平凡に端的
其の80
『流石は仙人の弟子だ。時間よりずっと遅いが、北魔の森から来たなら驚きの速さだな』
本陣に着くなりそんな言葉で出迎えたのは立派な鎧姿の兵士?と言うより、将軍のような男だ。
『ソウジン!』
嫌味な鎧姿の将軍はソウジンと言うらしい。
ソウジン…
まさかそのソウジンなんて名前の奴を窘めているのは曹操なんてお約束…
『部下の非礼を詫びよう。我はソウソウ。皇帝陛下より騎督尉を賜り、赤頭巾討伐の命を受けこの地に来た。昨夜のセイシュウ城解放について伺いたいがよろしいかな?』
どうやらお約束は守られるようだ。
俺がそんな三国志の有名人と同姓同名の登場に内心驚いていると
『徹夜で戦して休んでいれば、偉いさんの報告の為にわざわざ呼び寄せたのかい?』
かなり不機嫌そうなチョウ妃がソウジンを睨む。
『フッ。まさかお前のような小娘が仙人の弟子とやらとは』
睨まれたソウジンがチョウ妃を見下ろしながら鼻で笑う。
『おや?疑ってるならその身に教えてやろうか?』
今にも炎魔法をソウジンに放つ勢いのチョウ妃に
『ちょっ、チョウ妃殿!』
『ソウジン!!』
慌てたスウセイ将軍がチョウ妃を宥めると同時にソウソウもソウジンを窘める。
『フン』
そう言って顔を背けたチョウ妃はズカズカと本陣内の空いている椅子に腰掛けた。
俺とリュウビもチョウ妃に続き椅子に腰掛けたところで
『しょ、紹介がまだであったな』
焦ったスウセイ将軍がその場の空気を変えようと立ち上がり、俺達をソウソウ一行に紹介してくれた。
スウセイ将軍から昨夜の戦の件からソウソウ一行とのやり取りの説明を受けると
『その通りじゃが何か?』
チョウ妃が端的過ぎる応えに
『ムゥゥゥ』
と唸るだけのソウソウ。
『その説明だけでは納得出来ないって事だろうが!』
またもやソウジンが怒鳴ると、スッと手を上げたソウソウが
『こちらにカンウ殿やらはいないようだが?』
そう言ってこちらを見渡す。
『奴なら留守番じゃ』
またしても不機嫌そうにチョウ妃が端的に応える。
『留守番…ですか』
当然、納得出来ない様子のソウソウ。
そんなやり取りを黙って聞いていた男が
『ソウソウ。このままでは埒が明くまい。俺が出よう』
そう言ってチョウ妃を見ると、着いて来いとばかりに本陣の幕舎を出て行った。
それを見たチョウ妃も
『フン』
と鼻を鳴らし幕舎を出て行く。
どうやら、チョウ妃の実力を測るのが目的なようだが、やることが脳筋過ぎる気もする。
幕舎を出て、ユウ州の本陣の先に広がる丘陵地で両者は対峙した。
黒檀製の槍を無造作に肩に担ぐチョウ妃に対し、男の方は剣を正面に構える。
いつの間にかユウ州兵のギャラリーが見守る中、先に男の方が鋭い踏み込みでチョウ妃に剣を突き付けるが、チョウ妃は槍で剣を弾くと距離を取った。
初撃の突きを軽くかわされた男が再び剣を正面に構えた瞬間、チョウ妃の姿が消え、男の背後から槍の刃先が男の喉に添えられる。
転移魔法を使ったチョウ妃の必勝パターンに身動き一つ取れない男。
『カッ、カコウトン!』
そう叫んだソウジンが一歩踏み出すと、槍を突き付けられた男の背後から炎魔法が放たれ、ソウジンの目の前に着弾すると炎の壁が行く手を遮る。
一瞬の静寂の後、
「カラーン」
と男が剣を手離す音がして勝負は決したのだった。
次回投稿予定【7月11日】




