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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第14話 「C市市長秘書・石川渚とC市警察署警部・中川仁志」
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14-4


「どうぞこちらへ」


殺風景な会議室に通されると、一重で胡麻塩頭の老刑事が座るよう促した。


「失礼します」


「電話を鳴らしても出なかったので不安だったが、来られて良かった。昨晩は災難でしたな」


中川刑事が被害届の書類を差し出した。


「いえ、予感はありましたから」


「にしても、実に冴えた勘をお持ちだ。あの滝川峡谷の死体発見の件といい」


ニコニコと笑う中川刑事だが、目は全く笑っていない。当然、俺を探っている。俺は隣のノアを見た。


「隠しても仕方がないですが、彼女の力ですよ」


ペコリ、とノアが頭を下げる。シムル語で『あたしの言葉、分かりますか?』と訊いたが、中川刑事はきょとんとした表情だ。どうも彼には念話が通じないらしい。


「ネットで噂の魔法少女、らしいな。本当に実在するとは」


「ご存じであれば話は早いです。イルシアは実在します。このC市に」


「……それは驚いた。ただ、それがどうして命を狙われるように?」


口で言うほど驚いたようにみえないのは、恐らく魔法などにさほどの興味がないのだろう。むしろ彼の関心は、何故俺が狙われていたかだ。


「多分、阪上市長関連の話です」


中川刑事の表情が一変した。細い目がさらに鋭いものへと変わる。


「詳しくお話を。昨晩は、その辺りはぐらかしていたな」


俺は頷く。昨晩段階では、阪上を追い詰めるだけの材料がなかった。しかし、今はある。


「阪上市長はイルシアの存在を一刻も早く公のものとしようとしています。ただ、そうなればこの近辺一帯が大騒動になる。それを防ぐため、私たちは色々と動いてきました。国の協力も非公式ではありますが得ています。

それに対応して、阪上市長は揺さぶりをかけてきました。そして、その過程で彼に黒い過去があるらしいことが分かってきた。15年前の、鈴木一家失踪事件です」


「それも、魔法とやらで知ったということか」


「はい。ただ、そんなことを言っても何の証拠にもならないし、実証もできない。だから昨晩は敢えて黙っていました。申し訳ございません」


中川刑事は頷くと、「タバコを少し、吸っていいか」と訊いてきた。同意すると、彼はアイコスを取り出し一口大きく吸う。白煙が辺りを漂った。


「君が『死体は鈴木一家のものだと思う』と言った時、俺はそんな馬鹿なと思ったよ。ただ、そんな突拍子もない噓をつくとは思えない。だから、敢えて乗ってやることにした。

実際さっき、鑑識から歯形の照合であれが鈴木義成氏である可能性が極めて高いと来た。骨年齢がやたら老化していたから自信なさげだったが、歯形の合致は決定的だ。

魔法の存在なんて俺は信じもしないが、なるほど孫がその娘の動画に夢中になっていたわけだな」


「……なぜ、私の言葉に乗ったんですか」


「まあ、最大の理由は刑事の勘だな。繰り返すが、噓にしては下手すぎる。それに、あんな場所でピンポイントで死体を掘り返すこと自体、かなり変だ。

君の年齢からして、共犯とかそういうのもかなり考えづらい。となれば、何らかの方法で真実を知った人間と解するのが妥当だ。

高崎ゲンから聞いたのかとも考えたが、それにしてはやや詳細に過ぎた。だからこそ、昨晩は君の言葉を信じ、家の前で張り込ませたというわけだ」


「2つ質問が。まず、高崎の容体は」


「M町の大学病院に搬送されたが、意識は戻ってないと聞いた。というか、実年齢より遥かに老けていて、病院もどういう理由によるものか、かなり困っているらしいな。

自首すると連絡があったが、それを止めようとしていた連中に攫われたという認識だ。そっちはそっちで別途捜査中だ」


やはり意識は戻っていないのか。昨晩ノアに聞いたが、『『老化』の治し方はかなり難しい』と厳しい表情だった。治癒魔法を使っても、老化した細胞は元には戻らないのだ。

「グレイスワンダー」が吸い取った生命力を戻すには、当のグレイスワンダーでもう一度斬り付けねばならないらしい。その上で、生命力を定着させるための措置が必要ということだ。


阪上に対して反旗を翻すことが、どれほどの勇気を要するものだったか。さっきの渚の怯え方を見る限り、かなりの決心を要したはずだ。

高崎は悪名高い人物ではあったが、根っこまでの邪悪ではなかった。彼は何とかして救わないといけない。


俺は溜め息をつき、次の質問に移った。


「……ありがとうございます。次に、逮捕された襲撃犯は」


「カンモク(完全黙秘)だ。石川組の構成員が何人かいたから、マル暴の連中と協力して組本部に問い合わせている。どうせシラを切るんだろうが。まさか、石川組もこの話に噛んでいるのか」


「ええ。石川組組長の娘が、阪上の秘書をやっています。彼女は阪上の恋人だか愛人だかですが、阪上の指示で動いたと私は理解しています」


「なるほどな」と、中川刑事が再びタバコを吸った。ノアはそれをじっと見ている。


「驚かなイんでスね」


「……阪上は、ずっと追い続けてきたホシだ。やっと尻尾を出したかという思いだよ」


「追い続けてテきタ?」


「俺は15年前、鈴木一家失踪事件の捜査を担当していた。阪上ももちろん、捜査線上に浮上していた」


俺は目を見開いた。驚いたのはこちらの方だ。


「そうだったんですか」


「ああ。鈴木一家の家に出入りしている人間を洗い出していく中で、有力容疑者だったのが阪上龍一郎だ。奴は鈴木家の一人娘、鈴木春香の家庭教師をやっていたからな。

ただ、物証が本当に何一つなかった。やっと死体が発見されたというぐらいだ。アリバイもしっかりしていて、崩せなかった」


恐らく、鈴木家から奪った「遠見の水晶」の力で各方面に圧力をかけたのだろう。どうやってその効果を知ったのかは、いまいち定かではないが。


「中川さんは、ずっと彼を犯人だと」


「ホンボシ(真犯人)は奴だろうと、ずっと思ってきた。最初の任意取り調べの時に浮かべていたあの余裕の笑みを忘れたことはない。

『絶対に捕まらない』と確信している人間しか、あんな風に笑わない。俺はそれを何度も切り崩してきたが、あいつだけはできなかった。

何度も何度も聞き込みをして、中には有力証言らしきものもあった。だが、証言した人間はどれもいつの間にか前言撤回したり、姿をくらませたりした。そして気が付いたら『お宮入り(迷宮入り)』だ」


心底忌々しそうに中川刑事が吐き捨てる。この15年間の屈辱は、相当のものだったのだろう。


中川刑事は再びタバコを吸い、話を続けた。


「……そして、阪上はいつの間にかC市の市長にまでなっていたから愕然としたよ。俺の勘が外れていたのかとずっと自問自答してきた。

そうしている間に定年も迫ってきた。このままお宮入りしたら死んでも死にきれないと思っていたとこに、今回の件だ」


「だから、私の言うことを信じようと?」


「一種の賭けだったが、当たってくれたようだな。君がどういう人間かは関係ない。異世界や魔法使いどうこうもどうだっていい。俺にとって重要なのは、阪上を鈴木一家3人を殺した犯人として挙げること。それだけだ」


やけに物分かりがいい刑事だと思っていたが、そういうことだったのか。ようやく納得がいった気がする。


「私をこちらに呼び出した真意も、そこにあるわけですね」


「そういうことだ。現状、やはり物証がない。死体から何か出てくるかもしれないが、科捜研が調べ終わるまでには時間がかかる。そして、奴に繫がる物証が出る保証もない。

せめて、別件逮捕でもいいから高飛びされる前に奴の身柄を拘束したい。そこで、奴について何らかの情報を持っているであろう君たちに協力を願おうと思った次第だ」


俺はノアと顔を見合わせ、互いに頷いた。中川刑事の協力は得られそうだ。


「こちらも是非、中川さんにご協力頂きたいことが。別件逮捕、できるかもしれません」




警察署を出ると、時刻は既に11時近くになろうとしていた。柳田との約束の時間は近づいている。

スマホには、LINEで市村から阪上の動向が逐次送られてきていた。ジュリの「千里眼」を使った監視だ。


『字読めないんだけど、何て書いてあるの』


「……とりあえず、記者会見に向けた準備をしているらしいな。時間は午後3時から。

平行して、佐藤議員とも接触しているらしい。国に仁義を切ろうとしているみたいだ」


『割と普通ね。イルシアに攻め込んでくるのかと思ってた』


「さすがに白昼堂々とはやれないらしいな。ただ、石川組組長の石川清とは連絡を取ってる。最低でも、俺の首だけは取りたいらしい」


『……大丈夫なの?』


「計画が上手く行けば、問題はないさ」


逆に言えば、今日阪上を何とかしないと俺の命の保証はないということになる。ずっとイルシアに引きこもっているわけにもいかない。


そして、阪上は各関係者に内容を伏せながらではあるが「極力この記者会見のことを報じるように」と動員をかけていた。もちろんイルシアの存在を公表すれば相当な騒ぎになるだろう。それは同時に、世間の目を鈴木一家失踪事件から逸らすことにもなる。

背景にあるのは昨日の高崎ゲンの動画、そしてその後彼が意識不明で搬送されたという事実だ。まだ、それらは阪上に結びつけられてはいない。ただ、15年間もの間行方不明だった鈴木一家の死体が見つかったことは、奴に相当なプレッシャーになっている。


『渚って子、まだ阪上の所に来てないのよね』


「こちらがゴーサインを出すまでは動くなと伝えてある。幸いなことに、渚の不在はそこまで気にしている様子はないな」


阪上にとっての彼女は、都合のいい道具以上のものではないのだろう。奴に彼女への情があれば面倒だったが、その心配はなさそうだった。


タクシーを捕まえ自宅に戻ろうとしたその時、黒塗りの高級車が警察署に来たのが見えた。なぜだか分からないが、軽い寒気を感じる。


その理由は、すぐに分かった。


車は俺たちのすぐ近くに停まる。後部ドアから現れたのは……



「柳田副官房長官!!?」



予想外の出来事に、俺たちはただ立ちすくんだ。



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