6.宿屋
冒険者ギルドで依頼の報告をした俺たちは、同じテーブルに座っていた。
不貞腐れた様子のフィアに声をかける。
「な、なぁフィア……なんで機嫌悪いの?」
フィアは頬杖で眉間にしわを寄せていた。
「当たり前でしょ。なんで私が【孤高の炎狼】を倒したことになってるの。実際に倒したのはニルアなのに」
「トドメを刺したのはフィアなんだから、事実だよ」
「事実? 気絶した【孤高の炎狼】を倒して手柄を独り占めしたことが?」
「か、課題はクリアできたんだから良いじゃん……」
冒険者ギルドに報告した内容では、フィアが倒したことにした。そうしないとフィアの課題が達成できないと思ったからだ。
フィアは報酬の半々にも不服らしく、全額持って行っても良いと言われてしまった。
もちろん断った。お金がないとはいえ、知り合いにそんな真似はできない。
「良くない! 私だけ良い思いをしてフェアじゃない!」
「俺も良い思いできたよ。ほら」
俺はお金が入った麻袋を掲げる。
駆け出しの冒険者が受けられる依頼は決まっている。報酬が少なく、生活も安定しない。
「これくらいあれば、少しは生活も楽になるよ。ありがとう、フィア」
笑顔で言うと、ムーっと唸るフィア。
「手伝わせて」
「手伝うって、何を?」
「ニルアのお姉さんを探すの、手伝わせて。それでチャラにしましょう」
「えっ……良いの? フィアには関係ないことだけど」
「ニルアだって、関係ない課題を手伝ってくれたじゃない」
それはお金が欲しかったからで……と思うも口を閉じる。
フィアはきっと納得しないだろう。
「……分かった。探すの手伝って」
「ええ、もちろん。ところで、その人の名前は?」
俺は口に出そうとして、一度やめる。
……フルネームで言った方が良いか。
「シエス=アヴェイン」
フィアがその名前を聞いて、眉をひそめた。
「シエス……?」
「うん。五年前から冒険者をやってるはずなんだけど……知らないかな?」
「……一人だけ、知ってる」
緊張した面持ちでフィアが言う。
「シエスさんは、たぶん……【蒼炎】のメンバーよ」
「……マジ?」
「マジ。同姓同名の人がいるから」
ニルアが眉間を手で押さえる。
俺の姉が傍若無人なことは知ってるし、冒険者になっても変わらないとは思っていた。
だけど、まさか……トップランクのギルドに入ってるなんて……。
「あの姉が、人と交わってるなんて……何かの病気かな」
「どういうこと!? 実力は王都でも折り紙付きよ!?」
「病気じゃなければ、きっと呪いだ。また女神の捧げ物の食べ物を食べたんだ……」
「本当に罰当たりな人じゃない……」
姉は女神への信仰心が薄い。
代わりに食べ物に対しての執着が凄く、あとは戦い好きなくらいだろう。
戦って食って寝る。それがシエスだ。
「ニルアのお姉さんか確かめさせたいけど、今は遠征中で王都にいないの。地方にでたSランクの魔物の討伐中らしいから。来週帰ってくるはずよ」
「そっか。それまでのんびりと待つしかないんだね」
来週……か。
五年ぶりに会うとはいえ、連絡も何も取り合ってないからなぁ。
どんな顔して会えば良いのかな。
そもそも、会ってみようってのも思い付きだ。
暗殺ギルドから追放されて、感傷に浸りたいだけなのかも。
「ニルア」
フィアから声を掛けられる。
「うん?」
「シエスさんと、会えると良いね」
「……そうだね」
姉に会う前に何か準備しておかないと。
会いたいけど、会いたくない……。
家族って、そんなもんなのかもしれないな。
*
宿屋に帰ると、声を掛けられる。
「あ、ニルアさん。お客さんが来てますよ」
「お客さん?」
室内に入る。
そこには見たことのある人物が居た。
「あ……」
茶髪の胸の大きい冒険者が居た。
確か、俺が馬車から飛び出して助けた人だ。
名前は……サラーサさんだ。
最後に会話した時は、俺が暗殺者だと勘違いされてた……!
サラーサが言う。
「悪いな、いきなり上がり込んで」
「あ、あの! 俺は暗殺者じゃありませんから! あのシャーロットって貴族様も狙ってませんし!」
必死に弁明すると、サラーサが乾いた笑い声を出した。
「それか。いや、あの時のことは謝らせて欲しい」
「え?」
「急なことで混乱していたんだ。私も満身創痍だったしな」
俺はほっと胸をなでおろす。
会って誤解を解くことも難しいと思っていたから、俺が命を狙っているなんて勘違いをされたままだったら、大変だった。
良かった。
「君を特定するために、王都で調べさせてもらった。馬車では命を助けてくれて感謝する、ニルア」
深々とサラーサが頭を下げた。
ニルアが目を丸くする。
「あ、頭を上げてください」
「こればかりは譲れない。大恩人を暗殺者だと侮って、刃を向けたのだ。許されることではないだろう。私は馬鹿な女だからな……こうしなければ、気が収まらない」
サラーサが視線を外す。
おそらく、自分が居ながら魔物に襲われ、シャーロットという少女を怪我させたこと。サラーサじゃなくて俺が助けたことも、きっと原因のはずだ。
「サラーサさんじゃなくても、あの状況なら同じことをしたと思いますから、自分を責めないでください」
「……優しいのだな、お前は」
サラーサが軽く微笑む。
俺はため息を漏らした。
(正面から堂々と頭を下げて謝られたら、許せないはずがないよ……まったく)
「もう一つ、ニルアに用件がある。シャーロット様がニルアに感謝を伝えたいと仰っていてな」
「いえ、サラーサさんからで十分伝わりましたから、大丈夫ですよ。感謝されたくてやった訳じゃありませんし」
「ダメだ! そういう訳にはいかない! 命を救われたんだぞ!? 恩も返さず生きていたら、恥になってしまう!」
サラーサは胸に手を当て、熱く語る。
その反面、俺は落ち着いていた。
「恥は言い過ぎでは……?」
「それともニルア。貴族のお嬢様に一生の恥を背負わせ、傷物にするつもりか?」
「き、傷物って……絶対わざと大袈裟に言ってますよね!?」
「会いたいと申しているのだ。いくら恩人のニルアであっても、力づくで感謝を受けさせてやる」
感謝を受けさせてやるってなんだ……? と思いながら、俺は言う。
「分かりましたよ。行きますから、殺気を消してください」
そこまで言われて断ったら、後々が面倒そうだ。
だが、そこでふと疑問が湧いた。
サラーサさんがそのことを伝えに来るのなら、本人が出向いた方が早いんじゃないか……?
何か理由があるのだろうか……。
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