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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第15話「大魔卿ギルファスとペルジュード隊長カシュガル」
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『へえ……ノア、雰囲気変わったわねえ』


イルシア王宮に着くと、開口一番シェイダがニヤニヤしながら切り出した。ノアの顔が、分かりやすく真っ赤になる。


『な、何言ってるのよ』


『隠しても無駄だって。ま、おめでとと言っとくわ。というか、今までよく手を出さなかったわね』


話を振られた俺の体温も上がっているのが分かった。エルフは性に奔放だとは聞いていたが、それにしてもあけすけに言うものだな。


「……よく分かるな」


『そりゃ感情を読むのは得意だしね。何より全然距離が違うもの、すぐに分かったわよ。アムルもそう思うでしょ』


珍しくその場にいたアムルが『それはその通りですわね』と微笑む。


『精気がかなり漏れてますものね。昨晩は随分励まれたんじゃなくて?』


『あ、あんたねえ……!!』


顔を真赤にしながら憤慨するノアを、俺はまあまあとなだめた。困ったことに、それは正しい。


昨晩は……というより、今朝まで結構な回数をしてしまった。処女でしかも小柄なノア相手に大丈夫かと思ったが、存外……というか相当相性が良かったらしい。ノアがこっそりと痛みを和らげるか、快感を高めるような魔法を使っていたのかもしれないが。

正直テクニックには自信がなかったのだが、それも杞憂だったようだ。しかもあれだけ長時間致していたのに体力は消耗していないどころか、むしろ調子が良くなった気すらする。

ノア曰く、『あたしとトモの魔力の相性がすごくいいのと、精を与え合うことで魔力が循環して活性化した』とのことだ。よく分からないが、房中術みたいなものなのだろうか。


何より、抱けば抱くほど愛おしくなる。これは相当依存度の強い麻薬みたいなものだ。今もノアはこうして密着しているが、互いにまだし足りないのかもしれない。


もっとも、そんなに呑気にイチャイチャしていられる状況でもない。明後日のペルジュード到来を前に、下準備が必要だ。俺は強めに首を振って、気合を入れ直した。


「ま、まあ俺とノアのことはいいとして……シェイダ、昨日少し話した阪上の件、頼まれてはくれないか」


『もちろん。ヒビキが連れて行くって話だっけ』


「ああ。余命幾ばくもないらしいが、記憶の読み取りぐらいなら何とかと思ってる」


『そうね。それは私に任せて』


俺はアムルの方を向いた。


「あと、これは夕方戻ってきてから詳しく話すが、ペルジュードへの対抗策で協力をお願いしたい。大熊が戻ってから、計画を詰める」


『……あの方も協力しなければいけないのですか?』


アムルからいつもの笑みが消えた。こんな彼女の表情は見たことがない。


『……アムル?』


『オオクマ様の同行が必須なら、考えさせていただきますわ。対抗策というのは、つまり戦闘行為を前提としたものですわよね?』


俺とノアは顔を見合わせた。この反応は全く予想外だ。シェイダも呆気にとられている。


『一応、万が一のためよ。平和裏に終わるならそれに越したことはないわ。

ただ、ペルジュードが何をやってくるかはわからない。この世界の軍事力は高いみたいだけど、それでも魔法で対抗できる頭数はできるだけ欲しいの』


『ノア、あなたはいいですわね。トモ様とまぐわって、彼自身の力も底上げできる。戦闘でも、多分彼は足手まといにはならないと思いますわ。

でも私には、多分同じことはできませんわ。……殺してしまうかもしれませんもの』


真顔で反論するアムルに、ノアが口を閉ざしている。彼女はそのまま続けた。


『オオクマ様は、あくまで一般人ですわ。魔力は、ヒビキ様はもちろんトモ様にも遠く及ばない。精力は質も量もとてつもないですけど、口吸いでの消耗を見る限り私とのまぐわいには耐えられないですわ。

そして、何よりオオクマ様を危険には晒したくないのが本音ですの。ご理解くださいませ』


『……あなた、オオクマを愛してるの』


アムルが困惑気味に首を傾げた。


『愛……それがどういうものかはよく分かりませんわ。オオクマ様を『なくならない食料』と考えているのも否定できませんもの。

ただ、できるだけ一緒にいたいと思っているのも事実ですわ。やっと、少しだけ言葉が通じ合うようになって、そう思い始めてますの』


『……そう。トモ、どうする?』


俺は目をつぶった。大熊にこの話をした時、どう反応するだろうか。

あいつは単純な男だ。恐らく相当喜ぶだろう。そして、「アムルとの未来を邪魔する奴は潰す」と言いかねない。それはアムルの意志とは反する。

何よりアムルの言う通り、大熊は戦闘の現場では足手まといになりかねない。もちろん、アムルはそれを補って余りある戦力だ。だが、アムルは大熊を失うのを恐れている。


「大熊抜きでアムルを参加させるのはどうなんだ」


『それが一番無難だと思うけど。アムル、それはどうなの』


アムルは何かを思案しているかのように黙っている。シェイダがふうと息をついた。


『今ここで結論を出さなくていいんじゃないかしら。そっちも、アサオと会って明日どうするか相談するんでしょ?

この世界の人たちの協力体制が分かってから、そこはもう一度考えましょ』


『……それもそうね』


ノアが小さく頷いた。ペルジュード対策は、いきなりプラン通りとはいかなくなってきた。



「アムルの件、どう思う」


イエローアロー号の車窓から流れる景色を見ながら、俺はノアに訊いた。ノアは『うーん』と唸る。


『あたしも彼女の考えてることはよく分からない。でも、先代様がお隠れになられてからずっと心を閉ざしてきたアムルにとって、オオクマを喪うことの恐怖は結構あるんじゃないかしら』


「また大切な人が死ぬ、と?」


『うん』


「魔力的な接点とやらを持たせるには、例の……その、『魔紋』を見せればいいんじゃないか」


ノアが渋い顔になった。


『簡単に言うけど、あれは生涯を共にする相手にした見せないものよ?アムルも、オオクマに対する感情が何か分かってないんだからそこまでできないんじゃないかしら。

まぐわうとなったらもっと大変。一応、魔紋を見ないでもできなくはないけど……イリュミスである彼女が最も精力を吸えるやり方がアレだから、普通に考えたら吸い殺しちゃう』


「難しいものだな」


コーラを一口飲んで、ノアが首を縦に振った。


『アムルはあんまり当てにできないかもね。後はあたしとアレン、そしてこの国の警察。それで足りるといいけど』


「……そうだな」


頭数だけなら足りているような気がする。ただ、何か妙な胸騒ぎがする。この違和感は何だ?


その時、スマホが震えた。……綿貫からだ。


「どうした?」


「ちょっとトラブルだ。今どこだ?」


綿貫の声は、明らかに焦っている。俺の背筋に冷たいものが走った。


「T駅を通過したところだ。特急だから、議員会館まではあと1時間ぐらいで着く」


「電車移動か……仕方ないな。とりあえず、悪いニュースだ。

ラヴァリからの押収品を精査していた東大で、傷害事件が起きた。正気を失った研究員が、例の短剣で教授を刺したらしい。浅尾のオヤジも、かなり深刻に捉えてる」


……「魔剣」の影響だ。あれに意志があるのなら、阪上のように「依代」を求めても不思議じゃない。


俺はゴクンと唾を飲み込んだ。


「犯人は?」


「現行犯逮捕だ。刺された教授は重体らしい。とにかく、阪上の件もあってオヤジの異世界に対する心証は悪くなってる。心しとけよ」



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