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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第6話「西部開発取締役・坂本雅史と帝国特務歩兵・ラヴァリ」
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6-1


『『アヴ』が『はい』で、『ジャメ』が『いいえ』。『私』が「アム」で……』


「あ゛ーっ!!何言ってるかちっともわかんねーし!!」


大熊がシャーペンを放り投げた。ノアが渋い顔になる。


『何よこいつ。せっかく教えてあげてるのに』


「念話が通じないから、どうしても効率は悪くなるな。大熊、今のノアの言葉は……」


大熊はふてくされたようにテーブルにつっぷした。


「もういいっつーの。いちいちお前を介さないと勉強もできねえし。そもそも俺とてめえじゃ頭の出来が違い過ぎるんだよ」


俺は溜め息をついた。大熊がイルシア語を勉強し始めて今日で3日目。しかし習得は遅々として進まない。

俺も平行してノアに言葉を教えてもらっているが、その差は確かに歴然としていた。俺は基本的な会話や文法をマスターしつつあったが、大熊は単語すらおぼつかない。


学力にはもちろん大きな差がある。俺は東大法学部卒で、大熊は地元の偏差値40台の高卒だ。ただ、正直に言えば、この理解力の差は念話が通じているかそうでないかの方が大きい気がした。

俺はいわば同時通訳機を使いながらレッスンを受けているが、大熊は一度通訳を介してから言葉を学ばねばならない。効率性は比較にならないのだ。


大熊が俺を睨んだ。


「とりあえず、小難しい勉強はもういいや。イルシアの言葉で『愛してる』という言葉だけ教えてくれ。アルムちゃんに俺の思いを伝えられれば、いつかは何とかなるだろ」


「出会って2,3日で『愛してる』って、普通に引かれるだろ……」


「言葉はおまけだ。後は言葉より身体、それしかねえ」


「押し倒そうものなら殺されるぞ」


「……そこなんだよな。いまだにお触り禁止だし」


大熊がしょんぼりと俯いた。


昨日、一昨日と大熊はイルシア王宮に通い、アムルの「吸精」を受けていた。戻ってくるたび相当げっそりしていたが、それでも翌日には回復しているあたり確かに体力は凄いのだろう。

アムルが大熊に何をしているか訊いたがが、意外なことに吸精の手段はセックスではなかった。服を着たままディープキスをするだけらしい。それでも出るものは出るらしく、「隠れてトランクスを代えるのはなかなか辛い」とこぼしていたが。

当然、大熊からアムルに対しての接触は禁止で、終わるなりアムルが笑顔で何か言って別れるという程度であるようだ。男としては生殺しもいいところだろうし、気持ちは分からないでもない。


ノアに今の会話を伝えると、『うーん』と唸った。


『あたしもあいつのこと、よく分かんないのよ。慇懃無礼で人当たりはキツい。親しい友人なんて聞いたことないもの。シェイダも『仕事の時以外でアムルとは話さない』って言ってたし』


「付き合いが長いわけじゃないのか」


『一応最初に会ったのは8年前ね。先代の御柱様が亡くなるまでは、『御柱付き』をやってた。言ってみれば、お世話係ね。

お祖母様もそうだったと聞いてる。あたしが生まれた時はとうの昔に亡くなってたけど』


「確か、ノアも神族の血が流れていたと言ってたな。ひょっとして、その時に?」


『そうみたい。先代のお子様は今の御柱様だけだと思うけど』


なるほど。ひょっとしたらアムルは王妃候補として迎え入れられたのかもしれない。いや、ノアの母と先代は「腹違いの姉妹」だからそれとも違うのか。どうにも異世界の風習はよく分からない。


「何こそこそ話してんだよ」


口をとがらせて大熊が言う。確かに、言葉の通じない会話を聞かせられるのは苦痛でしかない。


「アムルの過去についてだ。後で内容は話す」


「え、過去!?それすっげえ聞きたいんだけど」


身を乗り出す大熊に、ノアが首を横に振った。


『何言ってるか分からないけど、あんまり意味はないわよ。あたしもあいつのことはそんなに知らないもの。

……とにかく6年前に先代の御柱様がおかくれになられてからは、アムルはすっかり心を閉ざしてしまったわ。

第一級魔導師として魔術局の局長補佐になってからは、ずっとあんな感じ。仕事してない時は大体読書しかしてないわね』


内容をかいつまんで話すと、大熊は腕を組んでしばらく黙った。


「……何か、寂しそうだな。本って、何の本だ?」


翻訳して伝えると、ノアは『魔術書なんじゃない?』と素っ気なく答えた。


「そっか……なあ、教えて欲しい言葉があるんだが。『待って』と『見て』だけ教えてくれ」


『……え?』


大熊がノアの目をじっと見る。


「あいつに色々見せてやりてえんだよ。なんか、今の話を聞いてそう思った」


ノアは俺の翻訳を聞き、『そうね……悪くないかも』と呟いた。


『待ってが『メリテ』で、見てが『ブオイエ』。何を見せるつもりかはしらないけど、アムルに知識欲は結構あると思う。ただ、前にも言ったけど人間らしい感情があいつにあるかは分からないわよ』


「それでもいい」


大熊が答える。それと同時に、俺の携帯が震えた。


……見知らぬ番号だ。市外局番からすると、C市からかけているようだが。


「もしもし」


「町田智宏さんの携帯でしょうか」



この声は……睦月だ。



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