平凡にエンマ
其の71
一方その頃、突然強力な炎魔法によって味方が駆逐され、南門方面から半狂乱状態で逃げ惑う味方に、なす術が無く混乱する様を目の当たりにしたセイシュウ城攻略の大将「ハスイ」は
『何が起こっておる!?敵の数は!?』
近くの副官らに問うが、誰もその答えを持ち合わせてはいない。
そもそも赤頭巾の集団とは軍のようで、軍ではない。
兵士の大多数が農民等で指揮官とされる人物も、元は義侠の士や野党の親分といった者が子分を率いている程度だからだ。
先のユウ州にいた「カンゲン」のような元兵士が稀な存在と言えよう。
そんな集団が、数の力で極端に及び腰の州兵に勝って勢力を拡大してきたのが赤頭巾の実情だった。
そんな時
『敵は導士1人の模様!』
副官の1人が逃げ惑う味方から得た情報を「ハスイ」に告げると
『なぁ~にぃ~!?導士が1人だぁ~?』
『ふざけるなぁ~!そんな導士1人になんてザマだ!』
元々義侠の士である「ハスイ」は考えるより先に行動するタイプの漢だ。
本来ならこれだけの大軍相手に1人で乗り込んで来て、強力な炎魔法を放つ導士を警戒するべきだが、【1人】というワードが「ハスイ」という漢から警戒という感情を消し去っていた。
『お前ら、俺に続けー!』
そう叫ぶと南門方面に馬を走らせ、周りにいた副官達もこれに続く。
途中で味方の数を増やしながら先頭を突き進む「ハスイ」が、炎の柱で味方が焼かれる様を目の当たりするのにそう長い時間は掛からなかった。
だが、そこで目にしたのは、確かに導士のように魔法を放ってはいるが、炎のような形の兜を被り、馬に跨がった小さな者。
その瞬間、「ハスイ」の脳裏は勝てるビジョンで埋め尽くされる。
そもそも【力】で何事もねじ伏せるような人生を送ってきた「ハスイ」は自分より小さな者に負けた記憶が無い。
負けの経験が無ければ、そこから導き出される行動は、至極単純で【力】による勝利だけだった。
『ガッハハハハ~!どんな奴かと思えば随分小さいのぉ~』
『ワシは赤頭巾の大将ハスイじゃ!』
脳筋ここに極まり。
完全に見くびった態度の「ハスイ」に対し
『貴様が大将とな?』
チョウ妃が問うと
『なんと!貴様は女か?』
『ガッハハハハ~!』
小さな者が女だと知ると勝ち誇ったように笑う「ハスイ」だったが次の瞬間、「ハスイ」が見ていた光景が回転し始める。
何がどうなったか訳も解らないまま「ハスイ」の首から上が地面に転がっていた。
そして、いつの間にか「ハスイ」の背後に立っているチョウ妃が
『弱いのぉ~』
とつまなそうな口調で黒檀製の槍先に着いた血糊を振り払って呟く。
一瞬で大将を討たれた周りの赤頭巾の兵達は、術にでも掛かったかのように誰一人動けない。
炎の向こうで馬に跨がっていた敵が一瞬で「ハスイ」の首を落とし今、目の前に立っている現実を脳が理解出来ていない。
そして、おもむろにチョウ妃が手をかざした先で再び炎の柱が立ち上がる。
この時初めて「ハスイ」に付き従って来た兵士達が人ならざぬ者の恐怖に直面したのであった。
『魔王…』
兵士の1人がチョウ妃を見て呟く。
また別の兵士が
『炎の魔王…炎魔…』
『炎魔だぁ~』
そう叫びながら泣き崩れると
『『『炎魔!!!』』』
他の兵達も口々に炎魔と叫び腰を抜かしていった。
地獄の主としての「閻魔」とでも思ったのであろうか、「炎魔」の連鎖により赤頭巾兵は武器を放棄し平伏する者が続出し、その場の戦いは瞬く間に終息したのであった。
次回投稿予定【2月16日】




