平凡に錯乱戦
其の64
コウソンタン将軍を先頭に、赤頭巾のセイシュウ城への援軍を阻止すべく、100騎の騎馬は荒野を駆けていた。
具体的な方向はシュウソウがホートに伝えているので間違えは無い。
翌日の昼過ぎには、セイシュウ城方面に向かうと思われる赤頭巾の集団を目視で確認することが出来た。
ただ、その数が集団などと言える数ではなく、一見するとセイシュウ城に向かう大軍ともとれる。
『指揮官はいないと言うことだが、あれだけの軍勢に対し、我々はたったの100騎だ。作戦通り上手くいくであろうか…』
コウソンタン将軍の副官が思わずそんな弱音を洩らした。
『そう深く考えるな。我々の目的は錯乱であって殲滅ではない』
皆の不安な気持ちを察したのか、コウソンタン将軍が努めて気楽な口調で答えると、別の副官が
『そうですぞ。我々はあの「タイコウ山」より無敗の精鋭。此度の作戦も仙人様の策ではないが、あのチョウ妃殿の献策だ。いつも通り無事役目を果すだけですぞ』
その言葉で、今までうつむき気味だった兵達の目にも力が戻った。
兵達の表情を見たコウソンタン将軍は
『では作戦通りこれより敵の錯乱に移る。両翼は十分に距離をとって行動せよ。無闇に敵兵を討ち取るような武勲は必要ない。足止めこそが最高の武勲と心得よ』
『『『『『ハッ』』』』』
兵達が作戦行動に移ったのを確認したコウソンタン将軍は
『ホート殿もよろしいかな』
近くでクーネルと共に控えていたホートに問うと、少し下唇を噛んだ表情で無言で頷く。
『いざ!突撃ーー!』
コウソンタン将軍の号令の下、100騎の騎馬が一斉に駆け出した。
延々とセイシュウ城方面に続く赤頭巾の軍の側面から、突然ユウ州の旗を靡かせながら、騎馬隊が出現した。
まだ距離はあったものの、後方で立ち上がる土煙は数万の大軍勢が押し寄せて来るかのように赤頭巾には映ったであろう。
延々と延びる隊列は側面からの攻撃には極めて脆い。
加えて、主だった指揮官の不在と、元々農民等の寄せ集めの集団であり、既にユウ州軍に一度敗れている赤頭巾の軍は、すぐさま恐慌状態に陥り、四方八方に逃げ出すので精一杯で、とても反撃を試みる状態では無かった。
そこにセイシュウ城方面への逃亡を拒むかのように、ユウ州軍の先頭付近から火属性の魔法が次々と撃ち込まれると
『チョ、チョウ妃だぁ~』
『助けてくれ~』
逃げ惑う赤頭巾達は火属性の魔法を見ただけで益々混乱したのであった。
ただ、そんな混乱する赤頭巾の中で1人冷静な男がいた。
その男は、ユウ州軍が向かうであろう側面より後方の位置におり、周りの兵士達も慌ててはいたが、すぐさま恐慌状態に陥るまでには至っていなかった。
『皆、落ち着け!』
その声に慌てていた兵士達も逃げ出す足を止める程度の冷静さは辛うじてあったようで、その男の次の言葉を待っていると
『あの軍にチョウ妃おるまい。それに恐らく敵の数は見た目ほど多くはない』
そう言われても、チョウ妃に一度徹底的に敗れた赤頭巾の兵達は信用出来なかったが
『見てみよ。チョウ妃の魔法はあれほど弱々しくはなかったであろう』
そう言って指差した方向ではユウ州軍から今なお火属性の魔法が撃ち込まれていたが、成す術無く消し炭にされた先の戦とは明らかに味方の兵士の生存者が多いように見えた。
『それにだ。あれほどの土煙を上げた大軍にしては地響きが無かろう』
そう言われて兵士達も
『あぁ~』
『確かに』
などとその男の言葉を信用し始めたのであった。
『ここで陣形を整える!逃げてくる味方にもそう伝えよ』
そう言うと男は、馬に乗って後方の兵士達に
『陣形を整える!速やかに前進しろ!』
そう叫びながら味方の兵士達を集め出したのであった。
『ハッ。カンゲン様』
この冷静に戦場を見据える男は、先のダイキンでの敗戦により降格処分を受けたカンゲンだった。
次回投稿予定【11月2日】




