平凡に苦慮
其の34
『カンウ殿。噂に違わぬ見事な槍さばきです』
笑顔のコウソンタン将軍が近寄ってきた。
『これで「ダイキン」解放への第一段階は成功ですな』
作戦が見事に決まりご満悦のコウソンタン将軍だが、今日の戦いは如何に戦力を温存して勝つかが重要だったので俺としては少し不満が残る内容だった。
と言うのも赤頭巾の中に事前の情報に無かった獣人の兵士がいて、こちらの兵士数十人を相手に無双を繰り広げたからだ。
「テイエンシ」を討ち取った後、俺が獣人を相手するまでに戦死者こそ出てはいないが重軽傷者が30人程になっていた。
完璧な情報収集を行った訳では無かったが、今回のようなイレギュラーに対応するのが遅れたら作戦全体に支障を期たす結果にもなりかねない教訓となったからだ。
『幸い明日以降の作戦に支障が出るような被害は出ませんでしたが、今日のような楽な戦いとはならないはず』
『もう一度気を引き締める必要がありますな』
俺のコウソンタン将軍との温度差に
『おっおう。そうであるな』
とコウソンタン将軍が慌てて態度を改めていたところにシュウソウからの「念話」が届き、砦の制圧は無事に完了したとのことだった。
次は投降した赤頭巾の兵士達の処遇だが、武装解除してるとは言え即解放する訳にはいかないのは当然だ。
事前の軍義では、投降した兵士は100人程度のグループに別けて監視するところまでの取り決めであったが、予想していたより投降兵はかなり多く、怪我人を含めると約7000人程になっていた。
投降兵の多さから所詮は元農民が大半の赤頭巾の士気の低さは伺われたのだが、7000人の投降兵を5000人で監視するだけでも厄介だ。
それにこの後に「ダイキン」攻略の一戦を控えている為、監視役の兵士は出来るだけ少なくしたい。
投降兵を別の場所に移送するにしても時間を掛けることは出来ない。
予想外の事態に俺が悩んでいると、リュウビが近寄って来て
『この者達は殿のお仲間になるのかしら?』
と笑顔で話し掛けてきた。
リュウビの笑顔は殺伐とした戦場には不似合いだったが、そんな笑顔のリュウビを見た赤頭巾の投降兵やユウ州軍の兵士達からは今迄と違ったざわめきが起こっている。
この異世界において、女性が戦場に出る事自体はそれほど珍しくも無く、赤頭巾の投降兵にも女性兵士は居たのだが、それが超絶美女だと話しは違うようだ。
『そうなれば、楽だがそうもいくまい』
俺が苦笑いで答えると
『あら?どうして?』
『もう降参しているなら許してあげて、仲良くしたら良いのじゃなくて?』
なんとも子供の理屈のようなリュウビの言い分に隣に居たコウソンタン将軍が
『仲間にして直ぐに裏切られたらもう戦どころではありますまい』
と真正面から正論を答えたのだが
『そんな悪い人達には見えませんけどね…』
『少なくとも私に悪意を向けている方はいませんけどね』
と笑顔を投降兵に振り撒くリュウビにコウソンタン将軍も苦笑いするしかなかった。
そんなやり取りをしているとリョウ君と大将のシバ導士がやって来た。
『カンウ殿。大勝ではないか』
『この分なら「ダイキン」解放も間違いないの』
と初戦の勝利に少し興奮気味のシバ導士だったが
『投降兵の数が予想より多いようですね』
と冷静に状況を判断するリョウ君の言葉に
『投降兵など適当な数まで殺してしまえば良いではないか』
『どうせこのまま解放する訳にはいかぬのだからその方が楽であろう?』
などと一軍の大将の言葉とは到底思えない発言に一同は絶句した。
このシバ導士はコウソンタン将軍が言う通りの人物で間違い無さそうである。
リュウビはそんな言葉に敏感に反応し、俺の後ろに隠れてしまった。
『シバ殿。そんなことをしたら今後ユウ州を取り返したとしても治めることが出来なくなります』
少し語尾を強めたコウソンタン将軍の言葉に
『ふん。そんなことが心配なら最初から投降など許さず殲滅したら良かったろうに』
などと言う有り様だ。
そんな俺達のやり取りを見ていた赤頭巾の投降兵ばかりでなくユウ州軍の兵士も苦々しい顔付きでシバ導士を見ている。
地方の州とは言え一軍を任された人物がこの程度の考えしか出ない導士である。
俺はリョウ君が婆ちゃんに弟子入りを懇願した日を思い出した。
ユウ州で修行をして並みの導士になった悪しき前例が目の前に居たのだ。
このような有り様ではリョウ君の志しを成し遂げるのは先ず不可能であろう。
リョウ君の先見性に改めて感心した。
シバ導士の考えは論外として捕虜の扱いについて苦慮していると、今作戦の総立案者が馬に乗ってようやく登場だ。
次回投稿予定【11月25日】




