平凡に仙酒
其の52
とりあえずホートさんは心配だが命に別状は無いだろう。
先ずはリュウちゃんだな。
『リュウちゃん。冷静に昨日の事を思い出して』
人、1人が気絶している状況で冷静にと言うのも変な話しだが、俺は勤めて冷静にリュウちゃんに話し掛けると
『えっと。私は・・』
『お酒を飲んで・・』
『初めてのお酒が美味しくて・・』
『ん~』
一所懸命思い出そうとしている姿はとても可愛らしいのだが、やはり酒を飲んだ後が思い出せないらしい。
『お前さんは酒をガバガバ飲んで早々に酔い潰れたカンに抱き付いておったな』
『ついでにドアーフの小娘はワシに散々絡んでおったがお前達は覚えてないのか?』
状況を察した婆ちゃんが昨夜の事を話し出すと、隣でクーネルもウンウンと頷いている。
どうやら婆ちゃんとクーネルは昨夜の事を覚えているようだ。
『それにしても昨日の酒は美味かった。ゴウキンにあれ程の酒があるとは』
クーネルが酒の味を思い出して誉めているが、確かに前世の記憶を含めても芳醇な味わいや後味の爽やかさも過去最高に美味かったかもしれない。
『そりゃそうじゃろうて。何せ仙酒じゃからな』
『『『仙酒?』』』
婆ちゃんの言葉に俺とリュウちゃんとクーネルがハモった。
『そうじゃ。用意した酒もなかなかじゃたが、ワシが一味足したからの』
『美味くて当たり前じゃな』
何やら「仙酒」なる謎ワードが飛び出したが、もしかして昨夜のカオスな状況の犯人は婆ちゃんか?
『こりゃたまげた。仙酒なんぞお伽噺か酔っ払いのヨタ噺かと思っておったが、本当にあったとは』
『道理で美味いわけだわ』
クーネルは納得してる?のか仙酒を知ってるのかわからないが、何やら仙酒にまつわるお伽噺があるのか?
『婆ちゃん。ちょっと説明してくれよ』
俺には皆目見当も付かないので主犯らしい婆ちゃんを問いただすと
『難しい話なんぞするよりも、酒でも飲んで話した方が上手く行くこともあるからの』
『その証拠にドアーフの小娘の本気度もわかったしの。それにどうせ飲むなら美味い方が良いに決まっちょるじゃろ』
『お前達はワシに感謝せえよ。ワシ以外で仙酒なんぞ飲んだのは200年ぶりじゃからな』
なんか言ってることはいまいち要領を得ないが「仙酒」とやらはかなりレアらしい。
『ひゃ~。200年ぶり?』
『オレは仙人様に一生付いて行きますでさ』
俺の奴隷でホートさんの護衛の筈のクーネルは仙酒の魅力で早速婆ちゃんに飼い慣らされている。
そもそも酔って奴隷になるような奴だから今更だが、俺の中でクーネルの評価がコロコロ代わる前世の首相並みに低下していった。
それに一味足した?
そう言えば、婆ちゃんが運ばれて来た酒に何やら怪しく魔法を掛けるような動作があったような。
つまり婆ちゃんが一味足した酒は仙酒となり元々酒が弱い俺は論外として、初めて酒を飲んだリュウちゃんやホートさんは飲み過ぎて記憶を失くしたってことだろう。
まぁ、ホートさんが婆ちゃんに弟子入りを懇願した辺りから、婆ちゃんは考えていたのかもしれないが、酒の力それも仙酒の力でホートさんの本気度を探ったってことか。
そこにオマケのリュウちゃんが飲み過ぎて今の状況ってことで間違いないのだろうが、ホートさんがどうして俺と一緒に寝ていたのか謎は残る。
そんな謎解きをしていると
『うっ、う~ん』
小さな呻き声と共にホートさんが今朝2度目となるお目覚めの様子だが、また俺を見て騒がれても迷惑なので俺はベッドから降り着物を整え
『ホートさん。大丈夫ですか?』
優しく声を掛けると
『雀が私と寝ながら話す不思議な夢を見ました』
虚ろな表情で話すホートさんはまだ正気とは程遠い様子だが、俺を見ても叫ばないだけさっきよりはマシのようだ。
『あっ、私はどうして?』
『確か雀が・・』
少しづつ記憶を辿るホートさんだったが、俺と目が合うとハッっとした様子で部屋の中を見回し、シュウソウを見るや
『雀ぇぇぇぇぇぇぇ~』
本日3度目の絶叫が部屋中に響いたのであった。
次回投稿予定【5月13日】




