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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第6話「西部開発取締役・坂本雅史と帝国特務歩兵・ラヴァリ」
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6-5


ラヴァリと名乗る男は首を振りながら『意味が分からん……』と繰り返していた。

綿貫が少し驚いた様子で俺に訊く。


「町田、いつの間に言葉をマスターしたんだ?」


「マスターってほどじゃない、ノアに少し教えてもらっただけだ」


「にしても、この前会ってから数日しか経ってないぞ?」


「同時通訳機を始終付けたまま勉強すりゃ、お前もすぐに俺と同じことができるさ。……それはさておき」


俺はラヴァリに向き直った。


『イルシアがこっちに来ていることを知らないのか』


『しらんわ。待っとりゃ来る言うたんに誰も来んし、何かしらんけどここの人間に捕まるし……しかも異世界ってこんな物騒なとこなんか?死ぬか思ったわ』


ラヴァリは銃で撃たれたという右肩の辺りを見た。その割には、ギブスなどをしている気配はないが。


「……彼が普通の人間じゃないというのは、すぐに分かりましたよ。普通なら入院しないといけないぐらいの出血量だったのに、翌日には痛がるそぶりも見せていなかったんですから」


岩倉警視監が、化け物でも見るかのような目つきでラヴァリを見やった。そのことをノアに告げると、『回復魔法ね』と小さく呟いた。


「回復魔法?」


『そう。多少なりとも魔法を使えなかったら、魔剣は持ってないはずだもの。ねえ、ラヴァリさん?』


『……』


無言のラヴァリに、『ふふん』とノアが鼻で笑う。


『あなた、オルディアにいたことがあるでしょ。ということは、オルディア魔術学院卒ね。まさか、先輩とか言わないわよね?』


『……後輩や。微妙に被っとんねん、あんたが学生の頃と』


なるほど、顔を見ただけですぐにノアと分かったはずだ。ノアは笑みを消して話を続ける。


『で、あんたは何者なの。帝国の手の者だということは言わなくても分かるわ。何が目的で、どうやってここに来たの。そしてここに誰がいるっていうの』


『そんなに一度に質問すんなや。それにそんなんペラペラ喋ると思っとるんか?』


ノアが懐からロッドを取り出そうとするのを、俺は制した。


「拷問はこの国じゃご法度だ。そもそも、ここは警察だ。ノアが捕まることになる」


『くっ……どうすればいいのよ』


「交渉しかないだろ」


俺はじっとラヴァリを見た。見た目と違い、実はかなり若いのか。あと、ノアが言っていた魔剣の存在。それなりの立場の人間しか持てないというのなら、こいつは多分貴族か何かだ。

場慣れしているという感じでもない。あっさり名前を割った辺り、完全に黙秘を決め込むタイプでもなさそうだ。



ならば、利益をちらつかせれば落ちる。



『君は、戻ったら罰を受けるのか?』


さっと顔色が変わった。それは彼が最も恐れることだろう。重要任務の失敗は、東側諸国のような人権無視の国なら死罪だからだ。


『……な、何が言いたいん』


『俺たちは、君の安全を保障する。君はこの国で罪を犯したが、逆に言えばここは世界で最も安全な場所の一つだ』


俺は岩倉警視監に「拘置期限はいつまでですか」と訊いた。彼はしばし考えた後、「普通に考えれば、最長20日間ですね」と答える。


「ただ、今回の一件は多分不起訴になります。まず、彼には戸籍がない。海外においてもない。つまり、処罰しようにもしようがないのです。

そもそも、警官2名が負傷を負ってますが、『その手段が分からない』。魔法で負傷したなんて、そんな夢物語を信じる人がどこにいます?私だって、浅尾副総理の依頼がなかったら動きませんよ」


「なるほど、やはり」


俺はノアに耳打ちした。さすがに複雑な言葉を伝えるには、彼女を通した方がいい。そこまでの言語力は、まだないからだ。


『あんた、ここにはあと10日ちょっとはいられるらしいわ。その後はここを出ることになる。

その後はイルシアに『捕虜』という形でいてもらうわ。大丈夫、大人しくしてれば危害は加えないわ。もし協力までしてくれるなら、相応のお礼はするつもりよ』


『お礼?』


ノアがニコリと笑った。


『ええ。金銭的なものであれ、もっと別の形であれ。もちろん、帝国が来たらあんたを守る』 


『ほんまやな?』


『ええ。その代わり、知っていることは一通り話して。祖国を売ることになるかもしれないけど』


『……父さんや母さんを裏切れ言うんか』


『それはあなたの話す内容次第。そもそも、何のために帝国がイルシアを攻めて、聖杖ウィルコニアを狙うのかすら、あたしたちは知らない。訊きたいことは山ほどあるの』


ラヴァリは逡巡した様子で、唇を噛んだ。何かただ事ならぬ事情があることは、すぐに見て取れた。


『……仕方ないんや』


『は?』


『……あんたら、『第3次人魔戦争』の後、帝国で何が起きているか知っとるんか?』


ノアが訝しげに『どういうこと?』と訊くと、『はっ!』とラヴァリが嘲笑った。


『そんなことも知らんのか!?こっちだって必死なんや!!国が滅びるのを、ギリッギリの所で踏ん張っとるんやぞ??

そら『震源地』から遠く離れたところでのうのうと暮らすお前らには分からんやろな??俺らにはウィルコニアが絶対に必要なんやぞ??』


『ちょっと待ってよ、どういうことなの!?』


看守が「そろそろ時間です」と告げた。……食い下がろうにも、ここでタイムアップか。15分という制限時間は、あまりに短い。


『……また来る』


そう言うと、『けっ』とラヴァリは吐き捨て、面会室から連れ出された。



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