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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第2話「宰相ゴイルと将軍ガラルド」
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2-4


『何、この宮殿みたいな建物……』


軽トラから降りると、ノアが唖然として上を見上げた。


「ただのホームセンター兼ショッピングセンターだ。まあ、要するに買い物をするところだな」


『市場ってこと??イルシア王宮並みか、それ以上に大きくない??』


「今日はここより大きな所にも行くぞ」


『……は??』


俺はカートを押してどんどん前に進む。時間の猶予はそれほどたっぷりあるわけでもない。

まずは水だ。お茶とミネラルウォーターの箱をとりあえずは4箱。さすがに重いが、計60リットルほどを確保した。

続いて米。これも品種を変えてざっくり100kg。医療品も湿布や消毒液を中心にある程度を確保し、調味料も味噌と醤油を多めに買った。

さすがに1度では買い切れないので、サービスカウンターに1度預けてもらう。「本当にこれ全部買うんですか?」と驚かれたが、これでも抑えめにしている方だ。500人分の食料となると、まだまだ全然足りない。


ノアはというと、目をぱちくりさせてほとんど言葉を発しなかった。そりゃ驚くわな。

彼女のショーツ、そして小腹を満たすための菓子パンとジュースも買う。駆け足で買い物をしたが、それでも1時間ほどはかかった。


店員に荷物を軽トラに積んでもらい、急いで次の目的地へと向かう。


『まだ買うの??』


「明日も買い物をするぞ。とりあえず、行政の支援が公に受けられるまでは、俺が何とかしなきゃな」


『あれだけの食料、ものすごい金貨が必要だったんじゃ……』


「金なら腐るほどある、と言ったろ。10万レベルの出費なら大したことはない」


多分100万円近くは明日までに使うだろうと踏んだ。まあ、総資産は5億円ぐらいはある。ほとんど金を使わない生き方をしていたから、むしろ久々の散財は爽快だ。

……問題は、西部鉄道との交渉だな。あの王宮は、不法占拠と言われたらどうしようもない。

土地を買うとなると、どれほど吹っかけられるのか。先の話だが、考えないといけないな。



次の目的地は、家電なども置いてある「スーパーパルシア」だ。S県でドミナントを築いている「パルシア」の大型店舗で、プロ向けの商材も充実している。C市では、多分ここが一番でかい商業施設だろう。


『……帝国でもこんな大きな建物ないわよ』


呆然としながら、ノアがつぶやく。


「帝国とやらには行ったことが?」


『何回か。イルシアの使節団では、あたしが代表だったし』


「……その若さでか」


ノアが少しむっとした表情になった。


『また子供扱いしているの?』


「いや、俺たちの世界じゃその若さで国の代表なんて考えられないからな」


一転、ふふんと得意げになる。表情がコロコロ変わる子だな。


『まあそりゃね?偉大なる大魔道士、シア・アルシエルの娘にして名代だもの。オルディア魔術学院首席は、伊達ではないわ』


「なるほど、エリートということか」


『えりーとってのが何か分からないけど、あたしより優秀な魔術師はほぼいないわね』


スキップするようにノアが歩く。なるほど、彼女は一種の外交官だったというわけか。それが魔術師である意味はよく分からないが、「念話」などを駆使するならば相応の魔法は使えないといけないということなのかもしれない。

同時に、彼女が今朝一人で現れた理由も理解した。偉いさんとの交渉事は、彼女が引き受けてきたというわけだ。


『にしても、トモは本当に平民なの?あたしとまでは行かなくても、昔は国の要職に就いてたりした?』


「この国じゃ、年齢が若いと下っ端の役人にしかなれないんだよ。無駄な年功序列でこの国の官僚組織は縛られている。それだけが理由じゃないが、役所を辞めたのはそれもある」


『ふうん、色々あるのね。力ある人はそれなりの立場に就くべきだと思うけど』


「色々面倒な世界なんだよ」



その時、駐車場に見覚えのある顔が見えた。……これは厄介だな。



「ノア、ちょっと走……」


「智宏??」



眼鏡をかけた、長髪の女が驚いたように呟いた。髪は後ろで結わえられている。ジーンズにシャツと、飾り気のない服装だ。


俺は無視しようと思ったが、向こうがこちらに歩いてくるのを見て諦めた。


「……久しぶりだな、睦月」


「そうね。何年ぶりかしら?あなたが財務省を辞めて以来だっけ」


『誰、この女』


睦月はノアに気付くと、訝しげに俺を見る。


「誰?あなたに海外の親戚がいるなんて聞いたこともないけど。ロリコン趣味があるとは初めて知ったわ」


『……何言っているか分からないんだけど。『念話』が通じない?』


「海外の子、よね。どういうことなの」


俺はため息をついた。どうもノアの「念話」には、通じる相手とそうでない相手がいるらしい。


「説明するとすさまじく長くなるから、勘弁してくれないか」


「訳あり、というわけ?」


「そういうわけだ。詮索してくれないでくれると助かる」


「……そう。あなた、まだ東園に一人で住んでるの」


「まあな」


お前はどうなんだ、と口にしようとしてやめた。もう別れて5年経っている。未練はもうない。そのはずだ。


睦月は何か言おうとして、苦笑しながら首を振った。


「……そう。じゃあ、また。会うことがあるかは、分からないけど」


「ああ」


そう言うと、睦月は足早にスーパーパルシアの入り口へと向かっていった。……あいつ、独り身なのか。


『ねえ、だからあの人誰なの』


俺は一瞬躊躇した。……隠す意味もないはずなのだが。


「山下睦月。俺の元カノだ」


『元カノ……恋人だった、というわけね』


「ああ。もう大分経っているけどな」


そこまで言って、ふと気付いた。



……あいつの勤務先は、確かC市市役所だったな。



俺は首を振った。市役所勤務だからといって、またすぐに会うことになるとは限らない。むしろその可能性は、かなり低いはずだ。



その考えが甘かったことを、俺はすぐに思い知ることになる。




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