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2.馬車


 次の日。

 暗殺ギルドを出たのは良いが、これからどこへ行こうか。

 二ルアが表通りに出る。


 二ルアが腕を組んで唸っていた。

 まず、アスガルド街を出て行くのは決定だ。ラムから聞いた話によれば、俺は評判が悪いらしい。


 この街で出来る仕事はないだろう。


 麻袋を逆さまにする。

 チャラン……と金貨一枚が落ちる。


「……貧乏すぎる」


 俺がやるべきことは、まずはお金を稼ぐことだ。

 その次に生活の安定化。


 そういえば、この世界を俺は見て回ったことがなかった。

 生まれてこの方、外の世界に興味があまりなかったせいだろう。


 いい機会だから、見たことのない場所に行ってみたいな。


 なら冒険者がピッタリなんだけど……、と二ルアが顔をあげる。

 目の前に乗合馬車があった。


 客引きの声が響く。


「銀貨五枚で王都! ここから二つ先の街まで! 目的地はテンペスト王都! 乗り合いでるよ~! 冒険者の護衛付きだよ! さぁ乗った乗った!」


 銀貨五枚ってことは、金貨の半分か。足元見られてる感じがする。まぁ護衛付きなら当然か。

 俺なら時間を掛けて足で行くこともできるけど、今は馬車に揺られながらのんびりしたい気分だ。

 

 思ったよりも失業のショックがデカいらしい。そりゃそうだよな、俺って働くの向いてないかもしれないって思うとね……。


 それに王都なら、冒険者ギルドもあるはずだ。

 そこで冒険者登録して仕事を見つければ、稼ぎは何とかなるかもしれない。


 生きるためにお金は必要だ。


 *


 馬車が揺れている。


 乗合馬車は数人ほど乗っていて、これから出稼ぎに行く人、俺と同じように冒険者になろうとする人。

 俺は正面に座っている少女に目をやる。


 すると、


「なに」

「あぁ、ごめん。白髪だから珍しいなって」

「そう?」

 

 俺と同い年かそこら辺の少女だ。 

 杖を持っている。魔法使いだろうか。


「ところで、あなたは?」

「俺……? えっと、ニルア」

「私はフィア。あなたも王都に行くの?」

「えぇまぁ、冒険者にでもなろうかなと」


 ちょっと恥ずかしそうに二ルアが言う。


「ふーん、じゃあ同期ね」

「同期……?」

「私も王都で冒険者になるの。魔法の才能があるって先生に認められてね、冒険者の中でもトップ中のトップ。【蒼炎】ギルドに所属することになってるの。凄いでしょ?」


 思わず俺は目を丸くした。

 聞いたことのない名前だ……。凄いのかな。


 フィアは自信満々に言っているし、凄いのだろう。


「す、凄いんだね」

「反応薄っ! 知らないの? 元々強いギルドだったけど、ここ五年でさらに成長した超大御所よ? 数百もの魔物を簡単に殺せるほどの強さ」

「うーん、ごめん。あんまり詳しくないかも」

「……あなた、変な人なのね」

 

 変な人とは失礼な。

 あまり世の中について詳しくないだけだ。


 俺はそこで、ふとあることを思い出す。


「あっでも、俺の姉が冒険者だったはず」

「えっ、そうなの!?」

「うん、五年前に冒険者になるって出てって、それっきりなんだけどね」


 こんな大事なこと、なんで忘れていたんだろう。

 いや、あの姉が出て行っても、俺は心配する必要がなかったからだろう。


 思い出すだけでも、ちょっと胃が重くなる。


「心配してないから、すっかり忘れてた」

「どんな姉なのよ……」

「魔法を剣で切って当然とか、魔物の肉を魔石ごと食べる人かな」

「そんな人居るはずないでしょ……魔石ごとなんて、その人こそ魔物よ」


 そう言われましても、事実だし。

 俺と同じ黒髪で、太陽のように明るい人だ。

 

 そのせいで俺の影が薄くなって、よく大人たちから存在を忘れられていた。


 餓鬼大将。それが姉へのイメージだった。


「じゃあ、王都に行ったらその人にも会うのね」

「たぶん……」

「なんでたぶんなの。姉弟なんでしょ」


 今思い出したのだから、仕方ない。


 確かに、姉に会うことも目的にしていいかも。

 あの姉ならきっと生きているだろうし、何をしているのか知りたい。


 元気にしているのなら、それが一番だ。


 突如、俺は違和感を感じた。


 くんくん、と鼻を鳴らす。


「……ねぇ、フィア。血の匂いがしない?」

「え? 血の匂いなんかしないけど、気のせいじゃない?」


 その時、

 カキン……と剣の音が響いた。


「グガァァァッ!」


 と魔物の声が聞こえる。


 馬車に緊張が走った。


 フィアが乗合馬車で叫ぶ。


「っ!! 誰かが戦ってる! 馬車を止めて! 助けに行かなくちゃ!」

「あ、アホか! 知らねえ奴のために命を張る馬鹿はいねえよ! ここで止めて魔物に囲まれたらどうするんだ!」

「じゃあ私だけでも降りるから! 人を見捨てるなんてできない……!」

「ざけんな! 他の奴らを巻き込むつもりか!?」


 フィアは強く杖を握る。

 

(ここで見捨てろって言うの!? 私は、人を助けるために魔法を勉強したのに……!)


 歯ぎしりを鳴らし、振り返る。


「あれ……二ルアは?」


 そこに居るはずの、二ルアの姿がなかった。



 ランキング入りを目指してます!

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 次は22時に投稿予定です。

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