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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第14話 「C市市長秘書・石川渚とC市警察署警部・中川仁志」
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14-6


「ノアは、どう考えてる」


2階の寝室、ベッドに腰掛けながら俺は呟いた。ノアは小さく首を振る。


『……どうしようもないわ。選択肢は、ないに等しい』


「そうだな。だが、このままでいいとも思わない」


『……うん。全部あいつの思う通りというのは癪。それに、ウィルコニアはあくまでイルシアのものよ。そこは絶対に譲れない』


そう言うだろうとは思っていた。だが、打開策が見えない。


こちらの方から何か追加で要求できることはないかと考えたが、めぼしいものは見足らない。柳田はこちらが望むものをほぼ出してきた。ただ、その代償としてウィルコニアは釣り合うものなのか。

なし崩し的に柳田の管理下に置かれるのが最悪のシナリオだ。あるいは、それに反発したイルシアの人々が「戦争」を仕掛けるか。それも悲惨な結末しか見えない。


あくまで使うのは一度きり、としてもその後が見えない。柳田は、メリア・スプリンガルドは先兵であると言った。つまり、帝国やオルディアには侵略の意図があると見た方がいい。

政府が向こうと話を付けたとしても、その後起きるであろう社会的混乱を柳田はどう考えているのか。こちらからシムルへの移住や交易も当然視野には入れているだろうが、話を聞く限り向こうの世界は崩壊寸前だ。どう考えても簡単に進む話ではない。


2人とも無言のまま、時間だけが過ぎていく。いつまでも柳田が待ってくれるとも思えない。タイムリミットは、嫌でも確実に近づいている。



……待てよ。柳田に対抗できそうな人物が、1人いる。



浅尾副総理だ。



浅尾もまた、シムルへの進出を念頭に置いているだろう。その限りにおいて、柳田と思惑は一致する。メリアの復活は、彼にとっても望むところだろう。

だがその後は?柳田との間で、主導権争いは確実に生じるはずだ。浅尾の頭の中に「シムル進出」はあっても、その逆はどうか。


俺に浅尾と柳田との本当の関係は分からない。ただ、綿貫は浅尾に近いが、柳田とはそこまで親密ではない。つまり、柳田に悟られず、浅尾と関係を構築することは可能だ。

もちろん、浅尾もまた心を許せるタイプの人間ではなさそうではある。彼がイルシアのことを第一に考えてくれるというのは、虫が良すぎる話だ。それでも、このまま素直に柳田の言うことを聞くよりは、まだマシなように思えた。


スマホを取り出し、綿貫に「落ち着いたら浅尾副総理と面会したい」と一報を入れる。ノアがそれに気付き、『何をしたの?』と訊いてきた。


「対柳田への布石を打った。浅尾副総理を、こちら側に付ける」


『アサオ?この前イルシアに来た、偉そうな人よね』


「ああ。この場では柳田の要求を呑むしかない。だが、その後は別だ」


『え?』


「ウィルコニアとジュリを、柳田の思う通りにさせないためには、別のより大きな庇護者が必要ってことだ。それがかなうなら、ここは折れてもいいと思ってる」


ノアがじっと俺を見る。そしてふうと息をつくと「トモに託したわ」と小さな声で言った。


「すまない。ゴイルさんたちへの説得もしなきゃいけないが」


『そうね。でも、ある程度の策は持った上でしょ?その時説明してくれればいいわ』


「そろそろいいかなあ」と、亜蓮の声が下から聞こえてきた。丁度いい頃合いだ。


「今向かう」


階段を降り、柳田と向き合う。覚悟は決まった。


「どうですか」


「分かりました。基本、あなたの要求を呑みます。聖杖ウィルコニアは、そう遠くないうちにあなたの妻、メリア・スプリンガルドの病の治療に使う。イルシアの説得はこれからになりますが」


柳田が、はっきりと満足そうに笑った。


「いいでしょう。ならば交渉成立……」


「その代わり、一つだけ条件が。ウィルコニアの利用は、今回限りでお願いします。あれはあくまでイルシアのものですから」


「……その程度なら受けましょう。他には何もない、いいですね?」


「ええ。相違ありません」


亜蓮の目が鋭くなった。多分、俺に対して何かしらの疑いを抱いている。

だが、柳田は無言で彼の手を押さえてそれを制した。多少策を弄したところで、どうということはないという自信の表れか。


「なら話を進めましょう。まずは阪上の件でしたね」


俺は頷くと、現状でのプランを説明した。柳田は無言でそれを聞く。一通り話し終わると、「いいでしょう」と短く言った。


「こちらもこれから佐藤先生に会う予定でした。丁度いいので、そこに阪上市長も呼びましょうか」


別件でC市に来る用事とは、このことだったのか。もし俺が要求を呑まなかった場合、柳田は阪上を利用しようとしていたのかもしれない。背筋に悪寒が走った。


「……分かりました。場所は」


「『鹿宴閣』という旅館です。では、向かいましょうか」


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