件、がっつり噛んでいるというわけか」


俺は時計をチラリと見た。残り5分強。そんなに時間はない。


『で、君と待ち合わせていた人物は何者だ?』


『誰が喋るか!!俺らにとってあんたらは敵や、教えたらどうするつもりか目に見えとるわっ!!』


『殺すことはない。それはこの世界じゃできないからな。あくまで、話を聞くだけだ。

……あともう一つ、君にいい話がある。俺はここから、君を出してやることができる』


『……!!?ほんまなんか!!?』


俺は頷いた。保釈金を出せば、一定の条件下ではあるが彼を外に出すことは可能だ。その場合の身柄後見人は、俺になるだろう。

もっとも、これにはデメリットもある。まず、ラヴァリの身の安全は確保できない。安全という意味で拘置所以上に優れた場所は、ほぼこの世に存在し得ないのだ。

もう一つ、脱走される可能性がある。そうなれば青森の時とは比べものにならない騒動になる可能性があった。


俺はそれをノアを通じて説明させた。ラヴァリは下を向いて、何か考え込んでいる。


『……少し、考えさせてくれんか』


そこで看守が「時間です」と告げた。



岩倉警視監に一通りの報告を済ませると、時刻は15時半ほどになっていた。警察としても、今回の件は非常に関心が高いらしい。

「公安がそのシムルから来た人間の居場所を知りたがっている」とも言っていた。わざわざ彼が公安の話をした、ということは「極力気をつけた方がいい」という警告でもあると俺は感じた。

今後は、尾行とかにも気をつけねばならないということか……ケアしなければいけない事象が多すぎるな。


警視庁を出ようとすると、「町田、ちょい待ち」と声をかけられた。



……射手矢だ。まさかずっと待っていたのか??



「誰と会ってたんだ?」


「だからお前と話す暇はない」


「そっか、そりゃ残念。ひょっとしたら、青森から来た外国人なんじゃないかなと思ったんだけどなあ」


俺とノアの表情が固まる。そんな馬鹿な。


「……何のことだ?」


「いや、お前と外国人の女の子2人で面会に行くっておかしいだろ。訳ありなんじゃないかなってな。

しかも、青森から警視庁に身柄を移管された謎の外国人がいるっていうじゃないか。そんなの、余程のことがない限りあり得ない。こいつは何かある、と踏んだわけだな」


ニヤニヤと射手矢が笑う。まんまとカマにかかったというわけか。


「だとしても、お前には関係ないだろ」


「そっか?ネタ的に何かあると思ったんだが。ま、話したくなければこっちで調べるまでさ」


……まずい。これは、放っておくとイルシアのことがバレかねない。


射手矢がどれほど記者として優秀かは分からない。ただ、あいつは昔から勘だけは鋭い男だった。そして、こいつに良心とかを期待しても無駄だ。……極めてまずい。


その時、シェイダが口を開いた。


『ちょっと待って。ちょい、話聞いてくれない?』


去ろうとしていた射手矢がぽかんとした様子で振り向いた。


「……は??いや、何で言葉分かるの?」


念話を使ったのか。シェイダが蠱惑的な笑みを射手矢に向ける。


『あ、よかった。ちゃんと通じたわ。ちょい、人のいない場所で話できないかな?大事な話があるのよ』


「……大事な話??」


『シェイダっ!!?』


ノアが叫ぶ。当然だ、射手矢という男が危険なのは、今のやりとりだけでも明らかのはずだ。


しかしシェイダは余裕の笑みを浮かべる。


『大丈夫、考えがある。『それに、上手くすれば彼はいい駒になるかもしれない』』


『駒?』


途中から念話を「切った」のに気付き、俺は彼女なりの考えがあるのを察した。ノアもそれに気付いたようだ。


『どういうことなの?』



『情報収集と情報発信、それを彼に担ってもらうわ』




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