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1.追放


 暗殺者を教育するアスガルド街。

 国の端にあるこの街は、魔物に囲まれていた。


「二ルア。あんたはクビよ、クビ!」


 アスガルド街にある暗殺ギルドの責任者、赤髪のラムにそう言われた。

 俺はその言葉を聞いて混乱する。


「ま、待ってください! 俺は傷つけてません!」

「ねぇ……二ルアが魔物を傷つけたのを見たって人がいるんだけど?」


 俺は思わず息を飲んだ。

 見た、なんて嘘を平然と吐く人物がどこにいるのだろうか。


「俺じゃないです! そもそも、なんで俺が捕獲した魔物を傷つけるんですか!」

「黙りなさい! あんたが笑いながら魔物を傷つけたってみんなが見てるんだけど? サイコパスにも程があるんじゃない?」

「違います!! むやみやたらに魔物を傷つけるなんてことはしません!」


 暗殺ギルドと言っても、今の王国は平和だ。暗殺なんて稼業が成り立つ時代はとうの昔に終わっていた。だから、ラムもビジネスの仕方を変えた。


 それが魔物を狩る仕事だ。


 冒険者とは違い、暗殺者は固有の技術がある。

 その技術は依頼人の要望に合わせて魔物を傷つけることなく倒したり、捕獲したりする仕事だ。


 冒険者は誰でもなることができる仕事だ。


 その反面、切り傷のたくさんついた魔物や杜撰な管理で痛んだ素材などがたびたび納品される。


 依頼人とて、綺麗な状態で商品が欲しいと思う。そこで俺たちのような人間がいる。

 暗殺の技術は魔物にも有効である。


 今回は貴族からの依頼で、俺が魔物を捕獲した。


「そうは言っても傷つけたのを見たって人がいる以上、あんたが犯人よ。それとも、あんたが傷つけた魔物は侯爵家のお偉いさんが依頼してたものだけど、弁償できる? 数億もいくけど」

「す、数億……⁉ そんなお金、持ってません……」


 いくらなんでも、大金すぎる。

 それでなくとも、俺の働いている場所は安月給だ。


 思いやり残業、などと呼称して夜まで駆り出されることだってある。


「じゃあクビ。あんたをクビにして謝罪することに決めたから」

「ま、待ってください! 本当に俺が傷つけた証拠は─────」

「あるって言ってるのよ! これまでだって何度もね! それを私は知っていたけど、黙ってた! 分からない? 堪忍袋の緒が切れたって言ってるのよ! それじゃなくても馬鹿で地味なあんたのせいで街の評判が悪いんだから」


 ラムは高圧的な態度で詰め寄る。


「ニルア……あんた、この仕事を舐めてるんじゃないの?」


 鋭い視線に背筋が伸びた。その言葉に耳を疑う。 


 仕事を舐めたことなんて、これまで一度もない。ずっと真面目に働いてきたし、このギルドに貢献したいと努力もしてきた。


 このギルドは魔物を王国へ献上することで生計を立てている。

 だから、俺の努力はギルド──ひいてはラムの為に繋がっていると思っていた。


 怒られたくないから、頑張ってきた。


「責任を取るって知ってる? 仕事をやめて詫びることよ」

 

 上司であるラムに反論する術を、俺は持ち合わせていなかった。

 元より大人しい性格の俺は押さえつけられるように言われると、なし崩しのように「はい……」しか言えなくなる。


 何を言えば良いのか分からないんだ。

 

 変なことを言ってしまうのが怖くて、それで怒られるのが怖い。


 徐々に口数も減っていって、何を言えば怒られないのかばかり考える。


 その結果、相手をさらに不快にさせてしまう。


「あんた、ここで働けないなら、何処に行っても働けないって分かってる?」

「はい……」

「はいじゃなくてね……あぁもういいや、あんたはクビだし」

「え……あの、流石に冗談ですよね……」

「はぁ? 二ルアの代わりなんていくらでも居るんだから、冗談な訳ないでしょ?」


 心臓を射抜かれたような感覚になる。

 俺の代わりはたくさんいる。

 

 お前なんて必要ない。

 

 やってもいない冤罪を着せられる。

 

「話は終わり。あんたの部屋は新人が使うから、今日中に出てって」


 ラムに言われて、俺は放心状態になりながらその場から去る。

 

 結局、誰かに怒られると何も言い返せなくなってしまう。

 それが俺の悪い癖だ、と自己嫌悪に陥る。


 俺が上手く立ち回れていれば、クビを言い渡されることもなかった。

 

 ようやく気付くと、ここは暗殺ギルドの職員が住み込みで使う部屋に居た。

 俺の部屋、だった場所だ。


 元々荷物は少ない。だから簡単に片づけは済んだが、心残りがあった。


 それは暗殺ギルドで捕獲した魔物の取り扱い方だ。


 俺は魔物の捕獲をメインとして活躍していた。討伐は簡単だが、捕獲は難易度が高く、魔物の特性を理解していなければ脱走したり怪我を負わせてしまう。


「……メモくらいは、残しておこう」


 暗殺者と言えば響きは良いが、俺は人を殺したことがない。


 7歳で知り合いの狩人から暗殺者の才能を認められて、10歳まで鍛えられた。そこから暗殺ギルドに就職することになり、周囲の技を盗み見て鍛えてきた。


 俺は黒髪を揺らしながら歩く。


 地下牢のような場所で、首輪に繋がれた魔物が数体、その手前に二人組の男がいた。


「聞いたか? 二ルアの奴、追放されたんだってよ。自分で捕獲した魔物を傷つけたんだと」

「ハッハッハッ! ざまぁねえよなぁ。俺たちが管理してるのに、毎日横から『その魔物の管理の仕方だと、弱ってしまうので~』とか『魔物が可哀想~』なんて言ってやがって、ウザかったからよ」


 俺の存在に気付く。


「おい、二ルアだぞ」

「へっ、どうせクビになったんだろ。じゃあ関係ねえよ」


 目の前で平然と悪口を言われるも、俺は言い返さない。


 黙ったまま、目前まで迫る。


「……なんだよ、二ルア。ジロジロみやがって」

「…………これ、注意事項です」


 俺が今までやってきた魔物の管理方法や捕獲した時の注意点をまとめておいた。

 ここの人たちは、基本的に仕事をしない。


 サボるばかりで、管理は雑だし魔物は傷つく。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(やっぱり俺って、生きるの向いてないのかもしれないなぁ……)

 

 荷物をまとめ、入口の前までやってきた俺は暗殺ギルドに頭を下げた。


 お世話になった分、しっかりと感謝をしなければならない。

 

 どこへ行くべきか悩みながら、俺は足を踏み出した。


 今日は3話まで投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] で、注意事項を破り捨てて、魔物の捕獲を行い、ギルドは、失敗を繰り返し、没落していく・・・。 追放されたんだから、感謝しなくてもいいのに、律儀だよなぁ。 少し考えれば、こんな律儀な子が、魔…
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