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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第13話「使い魔ラピノと片桐百合子」
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13-7


水晶玉の中の「映像」が激しく揺れた。ラピノが鞄を持って逃走を図ったのだ。



ドンッッッ!!!



何かが激しくぶつかる音がした。振り向いたラピノの目に映ったのは、半裸の阪上が「グレイスワンダー」を振り下ろした姿だった。


「逃がさねえぞ!?」


そのままブンブンと阪上が剣を振る。そのたびごとに、黒い何かが放たれているのが分かった。それはラピノだけでなくノアにも向けられているようで、ノアはロッドでそれを受け流していた。


『魔法使いでもないのによくやるわね』


「やはりこれが魔法かっ!!」


ラピノは壁を蹴り、三角跳びの要領でベッドを大きく飛び越えた。着地したところを阪上が剣で斬りつけようとする。


「ニャッ!!」


「ぐおっ!??」


ラピノが右腕に蹴りを入れると、グレイスワンダーは入り口の方へ弾き飛ばされた。阪上は肩で息をしながら、左手で蹴られた右腕を押さえる。


「今ニャッ!!!」


ラピノはそれを奪おうと猛然と跳ねた。



……その瞬間。



パンッッ!!



「ニ゛ャア゛ッッッ!!?」



ラピノはその場に倒れ込む。何があった!!?



「これでいいでしょ、『龍ちゃん』」


「渚、でかしたっ!」


振り向いたラピノの目には、小型銃を握った秘書の女が映っていた。堅気じゃないのか!?


「ラピノッ!!?」


ラピノに駆け寄ろうとしたノアに、女が銃口を向ける。


「あんたも撃つわよ」


「ファインプレーだ、渚」


阪上はラピノを蹴り上げると、落ちていたグレイスワンダーを拾い上げた。


「さて……こいつも『萎れさせて』埋めるか。渚、親父さんに連絡を。また借りを作っちまうのは癪だが」


「こっちも龍ちゃんのおかげで食わせてもらってるんだからお互いさまよ。こっちの魔法使いの子はどうする?」


「デリンジャーは使うな。これ以上騒ぎになるとさすがに厄介だ。ただでさえ、鈴木の件でゲンがやらかして俺に嫌疑がかかりそうなんだ」


「了解っと」


半裸の女がノアに近づこうとした時、ノアがニイと笑う。そして、指揮者のようにロッドを振り下ろした。



『『圧波』』



ズォンッッッ!!!



「ぬおっっっ!!?」


「きゃあああっっっ!!」



阪上と、渚と呼ばれた女がしゃがみ込む。前に玉田に使っていた、足止め用の魔法を使った!?


『ラピノっっっ!!動けるっ!?』


『怪我は、右肩、ですニャッ……持てるのは、鞄まで、ですニャッ……』


『グレイスワンダーは諦める!!今はここを離れるのが先よっ!!』


ラピノはしゃがみ込んでいる2人を迂回するように、ノアの後ろについた。『怪我は後で治すから、少し我慢して』とノアが呼びかける。


「ここは6階だぞ……どうやって逃げるつもりだ。マンションには監視カメラもある、言い逃れはできねえぞ」


『ご生憎様。あたし、空を飛べるのよね』


ラピノはノアにおぶさる。ベランダに出たノアが、ふわりと浮いた。


『とにかく、あんたが奪っていったものはしっかり頂戴したわ。あとはこの国の法があんたを裁くから、楽しみにしてなさい』


背中に「ざけんじゃねえぞおおおお!!」という罵声を受けながら、ノアは夜空へと飛んだ。



「……ふう」


水晶玉の画面が消えると、俺は思わず安堵の深い溜め息をついた。一時はどうなることかと思ったが、何とかミッションは達成できたようだ。


しかし、想定外だったのは阪上の秘書だ。デリンジャーを持ち歩いていたとは……

そして、彼女の父親はどうも裏社会の人間であるらしい。ヤクザの娘を秘書にするというのはあまりにリスキーな気はするが、その情報が漏れない自信が阪上にはあるのだろう。


とすると、これで対阪上は一件落着とはいかない。警察の捜査が奴に入るにせよ、追い詰められた阪上はなりふり構わず何かを仕掛けてくるはずだ。

何より、柳田と接触されると相当にまずい。シムルからはラヴァリの同僚、「ペルジュード」の一団もすぐにやってくる。多方面作戦に対応できるほど、俺もイルシアの面々も余裕はない。


「町田さん、大丈夫ですか」


市村が心配そうに訊いてきた。「大丈夫だ」と空返事したが、正直口だけだ。

鈴木一家の死体から阪上に結びつくような物証が早期に見つかり、捜査の手が一気に阪上に及ぶぐらいしか何とかなるルートが見えない。


……どうする。どうすればいい。



ヴー、ヴー



スマホが震えた。ノアからかと思ったが、そこにあったのは「非通知設定」の文字だ。

激しい胸騒ぎがする。俺は極力冷静にと自分に言い聞かせながら、通話のアイコンをタップする。


「もしもし」


「町田智宏さんのお電話ですか」


「……はい」


静かな、低い声がする。嫌な予感が、さらに膨らんだ。



そして、そういうとき予感は往々にして的中するものだ。



「内閣官房副長官、柳田俊介です。明日、急ぎでお会いできませんか」





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