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虚空に叫べ、  作者: 鹿森羚児
1/1

00 プロローグ

もし、吐き出す言葉に意思が上乗せされていなかったら


もし、あの思いがあの人にとっての呪いだったのなら


もし、あの時声をあげていなかったのなら


もし――




「きゃっ!」

「うわっ!ごめんなさい!」


「あ、いえ、こちらこそ……ッ!」



この世界は誰かの理想論でできている。その誰かが神様でも、自分でも、廊下ですれ違う赤の他人であったとしても、この世界が本物か、偽りかなんて結局のところその人の主観によるものである。


だけど、たとえ世界の真偽が不明瞭だとしても、あの時、突発的に起こした()()の言動、思考、一挙手一投足はおぼろげなこの世界から肯定された真実である。


つまり、自分の人生に対する矛盾でさえも真実として世界が寛容し、肯定するはずである。


「――ッ…あ、あのっ…!」


この時、発したたった二文字の言葉は周囲の人たちが形容するこの世界――自らを否定ばかりしてくる世界にとって肯定されるようなものだったのだろうか。


いや、でも、少なくともこれだけは言える。


たった今作られ、消えていった自分だけの世界では、数秒で溶けていったあの言葉は真実だ。


不思議と当てはまるような、異様なはずなのに心地よい、そんな矛盾を抱えていた錆びついた運命の歯車が回りだしたのも真実だ。


この時初めて触れ、そして見た他人の世界ではない、彼だけの世界。


周囲という呪縛に貼り付けられこの年まで生きてきた彼にとって、自分の世界、心がこんなにも開放的だということに、良くも悪くも気持ち悪さを覚えた。


もう一回、もう一度だけでもあの世界が見てみたい。

人とは時に、魔物の様に貪欲である。


「…!どけ!」


無我夢中に走り出す、不注意にもぶつかってしまった彼女を追いかけるために。


「邪魔だ!」


礼儀のかけらも感じない言動によって静まり返った廊下に、彼の声のみがただ独り虚空に叫ばれ木霊する。


「どこだ!?どこに行った!?」


叫ぶ、ひたすらに、欲しいものを確実に手に入れるために。

走る、希望の色が差し込まれた目を開きながら。





彼――ライア自身の人生ここから始まった。



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