王子様は真実の愛を見つけたい~もう次期国王じゃないけど、それでも君ら大丈夫?~
自由を尊ぶカタルニア王国には、いわゆる “ 王族の政略結婚制度 ” がない。
通常、王族の婚姻と言えば、幼少期に政治的理由で決められた婚約者をあてがわれ、余程のことがなければそのまま結婚する。
しかし、カタルニア王国では、王族自らが伴侶を決め、王立高等学園の卒業式に、将来の側近と併せて発表するのだ。
自分が見初めた相手を選べるとあって、他国の王族から非常に羨ましがられるこの制度。
国内の王族からの評価もすこぶる上々であったが、たった一人だけ、この制度を疎ましく思っている者がいた。
カタルニア王国 第一王子 シリル・カタルニアである。
金髪碧眼、長身で精悍な顔立ち。成績優秀。
次期国王として有望視されている彼の周りには、蜜に群がる蜂の如く、“ 我こそは王妃に ”、 “ 側近に ” と、目をギラつかせた上位貴族の令嬢令息達が群がっていた。
お陰で、シリルの学園生活は大変落ち着かないものになってしまった。
彼の学園生活は、馬車での登校から始まる。
シリルを乗せた馬車が学園の門に到着すると、そこにはすでに大勢の令嬢令息が並んでいる。
「ごきげんよう。シリル様。今日のお召し物もとても素敵ですわ」
「おはようございます! お荷物をお持ちします」
「ええい。お前は昨日荷物を持たせて頂いたではないか。今日は私だ」
「ちょっと。殿下に近づきすぎですわよ。離れなさい!」
馬車から降りたシリルに群がり、口々に挨拶やらお互いへの牽制やらをする令嬢令息達。
皆一様に、爽やかな朝に似つかわしくないギラギラした目をして、作り笑いを浮かべている。
もしも他国であれば、王族に近寄り過ぎだ、不敬だ、と、注意できただろう。
しかし、ここは自由を尊ぶカタルニア王国。学園での身分による差別は厳禁。
お陰で、シリルは、毎朝引き攣った笑みを浮かべながら、大勢の生徒に囲まれて移動する羽目になり、教室に入るのも一苦労。
授業の合間には令息達に囲まれ、昼時に令嬢達に囲まれ、気も表情筋も休まる暇がない。
放課後、生徒会長でもあるシリルが、生徒会室に行こうと廊下を歩いていても、
「シリル様は美術品がお好きと聞きました。次の休みに是非我が家にお越しくださいませ」
「今度政策研究会にいらっしゃいませんか。お話を伺いたいのです」
と、廊下で待ち構えていた上位貴族達に囲まれ、なかなか前に進めない。
最終的には、幼馴染の宰相の息子サミュエルと、騎士団長の息子カルロスに対応を任せ、なんとか生徒会室に滑り込むのだが、すでにシリルはぐったりだ。
この日、たまたま生徒会室に遊びに来ていた第三王子デュークは、そんなシリルを気の毒そうに見た。
「……噂に聞いてはいましたが、ここまでとは思いませんでした。兄上も苦労されていますね」
デュークは、シリルの二学年下の一年生。
明るい茶色の瞳と髪に、整った理知的な顔立ち。
海外に留学中の第二王子に次いで、王位継承順位は三番目。
幼い頃から書物や学問が大好きで、施政者というよりは学者として将来を有望視されている天才だ。
お茶を運んできた、二人の従妹であり書記でもある、公爵令嬢ローズマリアも、同情の目でシリルを見た。
「本当に毎日大変ね。将来有望な美男子も楽じゃないわ」
「相変わらずローズは令嬢っぽくないなあ」
デュークの言葉に、ローズマリアは エメラルドグリーンの瞳を細めると、美しい金髪を揺らしながら楽しそうに笑った。
「いいのよ。ここにはシリルとデュークしかいないもの」
「君を淑やかな令嬢だと思って崇拝している男子諸君に、今のセリフを聞かせてやりたいよ」
いつも通り軽口を叩き合うデュークとローズマリア。
普段であれば、ここにシリルも混ざって、幼馴染三人で何気ない会話を楽しむところだが、疲れ切ったシリルは、ただ二人をながめるばかり。
シリルを気遣うようにローズマリアが早目に退出すると、デュークが小声で言った。
「ところで、兄上。隣国の第一王子の話を聞きましたか?」
「ああ、あの身分違いの恋にのめり込んでいるという話か」
「はい。何でも王子は “ 真実の愛 ” とか言って、騒いでいるらしいですよ」
* * *
今、情報通達の間で密かに話題なのが、隣国の第一王子についてだ。
地方男爵家の令嬢に熱を上げているらしく、幼馴染で婚約者の侯爵令嬢を蔑ろにした上、婚約を解消したい、と、言い出しているらしい。
デュークは、やれやれ、とでも言うように肩を竦めた。
「彼は、昔から夢見がちなところがありましたが、今回はそれが悪い方向に行っているみたいですね。周囲に咎められても、 “ 真実の愛 ” を見つけたから仕方ない、とか言って開き直っているらしいですよ」
幼少の頃に決められた婚約者は、政治的に大きな意味を持つ。
それを蔑ろにして、身分違いの男爵令嬢に熱を上げるなど、愚の骨頂だ。
次期国王がすべきことではない。
……と、こんなことは十二分に分かっているシリルではあったが、疲れ切った彼は、思わずこう呟かずにはいられなかった。
「 “ 真実の愛 ” 、か。……羨ましいことだな」
「……は?」
驚きのあまり、デュークはティーカップを落としそうになった。
「あ、兄上? どうしたのですか?」
いつも冷静で現実的なシリルとは思えない発言。
目を丸くして驚くデュークに、シリルは苦笑しながら言った。
「最近、デュークと仲が良いと噂のご令嬢は、お前が国王になれないと分かったら、離れていくと思うか?」
突然の質問に目を白黒させながら、デュークは自分の想い人である本好きの伯爵令嬢を思い浮かべた。
「……いえ、離れないと思います。以前、彼女にそんな話をしたことがあるのですが、気にしないと言われました」
羨ましいことだ、と、シリルは呟いた。
「恐らく、私の周囲にいる令嬢達は、私が国王にならないと分かった瞬間に去っていくだろう。彼女達が見ているのは、私の身分や王妃の椅子だ。私自身ではない」
“ 我こそは王妃に ” と、目をギラつかせて擦り寄ってくる女性達に囲まれ、シリルはげんなりしていた。
伴侶を選ぶどころか、女性不信になりつつある気がする。
いっそこれなら婚約者が決まっていて、その婚約者と落ち着いて愛を育んだ方がマシなんじゃないだろうか、と、何度思ったか分からない。
そんなシリルに、隣国の王子の “ 真実の愛 ” は、非常に眩しくうつった。
肩書も後ろ盾も全て捨てても選ぶ価値のある “ 真実の愛 ” 。
なんと羨ましいことか。
目を伏せて考え込むシリルを、デュークは痛々しい物を見る目で見た。
完璧王子だと思っていた兄が、こんな悩みを抱えているとは思いもしなかった。
将来の伴侶を発表する卒業式まで、あと三カ月。
なんとか手助けできないものか。
と、その時。
デュークの頭にある考えが浮かんだ。
突拍子もないが、成功すればシリルの苦悩がきれいさっぱり解決する奇策。
彼は、 ニヤリと笑いながら言った。
「兄上。私に一つ考えがあります。上手くいけば兄上も “ 真実の愛 ” とやらを見つけられるかもしれません」
* * *
それから約一か月後。
学園の長期休暇の直前。
貴族達の間に、とある噂が流れた。
「国王が、 次期国王の選定を見直すことにしたらしい」
噂の出所は、学園の男子学生複数。
誰もいない教室で、シリル王子とデューク王子が話しているのを偶然聞いたらしい。
最初、これを聞いた貴族達は、皆一様に苦笑した。
シリルは第一王子な上に非常に優秀だ。次期国王は彼に決まっている。
しかし、その数日後。
デュークが国際的な研究大会で最優秀賞を獲得。
国王は大いに喜び、これからは学問の時代だと、デュークを盛大に褒めそやした。
その未だかつてない褒めっぷりに、貴族達は動揺した。
もしや、国王は、頭の良いデューク王子の方が次期国王にふさわしい、と、考え始めたのではないだろうか。
尾ひれがついて、どんどん信ぴょう性を帯びる、次期国王選定見直しの噂。
見かねた宰相が国王に確認すると、国王は否定も肯定もせず、こう言った。
「次期国王は、最も多くの利を国にもたらすであろう者に決める」
これを聞いた貴族達は、慌てふためいた。
違うものは違うとはっきり言う国王が否定しないということは、噂は本当に違いない。
恐らく、次期国王はデューク王子だ。
シリル王子が次期国王と思って取り入ろうと必死になってきたが、急ぎデューク王子を何とかしなければ。
―――ちなみに、これはデュークとシリルが流した嘘情報である。
デュークがシリルに提案した内容は、
「国王が、 “ 次期国王の選定を見直すことにした ” 、という噂を流して、シリルが次期国王ではないかもしれないと思わせること」。
つまり、シリルが地位を失った後に残るのが、 “ 真実の愛 ” 、というわけだ。
この計画を聞いた時、シリルは躊躇した。
確かに “ 真実の愛 ” に興味はあるが、貴族達を騙してまで求めるものでもないし、明らかにやりすぎだ。
しかし、意外なことに、このデュークの破天荒な計画に、父である国王が乗り気になった。
デュークからこの話を相談された国王は、膝を打って大笑いした。
「騙されたとしても、せいぜい二ヶ月。噂を信じるか信じないかは貴族達の自由。どう行動するかも彼ら次第だ。実に面白い。私が責任を取るから、やってみなさい」
そして、自らも思わせぶりな態度を取り、宰相の次期国王選定に対する問いに無言で答えるという役者ぶりを披露。
お陰で、嘘情報は、あたかも本当の情報のように流れ、貴族達を翻弄。
あっと言う間に休暇明けを迎えることになった。
* * *
休暇明け、初日。
シリルは、馬車に乗って学園に向かっていた。
斜め向かいの座席には、迎えにきたサミュエルが静かに座っている。
ちなみに、カルロスは本日体調不良で休みらしい。
窓から外を眺めながら、シリルは考えた。
休み前までは、門の前にたくさんの上位貴族の令嬢令息たちが出迎えに立っていたが、今日はどうなるのだろうか。
校門に到着し、少し緊張しながら馬車を降りるシリル。
そこには、多少減ってはいるものの、たくさんの出迎えの貴族たちが並んでいた。
「「おはようございます。シリル様」」
内心ホッとしながら、おはよう、と、返事をするシリル。
しかし、次の瞬間、シリルは内心首を傾げた。
出迎えの貴族達が、見たことがあるようなないような顔ばかりだったからだ。
シリルの疑問に気が付いたサミュエルが、小さく囁いた。
「どうやら、彼らは上位貴族の次男・次女以下の者達のようです」
シリルは、思わず噴き出しそうになった。
次期国王ではないとしても、シリルが国の重役に就くのは必至。
縁を切るのも惜しいので、二軍三軍をよこしたというところだろう。
なんとも現金なことだ。
しかも、その二軍三軍達はあまりやる気がないらしく、いつもなら教室まで続く列が、今日はすぐに解散。
授業の合間に話しかけてくる者もほとんどおらず、移動中や昼食時に積極的に話しかけてくる者もいない。
この日、シリルは今までにないほど静かな時間を過ごした。
この流れは放課後も続き、いつもなら三十分はかかる教室から生徒会室への道のりも、たった五分で到着。
貴族達のあまりに露骨な変貌ぶりに、生徒会室に入ったシリルは、ついにお腹を抱えて笑い出した。
高等学校に入学してから、張り付けたような笑みしか見せなくなったシリルが、大笑いしている。
驚きのあまり、ポカンとした顔をする、サミュエルとローズマリア。
一頻り笑うと、シリルは涙を拭きながら、楽しそうに、でも少し寂しそうに、ポツリ、と、呟いた。
「これではっきりしたな。 皆、私自身ではなく、次期国王という身分を見ていた、と、いうことだ」
次期国王として、今まで必死に努力してきたつもりではあったが、そんな努力など次期国王という肩書に比べれば、羽虫並みにちっぽけなものだったらしい。
努力している自分を評価してくれているかもしれない、などと思っていた過去の自分が恥ずかしい。
笑ったり落ち込んだり情緒不安定に見えるシリルに、休むように勧めるサミュエルと、心配そうな顔でお茶を持ってきてくれるローズマリア。
その温かさをありがたく思いながら、シリルは気になっていたことを尋ねた。
「ローズ、サミュエル。いいのか、私と一緒にいて」
サミュエルは、銀縁眼鏡をクイッと上げると、無表情に言った。
「父親には少々渋い顔をされましたが、 私はシリル様にお仕えすることに決めました」
「私がいなかったら、誰があなたにお茶を淹れるのかしら」
クスリと笑うローズマリア。
シリルは、二人に感謝のまなざしを向けた。
「……そうか。お前達だけでもそうやって言ってくれると嬉しいよ。カルロスは……仕方ないな。あいつも長男だ。立場があるのだろう」
と、その時。
生徒会室のドアが勢いよく開いて、右頬を赤く腫らしたカルロスが入ってきた。
「シリル様、すみません。遅くなりました」
「お前、その頬は」
「なに。分からず屋の親父と喧嘩をしただけです。特に何も心配は要りません。これまで通り、誠心誠意、シリル様にお仕えさせて頂きます」
シリルは胸がいっぱいになった。
どうやら彼等は、次期国王候補という身分ではなく、彼本人を見ていてくれたらしい。
「……ありがとう。これからもよろしく頼む」
* * *
それから約一ヶ月。
シリルは、降って湧いた自由を満喫した。
目をギラつかせてシリルに迫る令嬢や、鼻息荒くシリルに取り入ろうとする令息達の付きまといがなくなって、行動の自由度が一気に高くなったからだ。
彼がやったことを並べると、
・今まで話す機会がなかった、第二子第三子、中位下位貴族達との交流
・学校行事やクラブ活動への一般生徒としての参加
・シリルのもとに残った令息達との朝まで座談会
・仮装パーティへの参加
・お忍びで街にくり出し、酒場で宴会
睨みをきかせる上位貴族達がいなくなったことで、中位下位貴族達はシリルと気軽に話せるようになり、シリルはそこで多くの優秀な人材を見つけた。
また、お忍びで街に出ることにより、庶民の生活をより深く理解できるようになり、ちょっぴり悪いことも覚えた。
理想として思い描いていた、刺激的で充実した学生生活。
しかし、肝心の “ 真実の愛 ” については、あまり進展が見られなかった。
噂を聞いてもシリルのもとに残った令嬢は数名。
「次期国王」という肩書ではなく、シリル本人を好ましく思ってくれている令嬢達だ。
しかし、彼女達と話をしていても、どうもピンとこないのだ。
シリルは考え込んだ。
そもそも “ 真実の愛 ” とは、一体何なのだろうか。と。
そんなある日。
ボロボロになったデュークが生徒会室を訪れた。
「あ、兄上……」
今にも倒れそうなデュークに驚き、急いで会長室に迎え入れるシリル。
デュークは、泣きそうな顔で言った。
「……兄上、僕、振られてしまいました」
噂が流れてから、デュークの周囲は一変した。
笑顔を張り付けた上位貴族達が常に周りを取り囲み、自由に動くことも、趣味の読書に没頭することもままならない。
彼らを振り切って、ようやく想い人である伯爵令嬢に会いに行くと、彼女は困った顔をしたらしい。
「彼女に言われた。王太子妃なんてめんどくさいし、 好きな本を読む時間がなくなるのは嫌だって。
彼女が好きなのは僕じゃなくて、適当に暇そうでお金に困らなそうな第三王子だったんだ」
意気消沈した様子で、うなだれながら話すデューク。
シリルは笑い出しそうになるのを懸命に堪えた。
まさかそんな理由で振られることがあろうとは。
「しかもさ、周囲も急にちやほやし始めて、やることなすこと褒めたたえるんだ。それまで研究になんて関心なかったのに、急に、研究所を建てましょう、とか言いはじめるしさ。あまりの手のひら返しに、人間不信になりそうだよ」
シリルは、申し訳ない気持ちでデュークを見た。
「すまないな、デューク。お前には辛い役回りをさせてしまった。貴族達がまさかここまで極端な態度に出るとは思わなかった」
「まったくですよ。言い出しっぺとはいえ、僕もこんな酷いことになるとは夢にも思いませんでしたよ。……でも、気にしないで下さい、兄上。悪い事ばかりでもないです」
お陰で、立派な研究所と図書館が建てられそうです、と、悪い顔で笑うデューク。
シリルは思わず噴き出した。
さすがは三男だ。ちゃっかりしている。
デュークはニヤリと笑った。
「いずれにせよ、卒業式まであと二週間足らず。せいぜい利用させてもらいますよ。
兄上は、それまでに “ 真実の愛 ” を見つけてくださいよ」
「ああ。がんばるよ」
* * *
そして迎えた、卒業式の日。
国王は、シリルを正式な次期国王として定めることを発表した。
会場は阿鼻叫喚。
噂を信じてシリルを見捨てた上位貴族達は、色を失った。
自分達の行動を思い出して青ざめるが、もう遅い。
壇上に立ったシリルは、混乱する群衆を見渡しながら、にこやかに言った。
「次期国王に指名されたシリルだ。早速ではあるが、これから側近と護衛騎士の発表を行う」
側近は、全部で六名。
サミュエルとカルロスと、同じくシリルの元に残った上位貴族の第一子が二名。
それに、新たに親しくなった優秀と名高い中位貴族家の三男と、中位貴族家の次男。
護衛騎士に至っては下級貴族の五男。
忠誠心と実力を重視した、元来の派閥の概念を覆す 未だかつてない実力主義だ。
あまりの結果に、卒倒しそうになる上位貴族の第一子達。
文句を言いたいのは山々だが、今回ばかりは “ 忠誠心を考慮した ” と、言われたら何も言えない。正に自業自得だ。
そんな彼らを尻目に、シリルは声を張り上げた。
「次に、私の将来の伴侶を紹介しよう。ローズマリア・リヒテル公爵令嬢だ」
シリルを逃してしまった上位貴族令嬢達の叫ぶような悲鳴の中、壇上に上がるローズマリア。
彼女の手を取って、そっと口付けをするシリル。
ローズマリアが心配そうに小声で言った。
「……ねえ、シリル。さっきデュークから聞いたわ。あなたは、“ 真実の愛 ” を探していたんでしょう。私は、選んでもらってすごく嬉しいわ。……でも、シリルは本当に私で良いの? 後悔しない?」
いつものように、自分のことよりもシリルを心配するローズマリア。
シリルは、クスリと笑うと、彼女の目を真っすぐ見つめた。
「色々考えたけど、“ 真実の愛 ” というのは、一時的な感情ではなく、お互いがお互いを愛し尊敬しあって辿り着く “ 最終到達点 ” みたいなものだと思う」
だから、幼い頃から陰日向なく支えてくれた君となら、きっと “ 真実の愛 ” に辿り着けると思ったんだ、と、微笑むシリル。
そして、嬉し涙を浮かべるローズマリアの前に跪くと、優しく手を差し出した。
「僕と一生一緒に居てもらえませんか」
「はい。喜んで」
割れるような拍手と歓声。
シリルはにっこりと微笑むと、群衆に向かって言った。
「祝福に感謝する。
―――それと、デュークの指揮のもと、新しい研究所と図書館を作ると聞いた。そちらの完成も楽しみにしている。引き続きよろしく頼む」
“ デュークが次期国王じゃないと分かっても、手を引くなよ ” という、分かりやすい牽制。
これを聞いたデュークに鞍替えした上位貴族達は、死んだ魚のような目をしたという。
そして、この一年後。
学園を卒業したローズマリアとシリルはめでたく結婚。
国民達は、幸せそうな二人を大いに祝福したという。
―――ちなみに。
“ 真実の愛 ” の元祖とも言える隣国の第一王子は、シリルとローズマリアの話を聞いて、いたく感動。
是非自分も試してみたいと、自らの廃嫡の噂を流させた。
しかし、愛を語り合っていた男爵令嬢は、「王太子じゃない貴方に用はないわ」と、王子を一蹴。
あっさり捨てられた王子はショックのあまり床に臥せ、世界中から笑われる羽目になった。
後に、この話を元に、『真実の愛という幻に騙された愚かな男の話』という寓話が誕生。
人々は、熱に浮かされて馬鹿な恋をしている若者を見ると、「お前、とうとう真実の愛を見つけたらしいな」と、からかうようになったという。
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