平凡に適材適所
其の62
明らかに気分を害したホートさんと、そんなこと何処吹く風といった感じのチョウ妃。
幕舎内は最悪の雰囲気だが、そんなことを言っていられないほど事態は急を要していた。
『では僕が』
そう言ってチョウ妃に代わりリョウ君が作戦の説明を始める。
『100騎を魚鱗の陣を用いてコウソンタン将軍に率いて頂きます。ただ、通常の魚鱗の陣の運用と異なり、敵の陽動と撹乱が目的となる為、先頭の20騎以外は距離を空けての陣形です』
『後方の80騎にはそれぞれの馬に木の枝等を引かせ、大量の土煙を発生させ、こちらがあたかも大軍であるかのように偽装するのが目的です。もちろん大量のユウ州軍の旗を掲げてこちらと一戦交えたであろう兵士の恐怖を煽ることも同時に行います』
『敵の主だった指揮官はチョウ妃様が既に討ち取っているので、烏合の衆と化した雑兵達はここで逃げ出すことでしょう。そこで敵の逃げる方向をホートさんには火属性の魔法で誘導して頂くことをお願いします』
『この際、チョウ妃様のように敵を葬るような強力な魔法は必要ありません。ユウ州軍から火属性の魔法が放たれた事実が重要ですから』
『その後、混乱した敵をコウソンタン将軍の指揮の元セイシュウ城方面に向かわせないのが作戦の概要です』
『ここまでの説明で問題は無いでしょうか?』
そう言ってチョウ妃を見ると、普段のチョウ妃とは違う優しい表情でリョウ君の頭をガシガシと撫でる。
事前の打ち合わせも無く、一度聞いた作戦の概要をすらすらと説明する弟子にご満悦な様子だ。
それにしても、やっぱりリョウ君って地頭が良過ぎだろ。
俺なら自分の役割だけなら、なんとなく理解出来る程度だろうし…
師匠に合格点を貰えたことで少し照れたような表情のリョウ君を見詰める義理の叔父であるスウセイ将軍も、先程までの最悪の雰囲気だった時とはうってかわって穏やかな表情だ。
『ご質問は?』
リョウ君が俺とホートさんを見ながら問うが、俺は説明された作戦には参加しない訳だし、どうせこの場では言えないような無茶振りが待っているのはもうお約束だろう…
ホートさんも問題は無さそうなのを確認すると
『ではここからは時間との勝負なので速やかな行動をお願いします』
リョウ君の言葉でその場は解散となり各々が幕舎から出て行った。
『リョウ君はどうするの?俺達とセイシュウ城攻めに同行はしないよね?』
チョウ妃に尋ねると
『当たり前だ。リョウに無茶なんぞさせらるか』
出来の良い弟子に過保護気味の師匠。
まぁリョウ君の歳からしたらここに居ることすら場違いなんだけど。
『リョウは本軍との連絡役だ。私とカンとリュウビでセイシュウ城を攻め、陽動の様子と赤頭巾の同行をシュウソウを通じてリョウに知らせる』
少ない人材を適材適所といった感じなんだろうが、やっぱり3人でセイシュウ城への援軍か…
『あの…坊っちゃん。オレはどうしたら…』
さっさと先を歩むホートさんを不安そうに見ながら話し掛けてきたクーネルだが
『お前はもちろんホートさんの護衛を頼むよ』
その答えを待ってましたと言わんばかりの笑顔で
『承知でさ』
とホートさんを追いかけて走り出す。
俺の奴隷となって以来あいつは、俺のために何かしただろうか?
少し釈然としない気分だが、元々あいつに頼むようなことも無いので、ホートさんの護衛があいつにとっての適材適所なんだろうな。
そんなことを考えていると、スッと俺の隣にリュウビが寄り添って破壊力抜群の微笑みで俺を見る。
はい!
「やる気スイッチ」入りました。
なんとも単純だが、リュウビの微笑みひとつで前を向ける俺。
完璧な適材適所です。
『チョウ妃さん。俺達の作戦は?』
恐らく今までの表情とは違った表情をしているであろう俺を見たチョウ妃は
『ふん』
と鼻を鳴らして
『行くぞ』
とだけ言ってスタスタと歩き出してしまったのであった。
次回投稿予定【10月1日】




