3.救助
乗合馬車から飛び出したニルアが、そのまま道を走り続けると不穏な気配が漂い始める。
魔物に襲われていた馬車が道の端に倒れている。
ニルアが下敷きになっている少女に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「う……うぅ……あ、あれ……? あなたは?」
よかった、意識はある。
「通りがかった者です。助けに来ました」
馬車が横転したせいだろう。
額から血を流していた。服装から見ても貴族の少女だが、様子が少し変だった。
「い、いえ! 私のことは良いです! 先にサラーサを助けてください!」
「サラーサ……?」
意識を取り戻した少女が、俺の裾を掴む。
「魔物と戦っている護衛の者です!」
この子……自分も大怪我をしているはずなのに。
「ご安心ください。凄い速さでこっちに来てますから」
たぶん、護衛の冒険者だ。
馬車とは離れた位置で戦っていたが、俺の存在に気付いて戻ってきている。
速度からして相当の手練れだ……。
「お願い……します……」
少女の力が弱くなる。
大丈夫、ただ意識を失っただけだ。
林から人影が飛び出す。
「貴様っ!! シャーロット様から離れろ!」
サラーサの怒声が響く。
剣の切っ先を向け、吹き荒れる殺意を感じ取れた。
茶髪の剣士、しかも相当の実力者。
それがニルアの感想だった。
「は────はい……」
怒鳴られ、つい口癖で「はい」と言ってしまう。
ニルアがシャーロットと呼ばれる少女から離れる。
人に怒られるとすぐにショボくれる癖、直した方が良いかな……。
なんて言えば良いか分からないんだよなぁ……。
「何者だ」
「と、通りがかって助けようと思って……」
「信じられるか! シャーロット様の命を狙いに来たのだろう? おそらく……」
サラーサが一瞬、悩んだ素振りを見せた。
「暗殺者か?」
「な、なんで分かるんですか!? あっ」
俺は咄嗟に口を塞いだ。
確かに、この状況で暗殺者と疑われても間違いはない。
馬車に乗っているのが貴族のお嬢様なら、命を狙われたっておかしくはないんだ。
助けに来たはずなのに、俺の発言は暗殺を認めるようなもの。
これは間違いなく────。
「やはりか! シャーロット様の命を狙いに来たか……!」
「ち、違いますって! 職業は合ってるんですけど、少し前にクビになって……」
「く、クビ……?」
サラーサの殺気に僅かな揺らぎが生じる。
しかし、すぐに剣を持ち直した。
「白々しい男だな。この場で魔物共々、狩ってやろう!」
この誤解は……間違いなく解くことができないだろう。
本当に助けに来ただけなのに……。
誤解を解く暇もないまま、森からサラーサを追って来た魔物が現れる。
「グガァァァッ!」
「もう来たのか【赤毛熊】め! うぐっ!」
横転した馬車で怪我したのだろう。
サラーサは右腕から血を流していた。
「クソ……暗殺者とBランクの魔物。それに右腕が使えないか。厳しい戦いになりそうだ……」
サラーサがBランク級に剣先を変える。
俺は懐から剣を取り出した。
暗殺者とは言っても、短剣を使う人も居れば弓を使う人もいる。
俺はその中でも、剣を好んで使っていた。
理由は単純、魔物を相手に短剣では威力不足だし、弓では近接戦ができない。
魔物を傷つけずに捕まえることにおいて、剣は最も有力な手段だった。
刃を削っておけば斬らずに済む。
簡単に奪っていい命なんて、この世に一つもない。
そう思っていたことが、俺が冤罪を掛けられた原因だろう。
この世界で魔物の命ほど、軽い物はない。
「グガァァァッ!!」
「くっ……!」
鋭利な爪を突き出す【赤毛熊】に、サラーサが身構える。
(クソッ! この威力を片手じゃ防ぎきれない……! 死ぬ……っ!)
その時────まるで閃光のようにニルアがサラーサの前に飛び出した。
「なっ! 貴様何を!」
ニルアは襲いかかる爪を、身をよじり足で蹴り弾く。
「グガッ!?」
「な、なんだと……!?」
いとも簡単に攻撃を弾くニルアに、サラーサが驚く。
(剣で軌道を変えるなら分かる……! だが、足で弾くだと……? 剣も抜かずに!)
態勢を崩され、焦った【赤毛熊】が無理な姿勢で爪を放つ。
ニルアは続けざまに剣の柄を握る。
「【水斬】」
剣を引き抜く。
剣から水を発生させ、斬撃を飛ばす剣術魔法。
ニルアには水魔法の適性があった。
焦った【赤毛熊】は躱すことができず、斬撃が直撃する。
「グガ……!?」
鈍い打撃を受けたような痛みに【赤毛熊】が倒れる。
剣を鞘に戻す。
「たった一撃で……【赤毛熊】を倒すだと……⁉︎ き、貴様は一体……」
(よし! これなら俺が命を狙ってるっていう誤解も解けたはずだ!)
「ふっ……貴様のような人間にも騎士道精神があるのだな。複数で襲いかかれば、私にも勝てたものを」
「えっ」
「良いだろう。貴様が一騎打ちを望むのなら、私も受けて立とう」
俺は必死に両手を横に振る。
「違う違う! 騎士道精神とか一騎打ちじゃなくて!」
サラーサが首を横に傾げる。
俺はあっこれ誤解が解けない奴だ、と気付く。
「……もう、良いです。それよりも馬車の下敷きになっている女の子、血を流してますよ。手当した方が良いんじゃ」
「なに!? シャーロット様が!?」
サラーサも【赤毛熊】が倒されて少し気が抜けていたのか、俺に背を向けて駆け出していた。
俺はため息を漏らしながら、その場を後にする。
このまま居たら、本当に戦うことになりそうだ。
乗合馬車も飛び出してきちゃったし、今から追いかけてもどこに居るか分からないし。
歩いて王都まで向かうのかぁ……疲れるなぁ……。
「はぁ……」
……ほんと、生きるのって難しい。
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