平凡な赤頭巾
其の7
「赤頭巾」
前の世界で赤頭巾って言ったら有名な童話に出てくる女の子だったけど、異世界では怪しい集団ですか…
俺はタイシジ師匠とその愛娘であるタイシキョウちゃんに迫られて、雀のシュウソウとの経緯を俺の技能の一部分も含めて話した。
そこでシュウソウ(悪魔)を召還した導士達が赤い頭巾を被っていた事実をシュウソウから聞かされたのである。
『赤頭巾の奴等悪魔まで召還しやがったか』
タイシジ師匠が忌々しく呟く。
婆ちゃんの家より世間に近い森の反対側に住む師匠は赤頭巾のことも少し知っていた。
師匠曰く「赤頭巾」とは最近ゴゥキン帝国内で反帝国の活動をしている集団らしい。
元々集団のリーダー的導士が赤い頭巾を被っていたのを周囲の者が真似をしたのが始まりだったそうだ。
最初は村や町で貧しい者を対象に慈善活動を行う集団であったが、いつしか様々な魔法で人々を助け、治療を行うが金銭を受け取らない導士を崇める者が現れ始める。
当然、高い税金を払っても何もしてくれない役人達への恨み節は、人々の間で日に日に溢れるようになっていった。
ある時そんな活動を快く思わない地方の腐れ役人が、リーダーの赤い頭巾を被った導士に対し冤罪をでっちあげて投獄してしまう事件が発生する。
それに怒った導士の二人の弟が仲間を集め兄の導士が投獄されている役所を襲撃し、導士を奪還する事件に発展した。
地方の役所が襲撃されたことから、中央の役人達が激怒し討伐軍を派遣したのだが、5000人の討伐軍が500人にも満たない集団に敗北してしまう。
そこから一気に反帝国運動へと加速し、今では地方都市のいくつかが赤頭巾の勢力圏になり、一部で略奪行為も行われるなど、中央の軍も迂闊に手出しが難しいような状態に陥ってるらしい。
そんな反帝国武装集団が、人里離れた森の奥深くで悪魔召還を行っていた事実に俺を含め婆ちゃんや師匠も嫌な予感しかしなかった…
そんな重い空気のなか、当の悪魔は雀を寄り代とした姿でタイシキョウちゃんと談笑中である。
何故8歳の女の子と悪魔があんなに楽しそうに話せるのか理解に苦しむが、そこを悩んだら負けのような気がして
なるほど異世界だ!
と俺はバッサリ割り切った。
『まぁ、ここで色々考えたところで何もわからんじゃろうし、飯にせんか?』
婆ちゃんの一言で昼食の支度を始める。
『シュウソウも腹減っただろ?俺と同じで良いか?』
俺の言葉にシュウソウは
『私は旦那さまのおこぼれで十分でございます…』
と小さな声で呟いた。
と言うのも、朝飯の時熱々のスープをシュウソウに出したところ、内臓から蒸し鶏になりそうになったのが効いてるようだ。
少し悪い気もしたが、朝から飯だなんだと騒ぐ雀(悪魔)には良い薬になっただろう。
ちなみに蒸し鶏一歩手前で婆ちゃんが治癒光を当てたので怪我は無い。
昼食を済ませてから例のシュウソウを召還した現場には明日行くと言うことで、師匠はタイシキョウちゃんと帰って行った。
森の反対側と言っても100km以上離れており、移動系魔法が使えない師匠は走って帰るのである。
何でも
『片道2時間の修行じゃ』
『ガッハハハハ~』
と笑いながらタイシキョウちゃんを抱き抱えて走って行った。
ん~
100km以上を2時間で走破するには…
俺の算数が正しければ時速50km以上のスピードで森を疾走する師匠…
ん~
もう仙人でOKでしょ。
◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆
翌朝、俺と婆ちゃんと師匠はシュウソウに案内されて召還が行われた現場に向かった。
今日はタイシキョウちゃんを連れて来なかったが、当然師匠は100km以上走って来た。
もう仙人確定です…
俺と婆ちゃんが暮らしている森はゴゥキン帝国の北の外れ8000m以上の山脈に続く森の北側に位置している。
それこそ前人未到の秘境と言って過言ではない場所でだった。
山脈の向こうにはドアーフの王国があるらしい。
そこから西の方角に2日程行った場所が例の召還された場所だ。
師匠だけなら今日中に着くだろうが、師匠も俺と婆ちゃんと同じ速さで歩いている。
何故、歩きかと言うと俺達はほとんど手ぶらでお散歩気分だったからである。
お散歩気分と言っても、俺と師匠はお散歩気分のフリだけで、婆ちゃんだけがシュウソウと話しながらのお散歩であった。
婆ちゃんにとっては森の散策なのかもしれない…
理由は婆ちゃんがヘソを曲げると転移魔法を使ってくれなくなるからである。
転移魔法が使えれば、腹が減ったら家に帰って食べられるし、野宿の心配も無用。
なので、婆ちゃんのペースで進まないと余計な手間と荷物が増えることを理解しているが故のお散歩。
お散歩気分とは言え魔獣が襲って来たりもする。
そんな時は俺が稽古がてらに食べられる魔獣は肉を捌き、牙や毛皮など貴重価値がある魔獣は師匠が持って帰ったが、それ以外の魔獣は婆ちゃんが雷系の魔法を軽く放ち気絶させて進んだ。
ちなみに黒い毛並みで巨大な猪に似た魔獣の肉はかなり美味い。
他にも飛ぶ鶏のような真っ赤な鳥を俺が昔の記憶で唐揚げ風にした時は婆ちゃんに絶賛され、師匠には作り方を教えたところタイシキョウちゃんの大好物になったらしい。
やっぱり唐揚げは世界の共通言語のようだ。
『今日はそろそろ帰るかの』
そう言って婆ちゃんは転移魔法を発動させる。
実際には目標の距離の半分も進んで無かったが、これが婆ちゃんのペース。
気分屋の仙人もちょっとウザい。
結局2日の工程を4日掛けてのお散歩&狩りをしながら目的の場所に着いた。
目的地は獣に喰い千切られた死体が数十体散乱し、思わず目を覆いたくなる惨状だった。
『なんか凄いことになっとるな』
師匠が独り言ともとれる言葉を発しながら死体に近付くと死体の目が動いた。
『ひぃっ』
50歳過ぎの渋いおじ様らしからぬリアクションだが、次の瞬間は俺と婆ちゃんも同じリアクションになる。
『何故その悪魔がおる?』
死体が喋ったのだ。
次回掲載予定 【6月23日】