平凡な悪魔
其の3
全身が濃い紫色で身長は2m近い。
目はあるが、切れ長で瞳の部分が赤。
鼻は低くうっすらと形がある程度。
口は横に長く、薄い唇は瞳と同じ赤。
耳は縦に細長い。
髪の毛が一切無い頭からは角のようなモノが2本突き出している。
腕は長めで膝下ぐらいまであるようだ。
屈強な胸板。
太く長い脚。
背中からは翼のようなモノも生えている。
昔読んだ本か何かで「悪者は目が赤い」なんてセリフを思い出したが、現実に目が赤い大男と対峙すると、あながち本当だったのかもしれない。
俺は瞬時に気を唯一の武器になり得る薪割り用のナタに流す。
俺の発勁ではこんな大男には効果が望めないと判断したからである。
なんとか時間を稼ぎ死ななければ、婆ちゃんがすぐに駆け付けてくれるだろうとも考えた。
しかし
異様な殺気を放つ悪魔(仮)は俺と対峙したまま動こうとはしない。
身長差約40cm
まさに大人と子供の対峙だが、もしかして悪魔(仮)は俺にビビってる?
確かにこの絶体絶命とも思える状況だが、俺に恐怖の感情は薄い。
以前に襲われた「牙狼」も今では俺1人で狩りの対象だ。
それだけこの7年間で俺は生きる力を身に付けていると確信があったからだ。
まぁこのまま対峙も俺にとっては好都合なので、婆ちゃん早く来てくれないかな?なんて考えた瞬間、悪魔(仮)が素早い踏み込みから長い手を活かして俺に襲い掛かってきた。
『ヤバっ』
油断を誘ってた?
咄嗟に気を流したナタで悪魔(仮)の攻撃を凌いだが、そのままの勢いで今度は蹴りが飛んで来る。
俺は腕に気を集め身体の前でクロスし、なんとか防御をしたが体格差によって派手に後方へと跳ばされた。
『痛ッ』
背中から木にぶつかったが、骨までは大丈夫そうだった。
体勢を戻し悪魔(仮)に対峙しようとした瞬間、前方から巨大な火の玉が俺に迫る。
悪魔(仮)が放った火炎系の魔法に対し、体の正面全体に気を集め、気の障壁で凌ぐつもりだったのだが、予想以上の火力で気の障壁が突破され全身が炎に包まれる。
『アッチチチッ』
俺は転がりながら体の炎をなんとか消したが、全身火傷の重症だった。
このままでは…
そんな感情を分かったかのように、悪魔(仮)が猛烈な勢いで俺に向かってきた。
全身火傷で思うように体が動かない。
せめてもの防御に体中の気を全身に流した時だった。
火傷でただれた皮膚の隙間から光が溢れ、それが全身を被うような感覚。
ただれた皮膚がぼろぼろと剥がれ、焦げた髪の毛が抜け落ちた痕から新しい髪の毛がどんどん伸びていった。
まるで全身が急激に成長するような不思議な感覚が終わると、俺に襲い掛かってきた悪魔(仮)の長い腕が鞭のようにしなって俺を身体に突き刺さる。
ん?
痛く無い?
突き刺さったかと思った悪魔(仮)の腕は俺の胸に当たってるだけ。
傷一つ付いて無い。
悪魔(仮)を見ると、ギョっとした様子の赤い瞳と目が合った。
どうやら本気だった様子。
至近距離からの蹴りが俺の腹に飛んできたが、また脚が腹に当たっているだけ。
当然痛みも無い。
ん~?
どうなってる?
俺は久しぶりに絶賛混乱中に陥った。
その間悪魔(仮)から蹴りや突きが至近距離から繰り返し放たれるが、やはり痛みは無い。
次の瞬間、悪魔(仮)から猛烈な炎が放たれて俺を襲う。
熱く…無い。
ん~?
悪魔(仮)は俺の異常な様子に後退りを始める。
全ての攻撃が効かないと判断し逃げるのかな?
俺との距離を取った悪魔(仮)に向けて発勁を一発放ってみた。
『バフゥゥ~』
脚に発勁が当たると塵のように悪魔(仮)の脚が消し飛んだ。
『あっ』
思わずやっちまった的な言葉に悪魔(仮)が俺を睨んできた。
脚は徐々に再生するようだがその間は動きが鈍い。
俺は飛んで逃げるのかと思ったが、悪魔(仮)はこちらを睨んだままだ。
飛ばないなら今のうちにと、薪割り用のナタを拾い上げ悪魔(仮)の翼のようなモノを切り落とそうと振りかぶった瞬間、ナタの歯の部分が光に被われ巨大化し、そのまま悪魔(仮)の半身をまた塵のように消し飛ばす。
『あっ』
またやっちまった的な言葉が出た。
悪魔(仮)は身体の半分だけになり、フラフラとしながら俺を見ると
『コウサン』
そう言って地面に崩れ落ちた。
次回掲載予定 【6月9日】