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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第3話「無職・町田智宏と民自党議員・綿貫恭平」
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3-4


「小芝居はよせ。そういう間柄でもないだろう」


俺は顔をしかめた。綿貫との関係は徹頭徹尾ビジネスライクだ。向こうがどう思っているかは知らないが、俺にとってはそうだ。人に馴れ馴れしくされるのは元々好きではないが、綿貫にそうされるのは不快でしかない。

綿貫も気付いたのか、足を止めて肩を竦めた。


「全く相変わらずドライな奴だな。まさかその、お前の後ろにいる子が『魔法使い』か」


ノアは俺の後ろに隠れるようにして綿貫を見ていた。


『……この人にも念話が通じない。話している言葉が分からないわ』


「そうなのか」


『理由はよく分からないけど、この世界だと通じる相手の方が少ないのかも』


これは少々面倒なことになった。俺が通訳をやるしかないが、どこまで上手くやれるか。俺は綿貫の方を見た。


「すまない。言葉が通じないんだ。ただ俺は彼女の言っていることが分かるから、通訳する」


「は?どういうことだ」


「その辺りの説明も後でする。とりあえず家に入ってくれ、このクソ暑い中で話すわけにはいかないだろ」


俺は綿貫を家に上げた。ノアは相変わらず俺にくっついたまま離れない。人見知り……というには少し様子が変だ。


『ねえ、少しだけいい?』


ノアが小声で訊いた。表情も不安そうだ。


「どうしたんだ」


『私の『勘』だけど。この先まずいことが起こる気がする』


「……?ちょっと待ってくれ」


俺は足を止めた。


「どうした」


「綿貫は先にリビングに行ってくれ。少し、彼女が俺に話があるそうだ」


首をひねりながら綿貫がリビングに消えた。それを確認した後、俺は廊下でノアに話しかける。


「まずいことって、綿貫絡みか」


『よく分からない。あたしは母様のように『予知』まではできないから。ただ、何か嫌な予感がする。それも、かなり近いうちに』


「綿貫を帰した方がいいか?」


少し考えた後、ノアが首を振った。


『あの人が災厄を運んでくるわけじゃ、多分ないわ。でも、話は慎重に進めた方がいいと思う』


「急ぎすぎるな、ということか」


コクン、とノアが頷いた。


俺はしばし目をつぶった。国の関与があった方が、食糧不足の不安は後退する。身の安全も保障されやすくなるだろう。ただ、性急に動けば動くほど、騒動になるリスクは高まる。

イルシアの存在はなるべく長く隠しておく方がいいとは思っていたが、ノアもその辺りの問題意識は共有しているということなのかもしれない。


ただ、「かなり近いうちに起きるまずいこと」とは何だろうか。イルシアのことが早期に漏れてしまうということか。

夏の探検気分でファンタジーランドの建設予定地に向かう若者がいたら、それは止めようがない。そんなことがあるとは、あまり思えないが。


とにかく、綿貫をこれ以上待たせるわけにも行かない。俺はリビングに入った。


「すまない、少し遅れた」


「その子と相談事か」


「まあ、そんなところだ」


綿貫は物珍しそうにリビングを見渡した。俺は麦茶のプラスチックグラスを3人分置く。


「随分でかい家だな。まさか、ずっとここに一人で住んでいたのか」


「2年前に死んだ親父の遺産でね。幸い、一人でいるのは苦じゃない」


「ま、お前はそういう奴だな。トレーディングルームは2階か」


「最近はあんまりやらなくなってきたけどな。このレセッション相場だ、春にはポートフォリオのかなりの部分を現金化したよ。残っているのは、米株のディフェンシブぐらいだ」


「さすが天才相場師様だな。悠々自適の『FIRE』生活というわけだ」


喉が渇いていたのか、綿貫は麦茶をぐいっと飲み干した。


「……それにも随分飽きてきたけどな。本題に移ろう、この子のことだ」


「魔法使い、ってわけだな。しかし随分小さいな。中学生ぐらいか?お前にそういう趣味があるとは思わなかった」


ノアの表情が少し険しくなった。言葉は分からなくても、馬鹿にされているのはなんとなく分かるらしい。


「彼女は俺らより1つ下だ。あまり馬鹿にしない方がいい」


「は??いや、どう見てもよくて中学生ぐらい……」


ノアが懐から銀のロッドを取り出した。目が怒りに燃えている。……まずいっ。


『あなた、あたしを子供扱いしたでしょ』


「お、おい。何だよ君」


『『爆縮』』


俺が止めるより先に、綿貫の手元のグラスが粉々に砕け散った。麦茶がほとんど入っていなかったのは幸いだったが、それでもプラスチックの欠片が辺りに飛び散る。


「ノアっ!!」


『ごめんなさい。でも、あいつが何言ってるか分からないけど、トモの言葉で何言ったかは見当が付くわ。それに、あたしの力を分かってもらうには、ちょうどいいでしょ』


豪胆な綿貫も、さすがに目をぱちくりさせている。ノアは『次はあなたの頭がああなるわ』と告げた。


「おいおい……いったい何だよこれは。これが、魔法ってやつか」


「言葉は通じないが、子供扱いされたのは分かったらしい。俺も一度地雷を踏んだよ。次は頭を潰す、だそうだ」


ふうと息をつき、綿貫はグラスの欠片を払った。


「どうやら、魔法使いってのはマジらしいな。半信半疑だったが、こりゃ信じざるを得ない。で、どういう経緯でこの子と知り合った?具体的な経緯を聞かせてくれ」


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