5-1
「な、何年ぶりになるんだろう、な」
大熊は気まずそうな笑いを浮かべる。中学以降は接点がなかったはずだから、こうやって話すのは14年ぶりだ。
「どうしてここに?上に用でもあるのか」
「あ、いや。一昨日昨日と、軽トラがこっちに向かうのを親父が見てな。一昨日お前が親父に女の子とここら辺にいたってのを聞いて、何かあるんじゃねえかと……」
ノアが一歩前に出た。『あたしの言ってること、分かる?』と訊いたが、大熊はきょとんとした表情だ。
「何語だこれ。というか、何で外国人のガキとお前が一緒にいるんだよ」
俺は溜め息をついた。これは厄介なことになりそうだ。
「ノア、『念話』は通じないらしい」
『そのようね。で、この人は誰?』
「俺の昔の知り合いだ。といっても、もう何年も会ってない」
俺は大熊の方に向き直った。
「すまないが、この上に何があるかは詮索しないでくれ……」
いや、ダメだ。これでは「詮索しろ」と言っているようなものだ。何かしらで口止めするか?
現金を渡しても黙っている保証はないし、暴力的な手段も得策じゃない。……参ったな。
「何かあるのかよ」
怪訝そうな表情で大熊が足を踏み出した。すかさずノアがロッドを取り出し、一振りする。
ズォンッ
「ぬおっ!!?」
急に大熊が四つん這いになった。まるで、重い荷物に耐えきれなくなったかのような、そんな感じだ。
「ノアッ」
『『圧波』、よ……足止め程度に、力は弱めて、おいたわ……』
ふらつくノアを、俺は抱き留めた。今日は他にも魔法を使っていて、消耗が激しかったはずだ。無理をさせてしまったか。
「ちょっと車内で休んでろ。……大熊、すまないがここから上には行かせるわけにはいかないんだ」
「だから何でだよ。そもそも今のはなんだよ」
「……魔法だ。この子が使った」
意識を失いかけのノアを後部座席に押し込み、カーエアコンを付ける。
「魔法、だあ!?」
「すまないが、俺の頭がおかしくなったわけでも何でもないぞ。とにかく、ここは手を……」
……待てよ。なぜその方向性に気付かなかった?
俺はニッと笑う。
「予定変更だ。ちょっとうちで話がある。東園町内会の誰かも呼んできてくれ。できるだけ上の人間がいい。見返りは出す」




