平凡に勝鬨
其の43
『チッ。巧く避けたか』
俺が狙った兵士が馬上から転げ落ちるのが見えた。
本来なら敵将を討ち取って降伏勧告するつもりだったが仕方ない。
俺は敵本陣目掛けて気の刃を振るいながら単騎駆けを始める。
俺の突進に最早敵は成す術がなく逃げ惑うばかりだったが、「これは戦だ!」と自分に言い聞かせながら無双を繰り広げる。
敵の本陣まで来る頃には俺が通った後には死屍累々の惨状があった。
この時本陣に残っていた敵は怪我で動けない者や、気が触れて意味不明の言葉を叫ぶ者、武器を捨て地面に平伏す者だけだった。
とりあえず中央の軍は崩壊したがまだ敵の左翼と右翼は健在のはずだ。
『シュウソウ。現状は?』
念話でシュウソウに問いかけると
『旦那様。現在敵左翼は半数以上の敵がこちらの射程距離から離れた位置に集結しております』
『また、敵右翼は後方より討って出た仙人様が敵を蹂躙している模様です』
右翼は婆ちゃんの独壇場ですか。
本当にチョウ妃時の婆ちゃんは箍が外れたかのように容赦無いから俺は左翼に向かうか。
途中逃げ惑う赤頭巾の兵士に向かって
『本陣は落とした。武器を捨て降伏せよ』
と一応の降伏勧告をしながら進んだが、降伏しても取り押さえる味方もいないからあまり気にしていなかった。
敵の左翼が集結する位置に敵本陣から逃げた兵士達が合流していたようだが
『本陣は落とした!大人しく武器を捨てよ』
と叫ぶと
『ヒイィィィ~。悪魔!!』
等と叫びながら逃げ出す兵士達が見えた。
誰が悪魔だよ。
まったくどっかの雀と一緒にされたくないな。
など思っていると、本陣の惨状を知らない左翼の兵達は俺に向かって突進して来る。
俺は十分に敵を引き付けてわざと敵に囲まれるようにしながら敵の将らしき姿を見付け、気の刃で一気に凪払った。
どっと敵兵が倒れ俺の周りスペースが生まれる。
そこでもう一度語気を強めて
『武器をすてよ!』
そう叫ぶと元々農民だった兵士達を中心にわらわらと地面に平伏す者が現れた。
それでも俺に敵意を向ける者には逃がしても面倒なので槍を交えながら2、3人倒すとどうやら観念したようで、俺から見える範囲の敵は全て武器を手放していた。
『シュウソウ。敵は降伏した』
『リュウちゃんに敵を拘束するように伝えてくれるかな?』
念話でそう伝えると
『殿!ご無事でなによりです』
とリュウビ本人から念話が届いた。
自陣近くだったからリュウビにも俺の念話が届いたようだ。
『リュウちゃんも怪我は無い?弓兵のみんなで捕虜の拘束をお願い出来ないかな?』
そう伝えると
『わかりましたわ。直ぐにお側に参ります』
と何やら戦場の会話とは思えない返事が返ってきた。
リュウビに率いられた弓兵に捕虜の拘束を頼み、俺はリュウビを伴って自陣を迂回するように敵右翼に向かって馬を走らせた。
ん~やり過ぎ。
敵右翼は燦々たる有り様だった。
恐らく婆ちゃんの【雷嵐】だと思われる攻撃を受けた赤頭巾の兵士達が屍の山を築いていた。
そして今尚遠くに逃げ惑う兵士を狩りをするかの如く馬で追い立てる婆ちゃんの姿が。
『……』
『婆ちゃん終わり~。やり過ぎだから』
少し呆れた感じで念話を送ったがこの距離だと婆ちゃんには届かないようで、未だどっかのゲームキャラのように無双を繰り広げる婆ちゃんの姿があった。
『カンウ殿!』
ちょうどそこに本陣の方から俺を呼ぶ声が。
コウソンタン将軍が俺を見付けて叫んでいるが、魔法障壁があるのでコウソンタン将軍もこちらには近付けない。
俺はリュウビを伴ってコウソンタン将軍の方に近づくと
『我々の勝利でよろしいですかね?』
幾分遠慮がちな言い方だが、恐らく婆ちゃんの「ヒャッホ~」状態を見て引いている感じだろう…
『勝鬨を上げて終わりにしましょう』
俺がそう提案すると
『では』
と応え
『ユウ州の精鋭達よ。この地より赤頭巾は一掃された』
『ここに我々の勝利を宣言する!』
コウソンタン将軍が宣言すると
『『『『『オオォォォ~』』』』』
歓声が上がり兵士達の表情にも安堵の色がみえる。
味方の勝鬨に気が付いたのか、もう狩りには飽きたのかは分からないが、遠くから婆ちゃんもこちらに引き返して来た。
『チョウ妃殿!』
コウソンタン将軍が大声で婆ちゃんを呼んでいる。
先勝の言葉が出るのかと思っていたら、魔法障壁の解除のお願いだったようだ。
本来なら魔法障壁の一部を解除して敵を掃討する作戦だったが、魔法障壁を解除する事無く婆ちゃん一人で右翼を掃討してしまったらしい。
まぁ最後は微妙な空気に包まれたが、当初の予定通りユウ州から赤頭巾を一掃する事には成功出来たので結果オーライだな。
多分…
次回投稿予定【2月7日】




