7.シャーロット聖女
馬車に揺られて、俺たちが到着したのは城のような屋敷だった。
しっかりとしたレンガ造りに、よく手入れの行き届いた庭を一瞥しながらサラーサの歩調に合わせる。
「随分と立派なんですね」
「だろうな。私もそう思うよ」
サラーサは花や庭園と言ったものに興味がないらしい。
まぁ、武闘派っぽいし花をめでるタイプには見えないから当然か。
「シャーロット様の顔は知っているな?」
「ええ、まぁ。シャーロット様は意識があやふやでしたから、俺の顔を覚えてるとは思えないですが」
「安心しろ。覚えている」
「そうですか」
シャーロット様に、このお屋敷。
一体どこの貴族なんだろう……?
「シャーロット様が何者か気になるか?」
「えっ……はい」
「……数年前にご両親は病で亡くなられ、遺産と権力がシャーロット様に集中した。その上、シャーロット様は特別な力を持っている。だから、私のような実力のある冒険者が雇われて護衛をしている訳だ」
特別な力……?
聞いてみようか悩んだ。でもやめる。
確かに気になったものの、下手に首を突っ込むと厄介事になりそうだと思ったからだ。
サラーサに連れられて入口に立つ。
目の前には白髪の執事がいて、その人に対してサラーサが言う。
「例の馬車で助けてくれた少年を連れて来た」
「ほう、彼が例の……」
老執事の青い双眸に見られる。
値踏みされるような視線に晒され、俺は僅かに顔を俯く。
「ニルアです」
「ニルア様。シャーロット様が中でお待ちです、こちらへ」
その道中、老執事が俺に声をかけた。
「失礼ですがニルア様、本当にあなたがシャーロット様を救ってくださったのですか?」
サラーサが声を荒げる。
「おい、ジェームズ!」
「サラーサ様、私は赤子の頃からシャーロット様に仕えているのです。それに武術の心得もございます。とてもではありませんが、ニルア様は強そうには見えませぬ」
「アハハ……よく言われます。俺がシャーロット様を助けられたのも何かの偶然ですから」
「偶然……ですか」
老執事……ジェームズは逡巡した様子を見せて、唸る。
「失礼を申し上げました。どうぞ、ここです」
到着した場所は、温室の花畑だった。
庭の庭園も凄かったが、まさか室内にも庭があるとは……。
その中央に、金髪をした車椅子の少女がいた。
「あっジェームズ! 良い所に来てくれました! これを見て欲しいの……あれ? もしや、あなたは馬車の時の────!!」
車椅子を走らせ、俺たちの側に寄ろうとする。
その刹那、段差に躓いて車椅子が前のめりに倒れる。
「あだっ!」
「シャーロット様! お怪我はございませぬか!」
ジェームズが傍に駆け寄る。
サラーサは見慣れたと言った様子で、心配はしていないようだ。
「ただ転んだくらいで……相変わらずジェームズは心配性だな」
そのサラーサの言葉に、ジェームズの目が光る。
「何か申しましたかな? そういえばサラーサ様? この前、食堂の菓子が少し減っていると聞きましたが、一体犯人は誰でしょうね?」
「うっ……さ、シャーロット様が転ぶなんて大変だ~! 怪我はしてないか!?」
棒読みで言うサラーサに、シャーロットが苦笑いを浮かべた。
「ジェームズ。サラーサさんの言う通り、転んだくらいで大袈裟ですよ」
「ですが……」
「ほら、この通り大丈夫です」
シャーロットが笑顔を見せ、両手を広げてアピールしている。
でも、俺はしっかり額から血を流しているのが見えていた。
「シャーロット様!! 額から血が!」
「あら、大変ですね」
「何を他人事のように! 誰か! 救急箱を持ってこぬか!」
それから、額の怪我を治療したシャーロットと俺は向き合う。
「改めまして、シャーロット=ウェルム伯爵です」
「ニルアです」
俺は礼儀に従ってその場にしゃがむ。
すると、シャーロットが慌てる。
「あぁダメです! 命の恩人なんですから、貴族の礼儀は結構です!」
「そ、そうですか?」
「ふふっ、ニルアさんは礼儀正しい方なのですね」
シャーロットの金髪が揺れる。
「本当は私から会いに行きたかったんですけど、この足では外に出ることも難しくて」
「っ! もしやその足は馬車の時に……?」
「いえ、違います。これは生まれつきのものですよ」
思わずほっと息を吐いた。
あぁ、そっか。だから代わりにサラーサさんが俺を迎えに来たんだ。
足が悪いのなら仕方ない。
「ニルアさん、命を助けていただきありがとうございました」
サラーサと同様に、シャーロットが頭を下げる。
遠慮しようとすると、サラーサが俺の肩に手を置いた。
受け入れろ、という事らしい。
「……俺も、助けられて良かったです」
「えっ……?」
シャーロットが驚いた様子を見せた。
「あぁいや、その……実は昔からやってきたことが裏目に出てばっかりで……仕事でもそれで怒られたりして、クビになったんですよね」
余計なことをして、他人の反感を買ってしまった。
だから、俺が魔物を傷つけたなんて嘘をつかれてハメられる。
冤罪を掛けられるのも無理はないと思っていた。
でも、こうしてフィアやサラーサ、シャーロットさんにも感謝されて俺のやったことは間違いじゃないのだと思えた。
「やって良かったな~って」
恥ずかしくなりながらも、俺は自然と口にしていた。
クスッとシャーロットが笑う。
「ニルアさんって、変わってますね」
「あぁ、分かるぞ。シャーロット様」
頷きながらサラーサも同意する。
「決めました。私、ニルアさんが良いです」
シャーロットが姿勢を正す。
意を決したような様子で、ジェームズとサラーサを交互に見た。
「シャーロット=ウェルムの名において、あなたに依頼があります」
シャーロットの黄色の瞳と目が合う。
「無能聖女……つまり、私の護衛をやってくれませんか?」
……無能聖女?
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