平凡に推して知るべし
其の76
セイシュウ城に着いたソウソウは、すぐさま南門のセイ州兵に事の顛末を問う。
『我は騎督尉ソウソウ。赤頭巾はどうした?』
いきなり高位の将軍らしき者からの質問に、南門の守備兵はキョロキョロと周りのセイ州兵を見回すが、質問されているのが、自分だと気付くと
『えッ…炎神様が燃やしました』
なんとも要領を得ない返答に
『炎神様?炎神様とは何者だ?』
予想の斜め上の返答に少し苛つくソウソウだったが
『炎神様は女性です』
と子供との問答のような答えをするセイ州兵。
『チッ。』
らちが明かない答えに益々苛立つソウソウは、舌打ちをするだけで、セイ州兵への質問を諦める。
『ここの責任者はどこにおる?』
新たな質問に
『将軍は、楼閣の上におります』
そう言われ、見上げた楼閣から連なる階段を駆け降りて来る男がソウソウの目に止まった。
場外に到着した軍勢から指揮官らしい者が、供回りを伴ってこちらに向かって来るのを見付けた兵士が
『バリョウ将軍!こちら向かって来る者がおります』
兵士の報告に場外を見る将軍が昨夜、赤頭巾の追撃を忘れリュウビの戦乙女姿に見とれていた将軍のバリョウだ。
バリョウは将軍の地位をセイ州候トウセイより与えられてはいるが、元々軍勢を率いるような立場ではない。
セイシュウ城内の兵糧、武器等を管理する裏方が本来の役目なのだが、赤頭巾にセイシュウ城が包囲された際、一時的に南門の指揮を任されていた。
セイ州の豪族である【バ家】の次男であるバリョウは武の才能は並み以下であったが、それを補って余りある秀才だった。
これで魔法の才能があれば名のある導士になれたのかもしれないが、残念ながらバリョウは魔法が使えない。
それでも、平時であればその秀才によって何事も無く過ごせたであろうが、世は乱世へと確実に進んでいた。
バリョウは3人兄弟で、兄はバ家の跡取りとして申し分無い器量を持っていると評判だった。
弟は幼い時から文武両道で、それに加えて魔法の才能もあり将来は帝国の中央での活躍も囁かれるような逸材としてセイ州では有名だ。
そんな兄と弟がいるバリョウに付いたあだ名が「ハリョウ」だ。
何かが足りない男…
そんな意味を込めて陰で「ハリョウ」と揶揄されるバリョウが昨夜、赤頭巾追撃の判断を事もあろうに、女に見とれて忘れたのだから周りの反応は推して知るべしだった。
ずいぶん立派な鎧を身に纏った集団が南門に向かって来る。
離れた場所に駐屯する軍勢には「督」の旗と「ソウ」の旗がはためいていた。
それを見たバリョウは
『「督」とは騎督尉の旗ではないか?』
そう呟くと、何かを思い出したかのように猛烈な勢いで楼閣から南門へと階段を駆け降りていった。
次回投稿予定【5月9日】




