蛹化(ようか)
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この小説は、生々しい思春期の暗さがあるかもしれません。人間的な暗さなども。
また、ロリータコンプレックス的な要素を含みます
(恋愛感情の萌芽は、ある程度の年齢になってからという設定ですが)。
そういったものに嫌悪がある方は、ご気分を害される可能性がありますので、
精神衛生上、ブラウザバックをおすすめいたします。
2009年8月10日 春江
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彼女が中学生になったばかりの頃、たまには様子でも見に行ってみるかと思い立ち、従姉弟の家に向かった。
その日、彼女は僕への挨拶もそここそに、アーモンド形をしたきれいな瞳を吊り上げて、僕の洋服がダサいと言って、すぐに自分の部屋へ引っ込んでしまった。
僕はひどくショックを受けて、なんとなく彼女が怖くなった。
今までに彼女と喧嘩をしたことはある。だが、今回は何かが違う。
以前なら、僕にかまって欲しいという、そう、そっとこちらを覗き見するような……そういう隙があった。
でも、今の彼女は違う。鋭利な刃物のように鋭く、隙がない。
いつまでも、乳歯の抜けた、まぬけな笑顔の彼女の残像がつきまとう僕には、今の彼女は、まるで違う生き物になってしまったかのように感じられた。
―――自分とは違う世界へと踏み出した少女。
これが、思春期(反抗期)の女の子というものなのだろうか。
僕は、自身の反応にとまどう。
自分が拒絶されたことが怖いのだろうか?いや、そうではない。怖いのは彼女そのものに対してだ。
今まで、僕たちは知らないからこそ同じ場所にいた。だが、彼女は知ってしまったのだ。
自分という存在がある場所を。場所が場所であることを認識してしまった。
だから、もう、同じ場所に戻ることはできない。
彼女は白いところに立ち、きっぱりと僕を黒と認めた。そんな気がする。
そして僕は、白が怖い。
その、無垢で、覇気のある、潔癖な色が……どうしてだろう、怖いのだ。僕が触れてはいけない領域のような……。
結局、僕には異質な空間と化した彼女の部屋に入る勇気が持てず、従姉弟には用があるとだけ告げ、すぐに帰ってしまった。
―――しばらくの間、従姉弟の家を訪問することはなかった。
そろそろ彼女も高校生といったころのこと。突然、夜更けに僕の携帯に着信があった。
従姉弟の家の番号からだ。
コール数は、3秒くらい……が2回。その不審な履歴に、何かあったのだろうかと、首をかしてげてリダイヤルすれば、うわずった声の彼女が電話にでた。
彼女は、少し黙ったかと思うと、突然泣きだした。
「……ごめん…な、…め…ん……さい」
しゃくりあげ、必死に謝罪の言葉を口にする彼女。
―――わからない。
つい、昨日のことのことのように思い出される、挑発的な彼女の射るような視線。
そこからは、謝罪の言葉など想像できなかった。
僕が感じた恐れは、ただの気のせいだったのだろうか。
僕は、子供のように甲高い声をあげて泣く彼女に拍子抜けして、肩の力が抜けていくのを感じた。
どこか冷静になったとたんに、あわてて泣いている子供をなだめなくてはという思いに駆られ、すぐに彼女に、気にしていないから安心してくれと告げた。
携帯越しに、彼女の甘い声がする。
その声が、いつまでも僕の耳にまとわりついてはなれない。
僕の中で何かが波立ち、ボコボコとと気泡が上がっては消えるような、酔いにも似た感覚に襲われた。
こんにちは、春江 柚里 (はるえ ゆり)です。
お読みいただきありがとうございます。
このお話は、孵化、蛹化、羽化の三話で完結する予定です。
季節の描写がなくあいまいな部分をどうにかしようと思います。
少しづつ読めるものを作っていこうと思います。
最後の話を作成中です。もしかすると羽化するのは彼女じゃなくて……