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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第14話 「C市市長秘書・石川渚とC市警察署警部・中川仁志」
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14-2


『ふああ……さすがに眠いわねえ』


ノアがうつらうつらと水晶玉を見ている。ノアがイルシア王宮に戻って2時間。時刻は既に午前1時を大きく回っている。

男に戻った市村は、さすがに一度家に帰した。市村が襲われる危険性も考えたが、『もしそんなことがあったらボクがなんとかするよ』とのジュリの言葉を信じることにした。

ラピノはというと、猫の姿に戻りノアの横で熟睡中だ。治癒魔法をかけてもらったらしく、ぱっと見では傷は全く見当たらない。


水晶玉に映るのは、俺の自宅前だ。千里眼は、場所さえ指定すれば固定カメラのような役割も果たすことができる。


「多分そろそろだと思うぞ」


『来るならさっさと来てくれないかしら……ふあーあ』


ノアが大きく欠伸をしている。今日、ノアは相当多く魔法を使っている。「ソルマリエ」の効果があったとはいえ、さすがに体力の限界が近いようだった。


阪上の手の内は、あれからさらに監視することでかなり見えてきた。


まず、俺の自宅を襲うことで「遠見の水晶」を奪い返す。ノアがいたとしても、銃を持った男が5、6人いれば十分という判断らしい。

もしノアがいない場合、俺を人質にしノアを揺さぶる考えのようだ。実際には2人ともいないわけだが。


その上で、明日午後に記者会見を開く考え、らしい。これはイルシアの存在を公表するもので、幾つかのマスコミに会見の実施をリークしていた。もっとも、いわゆる「解禁付き」のようだが。


水晶玉を見ていると、スマホが震えた。こんな夜遅くにと手に取ると、「射手矢貴」の文字が見える。


「どういうことなんだ!?C市の緊急記者会見、イルシアの件だろ、ええ??」


開口一番、辺りに響くほどの剣幕で射手矢が怒鳴る。新聞記者という奴は、深夜だろうが基本お構いなしにこういう電話をかけてくるもののようだ。


「落ち着け、夜遅いわけだが」


「落ち着いていられるか!!お前の言う通り待ってたらこれかよ!?イルシアがどこにあるか、その真偽も含めて皆が知りたがってんだぞ!こんなことならさっさと書いておくべきだったわ!」


俺は射手矢の怒号に軽い溜め息をついた。


「代わりのネタはある。15年前の鈴木一家失踪事件の主犯を教えてやる」


「……は!?なんでそんなもん知ってるんだよ!??」


「高崎ゲンが数時間前に公開した動画を見ろ。そこにある通り、今日C市で発見されたスーツケースに詰められた白骨死体は鈴木一家のものだ。まだ警察は特定できてないが、明日には多分把握するだろう。

俺はこの犯人を知っている。C市の記者会見を中止に追い込んだ上で、この人物が誰かを教えてやるよ」


「お前、警察に伝手なんて持ってるのか??そもそも、高崎ゲンが先にゲロるんじゃ……」


「高崎ゲンは監禁され、意識不明の状態で発見された。これもそろそろC市警察が会見を開く頃合いのはずだ。回復は……少なくとも当面は望めない」


「はあ!?だから何でそこまで知ってる……」


「魔法、だよ。詳しくは言わないが、確証はある」


射手矢がしばらく黙った。魔法の存在は、射手矢ももちろん認識している。


「……あのちっこい魔法使いがやったのか」


「イルシアの別の人物が端緒を摑み、俺とノアで真実を暴こうとしてる」


「状況はよく分からんが……しかしなんでそんなことに首を突っ込んでるんだ」


「落ち着いたらゆっくり説明するよ。イルシアの一件とも無関係じゃないことだ」


「……分かった。信用するからな」


電話が切れ、俺は軽く息を吐く。射手矢に言ってしまった関係上、いよいよ後には引けなくなった。記者会見までに、阪上を警察に引き渡さないといけない。


普通に考えれば、阪上が捜査線上に浮かび上がるまでには時間がかかる。死体の身柄特定はともかく、そこから阪上に繫がる証拠が出てくるかどうか。仮に出たとしても、15年前の話だ。捜査はかなり慎重に進められるだろう。


だが、阪上は2つ大きな失態を晒している。まず、出頭しようとしていた高崎を事前に拉致し、「グレイスワンダー」で老人とさせたこと。実行犯は西部開発の人間だろう。そこから阪上まで辿り着くのは、そこまで時間はかからない。そのはずだ。


そして、より大きな失態は……「遠見の水晶」を奪い返そうとするあまり、俺の家を襲撃するよう指示したことだ。


奴の秘書がどういう身元なのかは知らないが、間違いなくヤクザ関連の人脈がある。恐らくは父親がその幹部か何かだ。その実行犯を捕まえれば、阪上に対する捜査の手はさらに早まる。

そして、俺たちには行動を先回りする手段がある。こうやって千里眼で自宅前を監視しているのも、そのためだ。


『来たよ』


ジュリの声と共に、水晶玉の中でワンボックスカーが俺の家の前に停まる。中から覆面姿の男が5人ほど現れた。


「分かった」


同時に、俺はスマホで電話をかける。相手は、俺の事情聴取を担当していた、中川という刑事だ。


「もしもし」


「今、動きがありました」


「……にわかには信じがたいが、そのようだな。了解した」


どこに隠れていたかは定かではないが、辺りから警察官が7、8人相次いで現れた。そして、自宅敷地内に押し入った男たちに対して一斉に詰め寄る。


俺は小さく頷いた。予定通りだ。


『ふぁああ……本当に来たねえ』


「ああ。中川警部が俺の言うことを信じてくれて助かった」


俺は阪上の襲撃指示を受け、「自宅前を警備して欲しい」と、警察に連絡していたのだった。最初は渋っていたが、この中川警部という老刑事が強く推してくれたらしい。

事情聴取でも、この刑事は随分俺に対して協力的ではあった。なぜ死体を見つけたのかについてはかなり疑問に思っていたようではあったが、それでも深い追求はしてこなかった。

田舎の刑事だから質問が甘いのかと思ったが、どうもそんな感じでもない。何か別の事情がありそうだ。


水晶玉の中では、混乱した男たちが次々と警察官に組み伏せられていく。ワンボックスカーのドライバーは逃走しようと車を急発進させたが、すぐに覆面パトカーがその後を追っていった。


『これでサカガミはさらに追い詰められた……ということでいいのよね』


「まあな。ただ、最後のダメ押しが要る」


『ダメ押し?』


「そう。これで多分、『王手』がかかる」


襲撃犯は、いわゆる「鉄砲玉」のはずだ。万一捕まったら、窃盗団のフリをしてシラを切れと言われているだろう。


だが、あの女はどうか。


「ジュリ、阪上と一緒にいた女に、千里眼の対象を移せるか」


『できるけど……もう寝てるかもよ』


「明日朝でいい。阪上と離れたなら、すぐに対象を移してくれ。接触する」


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