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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第14話 「C市市長秘書・石川渚とC市警察署警部・中川仁志」
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14-1


俺は唾を飲み込んだ。体温が一気に上がるのが分かる。


「……何の用件ですか」


わずかな沈黙の後、柳田は静かに答える。


「それは当日お会いしてからで構いませんか。私の方から、C市へうかがいたく」


「……東京からは、随分と遠い場所ですよ」


「車で2時間は遠くはないですよ。どちらにせよ、C市には行かねばならないので」



どういう意図だ。なぜ用件を伏せる。



可能性は二つ。まず、とても言えるような用件ではないこと。亜蓮を連れてくれば、俺を殺すことはたやすい。ノアが同席していたとしても、まとめて始末する自信があるのか。

阪上が佐藤議員経由で俺の処理を柳田に依頼した可能性は捨てきれない。阪上は追い詰められている。そのぐらいのことはしても不思議ではない。


ただ、一地方自治体の長の言うことを、あっさり柳田が聞き入れるものだろうか。たとえ何かしらの弱みや利益供与をちらつかせたとしても、持っている権力にはなお雲泥の差がある。

それに、阪上が亜蓮の存在を知っているとはまず思えない。恐らくは、阪上が柳田にコンタクトを取った理由は、もっと別の所にある。


……本命は浅尾肇副総理か。


阪上が浅尾副総理がここに来たことを知っていたかは分からない。ただ、「遠見の水晶」を使って間接的にそれを把握したのかもしれない。とすれば、浅尾副総理に仁義を切ることで、阪上がイルシアの存在の公開に踏み切っても国の支援を受けやすいようにするという手はある。

阪上は、あの水晶をなんとしてでも取り戻したいはずだ。そのためには、イルシアの存在をオープンにし、国と一緒に動くことで実質的な支配下に置くのが早い。浅尾副総理の側近である柳田にコンタクトを取ろうとしたのは、その足がかりというわけか。


とすると、用件を伏せている理由は、こちらだ。



恐らく、当日に何らかの選択を突きつけるため。今言うよりも、逃げ場がない状況で言った方がいい要求を、柳田はしようとしている。



それがどういう理由かは不明だ。ただ、ここで断るなら亜蓮を使って殺しに来る可能性は相応にある。いわば、この電話は一種の脅しだ。


ただ、それにすぐに屈するほど俺は甘くはない。柳田を少しでも揺さぶってやる。


「……C市に行く、別の理由があるわけですね。阪上市長の件、違いますか」


「君には関係のない話です」


「いえ、関係は多分、大いにあります。2つの理由で、彼はもう野放しにできない。

まず、彼が恐らくは15年前の鈴木一家失踪事件の主犯であるということ。そして、鈴木一家が持っていたであろうシムル産の道具を所持していて、それを各方面への恐喝に利用していたこと」


「……」


柳田が黙った。これは、全く彼の想像の埒外にある事実のはずだ。


「……どこまで、信憑性がある話なのですか」


「前者は証人がいます。ただ、阪上の手によって証言ができない状態にさせられてしまいましたが。後者は間違いのない話です」


「……阪上とシムルに繫がりが?」


「厳密には、彼に殺されたであろう鈴木一家とシムルとの間に繫がりがあった、です」


再び柳田が黙った。恐らく、俺への対応策を練り直しているはずだ。


20秒ほどの沈黙の後、柳田が口を開いた。


「……分かりました。何にせよ、君には急ぎ会わねばならないようだ。明日昼までに、そちらにうかがいましょう。ご自宅の住所を教えてもらえますか」


俺が自宅の住所を告げると、「結構」と柳田が返した。


「では、明日12時ごろにうかがいましょう。夜分遅く、申し訳ありませんでした」


電話が切れると、俺は大きく息を付いた。これで、俺をそう無碍にはできなくなったはずだ。


「大丈夫ですか?」


心配そうに訊く市村に、俺は頷く。


「ああ。問題は、水晶を奪われた阪上の出方だな」


ジュリの方を見ると、既に巨大な水晶には阪上の視界が映し出されていた。怒りにまかせて暴れ回ったのか、寝室の壁にはあちこちに剣で斬ったと思わしき傷ができている。


「クソがっ!!絶対に取り返してやるっっ!!渚、親父さんを動かせるかっ!!?」


「龍ちゃん、落ち着きなよ!まさか、正面から堂々とカチコミかけさせるなんて言わないよね?銃持って突っ込ませても、向こうには結構人いるんだよ?」


「イルシアにじゃねえ、あの魔法使いの保護者、町田のとこだっ!!夜遅い今なら、攫って埋めることくらいできるだろ!?ヤサは割れてる、今すぐ動かせる若いのを5、6人向かわせろっ!!」


「でも……」


パンッ、と阪上が半裸の女を平手打ちする。男として、酷く嫌悪感をおぼえた。


「でもも何もねえんだよ!田舎ヤクザを稲村会の若頭補佐まで押し上げたのは誰のおかげだ、ええっ!??」


涙目になりながら渚と呼ばれた女はスマホをタップした。阪上はぶつぶつと「大丈夫だ、俺に嫌疑はまだ向かねえ」と言っている。


それを見ていたジュリは『馬鹿だねえ』と肩を竦めた。


『トモはここにいるし、ノアもこっちに戻ってくる。トモの家を狙っても、何の意味もないのに』


「向こうが千里眼の存在を知らない以上、それはやむを得ないさ。むしろ、この暴走は好機だな」


『というと?』


「まあ、見ててくれ。阪上の命運を一気に縮めることができるかもしれない」



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