13-5
「町田さん!待ってました」
イルシア王宮前にノアと降り立つと、門の前には既に市村がいた。その横にはラピノがいる。「融合」とやらの効力は、ちょうど解けたようだ。
「阪上は捕捉してるか?」
「ええ、バッチリです。ちょうど誰か怖そうな人と話をしてるみたいで」
「ヤクザか誰かか」
「多分。……高崎さんは、まだ生きてはいるみたいです。ただ、埋めるとか何とか、そんな話になってます」
「あとで彼の居場所を把握しよう。警察をひとまず向かわせる」
俺とノアは駆け足でジュリの部屋に向かう。そこにはジュリとゴイル、そしてシェイダと一通りのイルシア上層部がいた。
『『遠見の水晶』があるって、本当なの?』
『可能性は極めて高いわ。……多分、母様の置き土産。推測するに、それは奴が殺した一家の持ち物だったと思う。どうして、スズキ一家が母様のものを持ってたかはよく分からないけど』
ゴイルが険しい顔でノアを見た。
『由々しき事態だな。そもそも、ランカはなぜそんなものをこの世界に残したのか?』
『あたしに訊かれても困ります、閣下。ただ、先代様の意向があった可能性はなくはないです』
『……そうだな。ランカが40年前に転移実験を行ったことは、私を含め極々限られた人間しか知らない。シェイダは確か知っていたはずだな』
小さくシェイダが頷く。
『……ランカがどういう意図でここに来たのかまでは知らない。ただ、滞在期間は3、4カ月ぐらいだったわ。その間にスズキという男に会っていたのかも』
『そうだな。ランカの意図はともあれ、これはイルシアとは全く無関係な話では、もはや断じてない。『遠見の水晶』は回収する必要がある』
『そうね。ランカに真意を問いただしたいけど、あいつは『大転移』の後始末のためにシムルに残ってるし……とにかく、これ以上の悪用は許されちゃいけない』
『その通りだ。御柱様、ご決断を』
しばらく目をつぶって黙っていたジュリが、口を開いた。
『盗みとかは、本当はするものじゃない。でも、そもそもサカガミが持っているのがおかしいものなら、取り戻すのが筋だ。やろう』
ジュリは「千里眼」の巨大な水晶を見た。そこには阪上のものと思われる視界が映っている。
どうやら車で移動中らしく、奴はしきりにスマホで話をしていた。内容は「高崎の埋め場所を確保しておけ」だとか、「従わないなら『あるふれっど』を使って追い込む」とか、そんな物騒なことばかりだ。
「お前がちんたらやってるせいでこんなことになったんだよ!!」という怒声と電話の声で、電話相手が坂本であると知った。電話を乱暴に切ると、阪上はスマホを後部座席のシートに叩き付けた。
『相当苛立ってるわね。どこに向かってるか分かる?』
「暗くてよく分からないな。視点を運転手に切り替えられるか?」
ジュリが『もちろん』というと、すぐに水晶玉の映像が変わった。……C市郊外から中心部に向かっているようだ。
一度郊外に向かった、ということはそこに誰かがいる可能性が高い。……高崎か?
水晶からは露骨に不機嫌そうな阪上の声が聞こえてくる。
「クソっ……圧力をかけなきゃいけねえ相手が多すぎる。どうすればいい……」
阪上が呟いている。再び視点を奴に戻すと、手元には直径10センチほどの水晶玉があった。
『『遠見の水晶』……!!やはり持ち歩いてたわね』
水晶の中の「映像」はせわしなく切り替わっている。何人もの「視界」を管理できるのか?
シェイダも『これは……』と険しい表情を浮かべる。
『『遠見の水晶』で管理できるのは、せいぜい1人か2人……これを見る限り、10人以上は『記録』されてる。
これがランカ製の特注品だからなのかもしれないけど、サカガミは相当に魔力もあるし、使い慣れてる……!!私としたことが、見誤ったわ……!!』
『あたしも初見では軽視してたもの、仕方ないわ。『遠見の水晶』以外の魔道具も持ってるかもしれないわね』
阪上は水晶のある部分で手を止めた。誰かが誰かと話している。その男に、俺は見覚えがあった。
「……柳田!?」
阪上は「チッ」と舌打ちをした。これはどういうことだ!?ノアも同じ感想を持ったのか、俺を見上げた。
『これ、誰かが柳田と話しているところ、よね』
「ああ。誰かは分からないが……柳田と手を組むことでも考えているのか?」
『……あたしにはちょっと分からない。でも、彼が良くないことを考えているのは分かるわ』
水晶玉の中の阪上は、「選択肢は限られてるな」と呟いた。車はC市では数少ない高級マンションに向かっているようだ。どうもここが阪上の住居らしい。
「……住居は割れたな。で、ノア。さっき言ってたいいことってなんだ」
『うん。その前に、ちょっと確認』
ノアがラピノの前に来て、しゃがみ込んだ。
『ラピノ、調子はどう?』
『ニャ!!ご主人の魔力が跳ね上がって、とっても調子が良いですニャ!!ヒビキと分離したけど、ヒビキの魔力も豊富で物凄く美味しかったですニャ。絶好調ですニャ』
『うん、ということは、シムルでやってたみたいなことは、一通りできる?』
『ニャ。『人化術』も、多分できますニャ』
ラピノは目をつぶると、精神を集中した。そして明るく光る霧がラピノを包み、それは徐々に大きくなる。
1分ほどすると、霧の中からノアより少し小さい、全裸の少女が現れた。
『どうですニャ!!久々だけどちゃんとできましたニャ!!』
『やっぱりね。とりあえず、服着なさいよ。トモとヒビキが困ってるじゃない』
確かに目のやり処に困る。少女とはいえ、それなりに出るものは出ている。市村も(今は女性の姿とは言え)目を背けていた。
少女になったラピノは首をひねる。
『ニャ?人間はどうして裸を嫌うのか、毎回のことだけど分からないですニャ』
『あんたねえ……。ジュリ、お願いできる?』
ジュリは『うん』と言うと、ラピノを薄手のワンピースとスカート姿にさせた。多分、ノアのいつもの服装を参考にしたのだろう。
『むー、やっぱりこれ落ち着かないですニャ。で、人化術を使わせてどうするつもりですニャ?』
ノアが小さく首を縦に振った。
『サカガミの家に忍び込むの。それで、あの『遠見の水晶』を奪ってきて。人にならないと、あれはきっと持ち運べないだろうから』




